第6話 算数のテスト
ぐぬぬぬ。これは、ヤバイ。
受け取ったテストの解答用紙を持つ手が、ぷるぷるとふるえていた。
六時間目は広瀬先生が言った通り、教室で算数のテストが返却された。
「神木さん。もうちょっとがんばりましょう」
教卓にいた広瀬先生が、おれに声をかける。
おれは呆然としながら、自分の席へ歩いた。
おれのテスト用紙に赤ペンで書かれているのは、百点満点中、三十五点。
何回見ても、三十五点。
マジか。これは怜音に叱られる案件だぞ。
どうしよう、どうやって言いわけしようか。
ゼロを増やして、三百五十点とか言ってみる?
……いや、アイツ完全にバカにするだろ。
おれが頭を悩ませていると、先に返却されていた手島が、高野のいる席でさわいでいた。
「高野ー、お前、五十五点ってヤバイな。オレは八十点だぜ」
「さ、算数は苦手なんだ……」
「え、さっきの体育もひどかったけど、お前、勉強もできないのかよ!」
手島とその取り巻きのヤツらが笑いだした。
とたんに高野が真っ赤になって、下を向いた。
アイツら、また高野のことをからかいやがって!
「手島、言いすぎだぞ。高野がかわいそうだろっ」
手島はクラスでちょっとしたボス格のヤツだ。
すぐにマウントをとってこようとする。
だから、おれは気に入らないことはハッキリ言ってやる。
「はあ? 事実を言っただけだぜ。そんなお前は何点だったんだよ?」
「え」
一瞬うろたえてしまったおれの手元から、手島はすっとテスト用紙を抜き取った。
「神木、高野よりも点数悪いじゃん! ヤバイの通り越して、ドン引き!」
手島たちはたちまちげらげらと笑い出した。
くっそ、言い返したいけど、言い返せない。
「神木はテストの点数悪くても、親いないし、叱られなくていいよな。うらやましいぜ!」
手島がニヤニヤしながら言うと、取り巻き立ちもいいよなー、と同調する。
「今、親のことなんて関係ないだろ!」
おれはぎゅっと拳を握り締めた。
おれの両親はいない。
父さんは幼いころに母さんと離婚したからいない。
母さんはおれたちが小学三年生の時に事件があってから、一緒に暮らせなくなった。
五朗のおじさんが保護者だけど……おれの家族は、怜音ただ一人だ。
「そこ、何さわいでるの!? 席にもどりなさい」
テストを返却し終わったのか、広瀬先生がおれたちのところまで来て、注意をした。
「すみませーん」
適当にあやまったのは手島と取り巻きたちで、それぞれが自分の席に戻った。
当然、反省の色なんてナシ。
おれも席に着くけど、胸のざわざわが取れないでいた。
「はいっ、みなさん聞いてください。来週、算数の再テストをします!」
「またー? なんでーっ!?」
クラスのみんなが目を丸くした。
「だって二組さん、平均点が低かったのよ。学年最下位、悔しいでしょ。元気な二組さんなら、やればできます! がんばりましょう!」
「ええっ、うそーーっ!?」
みんなのブーイングをよそに、広瀬先生がウザイくらい元気に宣言した。
いつもだったら、おれも一緒に騒ぐんだけど、そんな気持ちになれない。
ムスっと顔をしかめていたら、隣の席からつんつんとつつかれた。
「あの、神木くん。お願いがあるんだけど……」
「なんだよ?」
横を向くと、高野がこちらをじっと見ていた。
「……ぼく、手島くんを見返したい。どうしたらいいかな?」
小声でささやかれた高野からのお願いに、おれは目を見開いた。
だって、優しいヤツだけど気弱なところがある高野から、そんなお願いごとをされると思わないじゃん!
おれは思わずニヤリとした。
「いいよ。見返してやろうよ。男ならやってやれだ!」
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