第2話 怪盗、その正体は?



 痛ぇな、このバカ力っ。


 おれはぐぐっと両手を近づける。

 両手首にあるスイッチを、ピコンと押した。

 グン、と空気が震えると、エネルギーがチャージされ、おれの体が熱くなる。



「な、なんだ、熱い!?」



 びっくりした警官の腕を取り、背中を使って、思いっきり投げ飛ばした。



「一本背負いだ!」



 ドターンッ!


 警官の体は宙を浮き、体育館の床に見事に転がった。


 一本! 決まったっ。


 小学生のおれが、なんで大きな体の大人を投げ飛ばせたのかは、理由がある。

 なぜなら、七つ道具の一つである、パワードスーツを身に着けているから!

 パワードスーツは、おれの筋力を二倍にも三倍にもして、大人と対等にやり合えるようになるんだ。


 さてと、逃げなきゃなっ。


 倒れた警官をひょいっと飛び越し、おれは体育館の出入り口へまっしぐらに走った。



「ははは! バカめ、出入り口は封鎖している!」


「袋のネズミだ! 捕まえろ!」


「だから、カンタンには捕まんないんだって」



 パワードスーツのスイッチを、ピコピコと何度か押す。

 グググン、と空気が震え、エネルギーがどんどんチャージされていく。



「いっけーーーー!」



 メリメリメリ、ドガンッ!!


 固く閉じた扉を思いっきり押せば、大きな音を立てて扉が開いた。

 パワードスーツの出力を最大にした結果だ。どんなもんだい!



「う、うそだろ……!?」



 大泉刑事のうろたえた声を背に受けながら、体育館の外へ出た。



「志音!」


「怜音!」



 呼ばれた方向を見れば、体育館の屋根の上で、怜音が待っていた。


 すぐに、ベルトのバックルにあるスイッチを、ピコンと押した。

 腰に装備した、七つ道具の一つであるホバージェットが起動した。

 ウイーン、とうなり声をあげる。

 おれの体がふわりと浮くと、またたく間に、怜音の目の前に到着した。



「おまたせ!」


「ったく、やっときたか」



 おれと顔がそっくりの怜音が、あきれた表情をして、おれを出迎えてくれた。

 おれと同じデザインの黒のジャケットをはためかせ、青色のパワードスーツがちらりと見える。

 ちなみに、おれは赤色なんだ。アツい男って感じだろ?



「待ちなさい、怪盗ノット!」



 宙に浮いているおれたちを見上げて、警官たちと一緒にいる愛菜が叫んだ。



「ミッション完了! それではみなさん、ばーいばーい!」


「待て!」


「逃げるな!」



 警官たちが口々に叫ぶ中、



「怪盗ノット、必ず捕まえてみせるわ!」



 悔しそうな愛菜が、捨てゼリフを口にした。

 ぐんぐん高度を上げれば、豆粒になっていく愛菜に向けて、言葉を返す。



「ま、おれたち、怪盗じゃないけどね」



 この高度では、本人に届かない。



「怪盗とは仮の姿。オレらの正体は……」


「国際共創組織CREOのジュニアスパイだからな」



 怪盗じゃない怪盗。


 それがおれたちの正体だ。



「やっべ、もうすぐ門限の九時だ!」



 小学校の時計を見て、怜音が叫んだ。



「マジか! 急げ!」



 おれたちはホバージェットの出力を最大限に上げて、スピードを出した。

 ここからはスピード勝負だっ。


 小学校をあっという間に離れ、月に照らされ、夜の闇をかける。

 目指すのは、高級マンションの最上階にある、でっかいルーフバルコニーがある部屋。

 時間にして五分。見えた! 



「ただいま!」



 タッ、とルーフバルコニーに降り立つと、おれたちを待ちかまえていた長身の男がいた。

 神木五朗かみきごろう、おれたち双子の伯父さんだ。



「おかえり」


「今、何時!?」


「八時五十分」


「セーフ! おじさん、大丈夫だよな!?」


「ミッションの時はおじさんじゃなくて、師匠ね。ターゲットは入手した?」


「もちろん」



 怜音はベルトに装着していた、手のひらより少し大きめの黒いカプセルを、五朗のおじさんに手渡す。



「門限はギリギリだったけど、ミッションは合格。お疲れ~」



 五朗のおじさんはイケメンといわれる顔で、ばちこんとウインクをした。

 三十代のはずなんだけど、年齢不詳に見える若々しさだ。

 五朗のおじさんはジュニアスパイとして活動する、おれたちの監督官でもある。

 いろんな技術も教えてくれるから、ぜーんぶひっくるめて、師匠だ。



「志音、怜音、明日は学校でしょ? 寝る準備してねー」


「うわっ、早く寝ないと!」


「志音、明日の準備、忘れるなよ」


「怜音、わかってるっての」



 おれたちはそろってリビングの掃き出し窓を開けると、ドタバタとかけだした。


 明日は学校だ。

 ジュニアスパイとして活動しているけど、おれたちは小学四年生なんだ。

 しっかり小学生しなきゃだな!


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