第3話 双子は小学4年生



 ピンポンパンポーン



『お昼の放送の時間です。日之出町小学校放送委員会がお送りします』



 ノリノリな音楽が、教室のスピーカーから流れ出した。

 おれのクラスである四年二組は、ちょうど給食の時間中だ。

 今日の給食は、みんな大好きチキンカレー。もちろん、おれもカレーは大好物。

 するでしょ、おかわり!



『最初にみなさんにお知らせです。昨夜、私たちの小学校に怪盗ノットが現れました。ドッチボールが盗まれてしまったため、しばらくドッチボールはできません』



「ええええええっっ!?」



 クラスのみんなが、目を丸くして叫んだ。



「また怪盗ノットが現れたんだ!」


「今度はドッチボールだって」



 クラスのみんなが、口々に怪盗ノットのことを話し出した。

 そんなみんなをよそに、カレーをおかわりする。

 一口食べれば幸せが広がる。

 はあ、おいしいー! 給食のおばちゃん、ありがとう。



「っていうかさ、怪盗ノットって、いつもヘンテコなものばかり盗むよな」


「そうそう。宝石とか絵とかお宝じゃないんだよな。えんぴつの時もあったし」



 たははー、ヘンテコなものばかり盗んでいるように見えるんだ。

 そりゃそうだよな。

 怪盗、って聞けば、ルパンとかを思い出すから、お宝をイメージするよな。

 でも、おれたち怪盗ノットは、そんなものを盗まないんだよ。

 ちゃーんと、それを盗む理由があるんだ。



「神木くん、怪盗ノットが現れたなんて、びっくりだよね」



 隣の席の高野夢人たかのゆめとが話しかけてきた。



「そうだな」


「大泉さんがすごく悔しそうにしてるよ」



 高野がメガネのつるを触りながら、女子に囲まれた愛菜をじっと見る。

 昨夜対峙した少女探偵は、実は、おれと同じクラスだったりする。



「愛菜ちゃん、昨日お父さんと一緒に警備したんでしょ?」


「怪盗ノットって手強いんだね」


「愛菜ちゃん、大変だったね」


「大変だったけど、くやしいの! パパをいっつも困らせてるから、捕まえたいのに!」



 愛菜がぎりりと奥歯を噛みしめた。

 ふっとおれを見た愛菜は、おれと視線が合うと、ぎっとにらんできた。

 え? おれ、なんでにらまれてんの!?

 にらむべきは怪盗ノットであって、おれじゃないよな!?



「みなさーん、静かにしてください。先生の話を聞いてくださーい」



 ざわつく教室に響いたのは、うちの担任、広瀬明日香ひろせあすか先生の声だ。

 ボブカットが似合う、先生歴三年目の先生。

 いつもウザイくらい元気なのに、今日はしょんぼりとしている。



「放送で流れたように、小学校にドッチボールがありません。残念ですが、五時間目の合同体育のドッチボールは中止です」


「ええっ、うそーーっ!? ありえなーい!!」



 クラスのみんなは大ブーイング。

 広瀬先生がとたんに眉をハの字にした。



「だ、だって仕方がないじゃない! ボールはないんだよ。先生だってやりたかったの!」



 先生が大声で言っても、ブーイングは止まらない。

 広瀬先生はオロオロするばかり。

 しゃーない。

 ここは、おれたちがやるっきゃないでしょ!


 意識を集中し、怜音の顔を思い浮かべる。

 頭の中でイメージした怜音に呼びかけた。



『怜音、怜音。応答せよ』



 すると、おれの呼びかけに応える声が、頭に直接ひびいた。

 テレパシーがつながる。



『こちら怜音。志音、お前のクラス、うるせーよ』


『ごめんごめん。ドッチボールが中止になったからさー、みんな大ブーイング』


『志音のクラスは、いつもさわがしいよな』


『元気いっぱいって言ってくれ。ってかさ、合同体育は怜音のクラスと一緒なんだから、そっちはブーイングが起こらなかったのかよ?』


『お前のクラスほどじゃねーよ』


『あったんじゃん。だからさ、アレやろーよ!』


『アレ?』


『アレだよ、アレ!』


『あー、アレか! 今日のために用意したようなもんだしな。やろうぜ』


『おれ、先生に言うよ!』


『こっちも言っとくな』



 双子って、以心伝心だよなー。

 考えてることはすぐに伝わるんだから。

 すぐに集中を切って、さわがしいままの教室にむかって手を上げた。



「はい、はいはいはいはい、はーいっ!」


「ど、どうしたの。神木さん」



 みんなが急に静かになって、おれに注目した。



「広瀬先生! 五時間目はおれたち双子にまかせてよ!」


「えっ、神木さんたちに!?」



 広瀬先生は目をまん丸くした。



「先生、悪いようにはしないから! ぜったい面白くなると思う!」



 おれはニカっと笑って、自信満々に答えた。








「どうぞー。一人一つずつとってくださーい」



 五時間目の合同体育が、運動場で始まった。

 体操服を着た、一組と二組のクラスのみんなが、おれと怜音の前に並んでいる。

 おれはみんなに声をかけながら、一見普通に見えるスポーツゴーグルを配っていた。



「神木さんたち、一体これから何をするの?」






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