第17話 新ミッションの指令



「それはないよ。EDENは人を使うけど、真意は伝えないのがやり口だからね」



 EDENって卑怯だな。それって、自分たちのしっぽはつかませないってことだろ。



「ただ、コレは試作段階って感じだね」


「試作段階?」



 おれは首をかしげた。



「そう。クラスの半分以上が、発熱などの体調不良で休んだんだよね?」


「うん」


「今回の状況を分析すると、脳に刺激を与えすぎていることが原因だろうね」


「脳に刺激?」


「そう。脳がオーバーヒートを起こしたんだ。だから回復するために、体が本能的に『休む』を選択してるんだろう」


「それでみんな休みになったんだ」


「おそらく、この新しいドリルを一生懸命やった子どもほど、休んでいるんじゃないかな」



 そうか……。

 じゃあ、手島を見返してやろうとしていた夢人は、一生懸命ドリルをやってんだろうな。

 夢人のことを思うと、悔しくなってきた。

 ふと視線を感じると、五朗のおじさんがじっとおれを見つめていた。



「な、何だよ……」


「おじさんはかなしい」


「なんでだよ!?」


「志音は一生懸命じゃなかったんだねー?」


「で、でも、今回ばかりはおれの行動が正しいじゃん!」


「今回はね。ふだん、こんなに勉強していないかと思うと……ジュニアスパイは知識も知能も重要なんだよ?」


「わ、わかってる」


「俺が直々に勉強をみようか?」



 ひぃ、やめてーっ!

 五朗のおじさんは基本スパルタだから、どんな勉強をやらされるか、想像もしたくない。



「怜音にみてもらうから大丈夫!」


「遠慮しなくていいんだよ?」


「おじさんに遠慮なんかしないし! そ、そうだ、このことを怜音に伝えないと」


「それはそうだ」



 五朗のおじさんはおどけて言ってみせたけど、すげーニヤニヤしている。


 うーん、これは……。

 見逃してもらっているうちに、何とかした方がよさそうだ。

 それは怜音にまた頼むとして。


 おれはテレパシーを送るために、意識を集中し、怜音に呼びかけた。



『怜音、怜音。応答せよ』


『こちら怜音。志音、どうした? 家に帰ってるはずだろ?』



 おれが下校する前に、怜音に学級閉鎖のことを伝えたんだ。



『ごめん授業中に。もう家だよ。五朗のおじさんと一緒に、新しい算数ドリルについて調べてたんだ』


『新しい算数ドリル? それって、二組限定のヤツ?』


『うん』



 五朗のおじさんと調べてわかったことについて、おれは怜音に話した。



『ヤベーな、ソレ』


『だろ?』


『今、そのドリルは一人一人が持ってるのかよ?』


『うん。だから、今からでも問題を解いていけば、ロボット化は進む』


『テスト用紙は? 新しい算数ドリルは、テストも必要なんだろ?』


『テスト用紙は、たぶん先生が持ってると思う』



 あ、そっか!

 新しい算数ドリルとテスト用紙は、二つで一つだ。

 ドリルはみんなが持っているから回収できない。


 だけど、テスト用紙は先生が持っているハズだ。

 それを盗めば、ロボット化を遅らせることができるかも。それに……、



「おじさん、例えばテスト用紙を解析して、プログラムを破壊することはできるの?」



 意識を一時的にそらして、五朗のおじさんに話しかける。



「もちろん。ドリルとテスト用紙が一つでも手元にあればできるよ」


「マジで?」


「みんなに配布されているドリルのプログラムも、一気に破壊できるようになると思うし」


「おじさん、すげー」


「余裕でしょ」



 五朗のおじさんがドヤ顔をみせる。

 いつもならウザいけど、こんな時はありがたい。

 さすが、自他ともに認める超一流の仕事人だ。



「テスト用紙を盗まなきゃだね」



 五朗のおじさんと目を合わすと、おじさんがこくりとうなずいた。



「志音、怜音。お前たちにミッションだ。新しい算数ドリルのテスト用紙を回収すること。いいね?」


「了解」



 CREOの監督官・神木五朗から指令がでた。ミッション遂行は絶対だ。



『怜音、ミッションが出た』


『了解。いつ行く?』


『早い方がいいと思う。今日の夜に行きたい』



 五朗のおじさんに確認すると、ゴーサインが出た。



『怜音、ミッションは今日の夜だ』


『了解』



 怜音は返事をすると、テレパシーを切って授業に戻っていった。

 怜音が帰ってきたら、すぐにミッションの準備を始めなきゃだな。



「けれど、何かできすぎてる気がするね」



 五朗のおじさんが、あごに手を当てて言った。



「どういうこと?」


「怪盗ノットにドリルを奪わせて、新しい算数ドリルを子どもたちに与える。EDENは最初からそれを計画をしていた、って考えられないかい?」


「まさか」


「ありえない話ではないでしょ。門司が現れたのも、門司が双子を見逃したのも、この考え方だったらつじつまが合う」


「そんな……」


「門司がEDENから命令を受けて実行したのだとすると、十中八九、双子がジュニアスパイだと知っている」



 アイツ、知ってたっていうのかよ……。

 おれはごくりとつばを飲みこんだ。



「門司は桁違いの実力者だよ。今度出会ったらただではすまないだろう」


「ただではすまない……」


「今回は危険なミッションだ。くれぐれも気をつけるようにね」



 五朗のおじさんの真剣な眼差しに、拳をぎゅっと握りしめて、うなずいた。



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