ツインズSPY!!

結田 龍

第1話 怪盗じゃない怪盗、何を盗む?




『予告状:敵か味方かわからなくなって、みんながパニックになるスポーツってなーんだ?』





「しっかり警備しろ! どこから怪盗が現れるか、わからんぞ!」



 大人の男が張り上げる声に、息をつめてじっとする。

 壁にかかっている時計をみると、夜の八時を回っていた。


 今いる場所は、おれ、神木志音かみきしおんが通う小学校の体育館のキャットウォーク。

 視線を下に向けると、そこには黒い制服を着た大人が何人もウロウロしていた。


 警官だ。



「こんな子どもだましな予告状を送ってくるなんて、ふざけてるわ!」



 にししっ……怒ってる怒ってる。


 甲高い声で叫び、チェック柄のケープをひるがえしたのは大泉愛菜おおいずみまなだ。

 少女探偵と呼ばれている愛菜は、おれが出した予告状をにぎりしめ、ぷるぷるとふるえている。



「愛菜、予告状の答えはあってるんだろうな?」



 あ、あれは大泉刑事だ。

 愛菜のお父さんで、パーマヘアとトレンチコートがトレードマークの刑事さん。

 今日も今日とて、おれたちを狙っている。



「パパ、あってるも何もカンタンすぎよ。予告状にわざわざ盗むものを書くんだったら、もっとまともなものを書いてきてほしいわ」


「だったら、答えは?」


「答えはドッチボール。どっち? ってことでしょ。ドッチボールは体育館の倉庫にあるし、ここで警備をしてたら間違いないわ」



 ピンポーン! 正解!

 って、やっぱりカンタンだったか。

 たははー、とおれは首の後ろに手をやった。


 いつも警察に送る予告状には、なぞなぞを書いている。

 なぞなぞ、って考えるのがむずかしいんだよなー。

 一応、おれだってがんばるんだけどさ。


 なぞなぞを作っている時はいつも、双子の兄である、神木怜音かみきれおんがツッコミをいれて……、



『志音、志音。応答せよ』



 あ、この声は……。

 おれの名前を呼ぶ声が、頭に直接ひびいた。

 その声に応えるために、意識を集中する。



『こちら志音。怜音、どうだ? うまくいった?』


『もちろん。無事に盗み出せたぞ、ドッチボール』


『お、さすが怜音!』



 おれは心の中で、手をたたいてよろこんだ。

 双子の兄である怜音とは、テレパシーが使える。

 双子特有の能力ってヤツ。

 だから、インカムがいらないし、通信傍受の心配もないから便利なんだ。



『警官たちは、今どうしてるんだ?』


『みんな体育館にいるよ。倉庫にまだドッチボールがあると思ってるみたいだ』


『マジか。オレが床下の換気口から入って、とっくに盗み出してるっての。志音、警官の誘導ありがとな』


『どういたしまして』



 おれたちの役割は決まっている。

 おれがおとりになって、警官を誘導する役。

 怜音が盗み出す役だ。



『さてと、帰るか。だから志音、その場から静かに……』


『じゃあ、おれ、警察のみなさんにあいさつしてくるな』


『は? おい、ヤメロ! 毎回、毎回余計なことだって、何度言ったら……』



 小言が飛んできそうだったので、集中を切った。

 怜音は時々、ぴーちくぱーちくうるさいんだよな。

 あいさつはコミュニケーションの基本だ。


 さーてと、別れのあいさつをしますか!



「警察のみなさーん!!」


「だ、誰だ!?」



 視線を一身に浴びたおれは、くるんと宙返りをした。

 そして、スタッ、とキャットウォークの手すりに立った。



「パンパカパーン! 神出鬼没で変幻自在、怪盗ノット参上!!」



 羽織った黒のジャケットをひるがえし、拳を突き上げ、ポーズを決める。

 決まった!

 めちゃくちゃ気持ちいい!



「現れたな、怪盗ノット!」



 大泉刑事がお決まりのように吠える。



「ふっふっふ、ターゲットのものはいただいた!」



 ビシッ、とおれが指さした。

 ぽかんとした表情を見せた大泉刑事だったけど、すぐに顔が青ざめた。



「は? そんなはずは……っ」



 大泉刑事が慌てて、体育館の倉庫に走った。

 ガンッ、と倉庫の扉を、力まかせに開け放った。



「な、ないわ……」



 一緒にのぞいた愛菜が、すっからかんとなった倉庫を見て、呆然とした。

 そりゃ、とっくに怜音が盗んだからね。

 誰にも気づかれずに盗み出すなんて、怜音にはおちゃのこさいさい。



「こんなものを盗んで、何が目的だ!?」

「目的もなにも、これが必要だからいただいたまで」



 そう、おれたちにはこれを盗んで、やることがある。



「つ、捕まえろー!」



 大泉刑事が叫ぶと、警官たちが一斉に、おれにむかって走り出した。



「カンタンには捕まんないよ」



 おれは天井にむかって、七つ道具の一つであるワイヤーロープをビュンと投げた。

 先端にステンレス製のフックがついたロープは、鉄梁にシュルシュルと巻きついた。



「あ~、ああ~~っ!」



 やっぱりここは、ターザン風でしょっ。

 叫びながらロープにしがみつき、足を伸ばして、思いっきり警官にむかって滑空した。



「うわあああ!!」



 ドガッ、ガンッ、ドンッ!


 おれがバカ正直にむかってきたもんだから、身構えてなかった警官たちは、おれの蹴りをくらって叫んだ。

 面白いくらいドスンドスン、と尻もちをつくなんて、油断しすぎ!

 ロープをしゅるりと回収していると、



「逮捕だ、怪盗ノット!」



 怒鳴りながら、おれの背後を取った大きな体の警官が、おれの両肩をぐっとつかんだ。



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