第2話 出席確認はガバガバ

「どこまで着いてくる気だ?」


俺が学園の敷地内に入っても月は俺の横にピッタリとくっついていた。


「どこまででもついて行くよ?私はあなたの月曜日だから」


言ってることは分かるようで分からん。


とにかく俺から離れるつもりがないことは分かる。


俺はそのまま自分のクラスに向かうことにした。


中に入るとクラスの中の視線が俺にぶっ刺さった。

というより月を見ていた。


「かわいい」

「えー?あんな子このクラスにいたっけ?」


そんな会話だった。


俺は自分の席に向かっていった。


「私の席は?さすがにないかな?」


しょんぼりして聞いてきた月。


「俺の横座りなよ。そこの席のやつは退学してる。絶対学校に来ないやつだからそこに座っておけばいい」

「今更だけどバレたりしないかな?」

「クラスメイトはともかく、教師陣は絶対気付かないよ。俺らの名前も顔も覚えてないから」


この学園は生徒数が膨大であり、教師は生徒の顔をほとんど覚えていない。

ぶっちゃけ制服さえ着てて、顔が年相応なら誰でも入れるレベルのガバガバ警備。


ほっと胸をなでおろしている月。


「ここまで来といて今更すぎるだろその反応は」


おかしくなってきて思わず軽く「ふっ」と笑ってしまった。


そんな会話をしていた時だった。


ザッ、ザッ。


女が歩いてきた。


顔を上げると、そこにいたのは委員長だった。


「来夢くん?。その子との関係は?」

「俺が聞きたい。こいつはいったいなんなんだろうな」

「どういうこと?」


月が答えた。


「私は月曜日の月って言うのよろしくね」

「月曜日のらいと?」


理解に苦しむって感じの表情をしてた。


さすがに委員長に同情したくなったけど。

それでも一応らいとの肩も持つ。


「まぁ、害のないやつだから放っておいてやってくれないか?それに学園の制服も持ってるわけだし。今更帰れって言うのも遅いだろ?」


「うーん、いいけど、不純異性交遊は禁止だからね?分かってるよね?学園のルールくらい」

「俺がこの子とそんなことしてるように見えるのか?俺がこの子の立場なら俺みたいな陰キャは選ばないよ」


肩を竦めて答えると委員長は


「……なことないよ」


みたいなこと呟いてた。


「なんか言った?」


「なにも言ってない。とにかく異性交友は禁止だからね。当学園の生徒として規律ある生活を」


そう言うと自分の席に戻っていった。


「お硬いやつだよなぁ」



結局らいとの存在を怪訝に思った先生はいなかった。


出席確認も出席カードと呼ばれるもので済ますだけだからだ。気づくわけもない。


とは言え生徒の方は違うようだった。


らいとのほうを見てコソコソ話している奴らは結構な数目立った。


「あんな子いたっけ?」

「クラスにいるってことはいたんだろ。つか、かわいいから細かいことはどうでもい」

「しかし、かわいいよなぁ」


この日はずーっとそんな会話が聞こえてた。

でも、こいつらともお別れである。


待ちに待った放課後がやってきた。


「ったく、やっと月曜も終わりか」


そう呟くとらいとが俺を見てきた。


「月曜日はきらい?」

「1週間で一番きらい。ちなみに一番好きなのは金曜日」

「私のことは?」

「どうだろうな。そもそもキミはなんなわけ?」

「さっきから言ってるけど私は月曜日だよ?」


????。


なんだろう。


月曜日の擬人化とでも思えばいいのか?


そう思いながら帰る準備をしていると


「よっ。来夢」


田中がやってきた。


ガッと肩を組んでくる。


「俺にも可愛い子紹介してくれよ〜このこの〜」


「悪いが俺には友達もいないのは知ってるだろ?紹介できねーよ」


「とか言って裏ではずこばこやってんだろ?このヤリチンくん」


らいとが聞いてきた。


「ずこばこってなに?やりちんってなにー?」


俺は軽く田中の顎をアッパーで殴った。


「よけいなことを言うな」


「ぐべっ、おけ。おけっ」


大袈裟にリアクションしてから田中はらいとに目を向けた。


「君は明日もくるの?今まで見たことない気がするけど」


首を横に振るらいと。


「私はあしたは来ないよ」

「そか。それは残念だなー君みたいな可愛い子が来てくれたら眼福なんだがなぁ〜」


そう言って田中は教室を出ていった。

おそらく、部活にでも行ったのだろう。


もちろん、俺は部活には参加していないが。


「らいと、俺達も帰るぞ」


「うん」


俺が教室から廊下に出ようとした瞬間……。


(入口の横に人が立ってるのか)


横を見るとそこには委員長が立ってた。


待ち伏せてたのだろうか?


「来夢くん、言いたいことがあるの」


「手早く頼むよ?」


「明日はその子連れてこないでほしい。この学園の生徒じゃないし」


「うん、私は明日はこないよ」


らいとの返事を聞いて委員長は安心していたようだった。


「それは良かったわ。来夢くんも注意してね。それだけだから」


そう言って教室の中に入っていった委員長。


俺はそれを見送ってから帰ることにした。




家に帰ると俺は部屋に直行。


両親はまだ帰ってきていなかった。


部屋に入ると俺はゲームを起動した。


「じーっ」


らいとが俺の事を見ていた。


別にこの子に悪い、とか思ったわけじゃないけど。


「やるか?」

「やりたいっ」


俺はコントローラーを1つ貸した。


タイトルは……【大乱闘……】


それを見てやっぱり俺はゲームを終了した。


「えぇ?なんでぇ?」


「これはちょっとギスギスしそうだから。配管工のおっさんが土管に入るゲームにしよっか」


ゲームを起動し直した。


カチャカチャ。


「おぉっ、このおじさん、太ってるのにすっごい身軽だね」


「らいと。あの甲羅のやつ倒して」


「どうやって倒すのー?」


「踏みつけるんだよ。ぷにょって」


「うわっ!ほんとに倒せたー」


そんなふうに俺とらいとの月曜日の夜が過ぎていった。


なんというか、久々に楽しい時間が過ごせた。


時刻は夜0時前くらいになってた。


突然すっ、と立ち上がるらいと。


「ごめんね。来夢くん、私もう帰らなきゃ」

「月曜日終わるから?」

「うん。私がいられるの月曜日の間だけだから」

「でも帰るってどこに?」


って聞いてから思った。


「そういえば朝はどこからこの部屋に入ってきた?家の鍵は全部閉まってたのに」


「そこだよ?」


らいとが指さしたのは押し入れだった。


まるでドラえもんみたいなやつだな。

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