第11話 錦 姫美

わたしの名前はニシキ 姫美ヒメミ35歳。

わたしには幼馴染がいる。そして初恋の相手でもある。

小さい頃は親同士が仲良かったという事もありいつも一緒にいた。

たまに独り言を言って、綺麗な花を渡される時がありビックリするが、

保育園、小学、中学とこの先ずっと一緒にいるものだと思っていた。

それにしてもあの花はいつもどこから持ってきていたのだろう。


転機がおとずれたのは高校を決めるときだった。

中学ぐらいから父親が経営している会社が急激に大きくなり、

高校はセキュリティがしっかりしている女子高にすることになってしまった。

併せて大きな家に引っ越しもしたが、幼馴染の家との交流は昔以上に

頻繁におこなっていた。

ただ、幼馴染の達人は高校の制服を見せたあたりから昔みたいに遠慮なく話して

くれなくなってしまった。

わたしの親や幼馴染の親にも相談したが、思春期特有の病気だから

ほっとけばそのうち元に戻るよと言われたため一旦悩むのを辞めた。

昔みたいに達人と話せるときのために、自分を磨き始めた。

元々スタイルは良かったが、達人の好きな黒髪ロングの手入れや、

おしゃれに気を使ったところ、英蘭の3年連続女王に選ばれてしまった。

達人が見に来た文化祭の時だったためかなり恥ずかしかった。


大学は達人が帝都大に行くことを親から聞いていたため、

英蘭大にはいかず、帝都大に行くことにした。

これでまた達人と一緒に学校に通えると嬉しくなりかなり浮かれてしまった。

そこで人生で初めてかつ、最大の失敗をしてしまった。

時を戻せるなら戻して欲しい。


大学に通い始めて昔みたいに達人と過ごす事ができたが、

それ以上の進展はなかった。

1年の夏休みに入る前に、一般教養のクラスで仲良くなった

アケボノ 昭穂アキホという子を達人に紹介した。

天然爛漫で可愛いらしい子だったが、達人のタイプでない子だったし、

他の女子と比較して私を選んで欲しいなんて浅ましい考えを

してしまったための紹介だった。


達人と昭穂は急激に仲良くなってしまい、夏休みが終わるころには

付き合い初めてしまった。

わたしは呆然としてしまい、ショックで2か月ぐらい短期留学をしてしまった。

留学先では色々な男から誘われたが、達人のことを忘れられないわたしは

いつしか鉄の女なんて言われるようになってしまった。

達人と昭穂の二人の邪魔だけはしないようにと、大学で極力一緒にいることを

避けていたところ、大学3年4月に昭穂が入院したことを知った。

何度もお見舞いにいったが、生気が無くなっていくとはこういうことを

指すのだと思うぐらい日に日に昭穂は弱っていった。

どうも原因不明の病気で余命1か月ということらしい。

わたしが達人に昭穂を紹介さえしなければ、達人はこんな苦しい

気持ちをしなくて済んだのに。

わたしの浅はかな考えが招いた結果に後悔の日々を過ごした。


そしてその日は訪れた。

達人は大学を休学して昭穂の看病をした。

どうも昭穂の病気は記憶が無くなっていき最後には生命活動に必要な体の記憶も

無くしてしまう難病とのことだった。

当然治療方法などはなく、唯一延命できるのは親しい人が話しかけ

記憶を繋ぎとめておこくとだけ。昭穂は両親の事も体の動かし方も

忘れてしまったが、達人の事だけは最後まで覚えていた。

そのおかげで余命1ヵ月と言われていたが6月を迎えることができた。

その日は達人の誕生日だった。既に全く体は動かず

いつ心臓の動かし方を忘れてしまうかという状態の時に

達人は昭穂と見つめあって会話をしているようだった。

そして終わったのか目をつぶった瞬間に心臓が停止した。

達人は泣かずにまっすぐに昭穂を見つめていた。


その後の大学生活、達人は気丈に振舞っていたが、

絶対に合コンには行かず、女子からの誘いを頑なに断っていた。

そんな状態な達人にわたしも声をかけられずに大学を卒業した。


大学卒業後は親の会社に入社した。

初め周りからコネ入社と揶揄されたが、実力を示したところ

静かになっていった。

また鉄の女は継続しており、どんな男に声をかけられても

まったく靡かない。

たまに達人と一緒に飲むお酒だけがわたしの唯一の生きがいとなっていた。


そんな日々を過ごして気が付けば昭穂の十三回忌が終わった

あたりに達人の働いている会社に一人の女の子が入社したという

話がわたしの耳にも入ってきた。

どうも泉財閥のご令嬢で達人にOJTをするようように総帥自らが

頼みに来たようだ。

少し調べてみると私の後輩で英蘭の女王出身のようだった。

ただ1年生時は候補に上がることも無かったようだが、

2年生、3年生時は他を寄せ付けない圧倒的な支持率で女王になっていた。

なんとなく昭穂を連想させるような周りを元気にさせる天真爛漫さを

もった子だった。

達人も女性から二人きりでの飲みや食事の誘いは断っていたはずなのに、

その後輩からの誘いには気軽に乗っていた。

同じ失敗を2度しない。

今度こそ達人と一緒に充実した人生を過ごすために

泥棒猫の相手を全力ですると心に決めた。

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