第17話

まずは軽く振ってみるか。バットを構えて素振りを行う。

「ブン、ブン」

やはり調子がいいな。現役時代よりいい音がする。

今度は全力で振ってみるか。

「ブォン、ブォン」

明らかに出したことも無い音が聞こえ始めた。

『先輩、私は野球にあまり詳しくないですが、凄い音がしてませんか?』

『そうだな。俺も自分の素振りでこんな音を聞いたのは初めてだ。

まるでメジャーリーガの素振りのような音がする』

明らかにスイングスピードが上がっている。物理的に考えれば

スピードが上がれば威力も増す。


続いてストップウォッチを持って姫美に渡す。

『姫美、悪いけど100mぐらいを走るからタイムを計ってくれ。

俺は高校時代12.9が最高タイムだ。今は本格的に運動もしてないし

オッサンになっているから15秒ぐらいでもいい方だと思う』

タイプウォッチを受け取った姫美が心配そうな顔をしている。

『達人も若くないのだから無理をしては駄目よ。特にアキレス腱には

注意してね。神威と戦う以前にギブス生活は辛いわよ』

『わかっているよ。準備体操はここに来る前に十分に

しているから安心してくれ。俺が走る態勢をしたら、

手を振り下ろすと同時にストップウォッチをスタートしてくれ』

感覚的に100mぐらいみんなから離れる。昭和記念公園は人が多いけど

こういった人気がない場所がところどころにあってホント便利だな。

走る構えをとると、姫美が手を振り下ろす。

俺は普通に走っているが、高校時代に全力で走っていたときより早く感じる。

姫美達の前を走り抜けたので呼吸を整えながら、歩いて戻ってきた。

『タイムどうだった?』

『12.1よ。達人、高校時代もっと早かったのではないの?』

『そんな事はないよ。俺は野球部だったけど12.9でも十分早い方だった。

流石に陸上部やサッカー部のやつらには負けていたけどな。

野球って、100m走より塁間を早く走る技術に特化しているんだよ。

目視で100mぐらい離れたつもりだけど、短かったかな?』

そんな事を言っていると、逆に100m以上遠い気がする。

そもそもこんな木陰の走り難いところのタイムとトラックでのタイムを

比較する方がおかしい。そんな声が聞こえてくる。


『こんな感じで、神威を倒すと体の調子が良くなるから。沢山倒すと

危険が減っていくと思う』

『なんかゲームのレベルアップみたいですね。これなら確かに

危険度は減っていく気がします』

先程まで泣きそうな顔をしていた泉の表情が元に戻る。

『いえ、そこまで楽観的な考えはできないわ。今まではたまたま達人が

倒せる弱い神威しか現れていなかったけれど、この先もそうだとは限らない』

やはり大企業で問題発生時に多角的な面から対処しているだけあるな。

だが姫美の疑問について俺なりの対処方法を考えている。

『姫美、神威の強さ=情報量の多さに比例していると仮説を立てている。

AA社はL2スイッチだったし、一昨日は居酒屋チェーン店の無線LANレベルだ。

そのため、まずは小さな会社や大きな会社の事務所レベルから対応して

いけば良いと考えている。それに強い神威が出てもショワもいるし

神威の強さも見えるから適わないと思ったらすぐに逃げるよ』

心配そうにしている姫美に俺の考え伝えているがまだ納得をしていないようだ。

『それでもやはり達人が対応すべきでは無いと思うわ。あなたは普通の

サラリーマンなのよ』

『確かにそうだが、このまま何もせずに人類が滅ぶなんて目覚めが悪いだろ。

しかもネットワーク機器に潜んでいる状態の神威を見れるのは俺だけだから

俺が現地行かないといけないと思う』

姫美は目をつぶり思考状態に入ってしまった。

こうなると結論がでるまで動かないんだよな。

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