第18話 危険なミッション



『予告状:ダイはダイでも、みんなが頭を使って答えようとするダイってなーんだ?』



 今夜は短期決戦で行く。怜音と二人でそう決めた。

 予告状も慌てて警察へ送って、怪盗ノットとしての準備はできた。


 そして、すっかり夜になったころ。

 小学校の近くにあるマンションの屋上で、おれたち双子は待機していた。

 おれたちは小学校に、またまた侵入することになった。

 七つ道具の一つであるガジェットウォッチで、時間を確認する。



「怜音、もうすぐ八時だ」



 今夜は雲が空をおおっていて、月が陰っていた。



「学校に侵入したら、オレはまっすぐ職員室へ行きたい」


「わかった。おれが先に侵入して、警官を誘導するよ」


「頼む」



 互いに目を合わせて、うなずきあう。



「ミッションスタート!」



 ホバージェットにスイッチを入れて、体を浮かせる。

 運動場を目指して、スピードを全開にした。



「警察のみなさーん!!」



 おれは大声で叫んだ。

 すると、校舎にいたらしい警官たちが窓から身を乗り出して、おれを次々と指さした。



「お、お前は!!」



 さらに、ほかの警官たちが、うじゃうじゃと運動場に集まってきた。

 ギャラリーが多いと、燃えるよな!

 おれはわざと速度を落とさず、その中心にシュタッ、と着地した。



「わぁあっ!!」



 ドタッ、ドサッ。

 おれの大胆不敵な登場に、警官たちが何人も尻もちをついた。

 その舞台が整った中央で、羽織った黒のジャケットをひるがえした。



「パンパカパーン! 神出鬼没で変幻自在、怪盗ノット参上!!」



 拳を突き上げ、ポーズを決めた。

 決まった! いつやっても気持ちがいい!



「現れたな、怪盗ノット!」



 ドタバタと最後に現れたのは大泉刑事だった。

 今日、愛菜はいない。

 愛菜も学校を休んでいた。まだ体調が回復してないんだろう。



「またまた同じ場所に現れやがって」


「おれも想定外だったよ」


「今日は何がターゲットだ!?」



 おれに対して、堂々とビシッと指さした。



「ええ!? 予告状を送っておいたと思うんだけど」


「そういうのは、愛菜の仕事だ。私じゃない」


「ええーー!?」



 ナニソレ、驚きなんですけど!

 警察の仕事を、放棄してんじゃないの!?



「マジで言ってる!?」


「マジも大マジだ」



 うわぁ、逆にやりにくいよ。

 大泉刑事がすがすがしく言い切った。



「んじゃ、わかんないだったら、勝手にいただくまで」


「お前ら、怪盗ノットを捕まえろ!」



 俺を取り囲んでいる警官たちが、一斉に飛び出した。

 おっと!

 ヒュンッ、とジャンプして、ホバージェットの勢いを借りて、上空へ飛び出した。

 いやいや、そんなカンタンに捕まらないって。

 そんなので捕まったら、コントじゃん。



「怪盗ノット、下りてこーい!」


「怪盗ノット、ひきょうだぞ!」



 見下ろすと、警官たちが口々に叫んでいる。

 すげー熱烈に呼んでるなー。

 そんなに熱烈なら、期待に応えなくちゃっ。

 おれはホバージェットの出力を最大にして、地上へビューンッ、と猛スピードで下りた。



「どわああっ!」



 警官たちの集団を切りさく。

 まるで海が割れたみたいに、集団がぱっかり二つに割れた。



「危ないだろ!」


「スピード違反だ!」


「捕まえれるもんなら、捕まえたらいいじゃんっ」



 あっかんべー、とあおってやる。

 すると、警官たちがイラっとして、おれに突進してきた。

 よしよし、その調子。


 おれはあくまで誘導する役割。

 怜音が職員室に侵入できるように、多くの警官を引きつけないと。


 おれは運動場で低空飛行をしながら、縦横無尽に逃げ回る。

 お、警官がもっと増えた。校舎で警備していた警官も、こっちに来たのかな。

 それは好都合っ。


 おれは意識を集中して、怜音にテレパシーを送る。



『怜音、怜音。応答せよ』


『こちら怜音』


『怜音、うじゃうじゃいた警官を運動場に引きつけた!』


『了解。職員室に侵入する』


『了解』



 テレパシーがプツンと切れて、おれはさらに飛び回った。

 怜音が職員室に侵入するのは、五分もかからないだろう。

 おれも後で合流するとして。

 そろそろ運動場も飽きちゃったから、違うところで鬼ごっこしたいな。



「待てー!」


「止まれー!」



 追いかけてくる警官たちを、今度は塀の近くにある遊具まで誘導する。



「そっちは逃げ道がないぞ!」


「あきらめるんだな!」



 警官たちが口々に叫んで、こちらに駆けてくる。

 ぎりぎりまで引きつけて、ぱっと正面を向いた。

 ニッと笑うと、警官たちが目を丸くした。



「よっと!」



 地面に向って、思いっきり黒のジャケットを羽ばたかせた。

 とたんに、ぶわりと砂ぼこりが高く舞い上がる。



「え!? ゴホゴホっ!」


「なんじゃ、コホン、こりゃ!?」



 砂ぼこりに巻き込まれた警官たちが、パニックになった。

 どんなもんだい!

 カンタン煙幕のできあがり~っ。


 警官たちが砂ぼこりに気を取られている間、おれは上空へ飛び、まっしぐらに体育館の屋根へ向かう。



「怪盗ノットが体育館へ逃げるぞ!!」



 砂ぼこりの被害に合わなかった警官が、おれを追ってくる。

 ついてきてる、ついてきてる。


 タッ、と体育館の屋根に着地する。

 そして、警官たちの動きをしっかりと見てから、すっとしゃがんだ。

 そのまま、猫のようにシュタッ、と隣にある校舎に飛び移った。



「……よし、気づかれてないな」



 今ごろ、おれが体育館にいると思って、警官たちは集まっているんだろう。

 鬼ごっこは警官さんたちだけで、楽しんでもらおっと。



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