第3話 月曜は過ぎ去り火曜がやってくる

「じゃあね。来夢くん、また来週。ぜったい会おうね」


スッ。


らいとは俺の部屋の押し入れを開けた。


そして、押し入れに入ると、最後にニコッと笑っていた。


押し入れが閉まった。


「……」


俺はガランとした部屋を見ていた。


1日しか一緒にいなかったけど、なんだかポッカリ穴が空いた気がした。


「また来週か」


そう呟いて俺はとりあえず風呂に入りに行くことにした。


シャワーだけ浴びて風呂から出た。


両親は既に寝ているらしくて俺の分だけ食事が置かれていた。


「そういえば、らいとのやつ飯食ってなかったよな」


もしかして押し入れを開けたらあの子に会えるんじゃないかと思った。


押し入れを開けるにも、ちょうどいい理由(夕飯を上げる)があるしな。


でも……


「どうしようかな。鶴の恩返しみたいに本当は開けたら、だめだったりして……」


そんなことを考えると部屋の前で棒立ちしてしまう。


(まあ、いいか)


とりあえず部屋には入ってしまおう。


そう思って俺は部屋を開けた。


「へっ?」


俺は目を丸くした。


女の子がいた。


らいとではなかったけど。


その子は俺を見ると頭を下げた。


「お初にお目にかかるでござる」


ポニーテールに学園の制服を着た女がいた。


正座していて、左側には長い刀を床に置いていた。


「拙者は火曜日のほむらと申す者でござる」


(なんか新キャラおる……)


「貴殿が来夢殿でござるね?」

「そうですけど」


思わず敬語になった。


瞳を閉じてほむらは俺の前で跪いた。


「火曜日がお迎えに上がったでござる。殿」


時計を見た。

日付が変わっていた。


0時30分。

今日は火曜日。


(でも、普通に考えればそうか)


月曜日のらいとが迎えに来たってことは、火曜日の場合、火曜日が迎えに来るんだよな……。


当たり前の話だったわ。


ってことは……だ。


ほむらに質問してみることにした。


「明日は水曜日が、明後日は木曜日が迎えに来るってことか?」


「ござる。水曜日はスイが殿を迎えに来るでござる」


その言葉から察するに、どうやらこれから俺は毎日日替わりで女の子を連れ回すことになるらしい。


これって、ハーレムってやつでいいんだろうか?


いろいろ、思ったけど俺はとりあえず布団の中に入った。


正座してじーっと俺の近くに座っているほむら。


「なにしてんの?」

「ここで主を守るのが拙者の役割。寝込みをいつ襲われるかわからん物でござるからな」


「ちなみにその刀は本物?」

「むろんでござる」


そのときだった。


カサカサカサカサカサカサ。


視界の端でゴキブリが走り回っているのが見えた。


次の瞬間……


ゴキブリの体が細切れになった。


カチン。


それと同時にほむらは納刀していた。


「安心せい。MI NE U TI でござる」


(ぜったい峰打ちの意味分かってないだろ)


「主殿の身を守るのが拙者の役目でござる。用心なさって欲しいでござる」


(ところで、強すぎないか?この女)



寝た気がしなかった。


真剣持った女が気難しい顔でずっと俺の横で正座してるんだもん。


(月曜日の枠がこいつじゃなくて良かったな。週の初めから疲れそうだし)


そう思いながら俺は布団から出た。


だけど……


(顔はけっこーカワイイ系か)


すくっ。


迅速な動きで立ち上がるほむら。

さきほどまでの態度とはガラッと変わってウキウキ顔だった。


「学び舎へ行くでござるか?」


ほむらは両手で一冊ずつスケッチブックを取りだした。


左には【はい】


右には【いいえ】


と書いてあった。


「なにそれ?わざわざ用意したの?」


「もちろんでござる。早く主殿とは仲良くなりとうござるからな。拙者もげーむというやつがやりとうござる」


ワクワクした顔でそう言った。


意外と、かわいい奴かもしれない。


俺は階段を降りながらほむらに聞いた。


「キミらってご飯は食べなくていいの?らいとは食べてなかったけど」

「拙者らは曜日ゆえ、いらんでござる。しかし食べれないということはないでござるよ」


(へぇ、じゃあ食事に行ったりとかっていうのはできるのか)


それから俺は刀に目をやった。


「それ、ちょっと貸してくれない?」


昨日見た限りじゃ確実に真剣である。


本物の剣、男の子なら触ってみたくなるだろう?


ギロリ。


ほむらの目が鋭くなった。


「殿、これは本物でござるよ」


「やっぱり。無理?」


「侍にとって獲物は命の次に大事なもの。そう易々と渡せるものではないでござる」


「ごめん、無理なお願いだったよね」


すっ。


刀を渡してきたほむら。


「ちょっとだけでござるぞ♡主殿は特別でござるからな♡」


あれ?意外とチョロいか?





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