第4話 朝の一コマ

 オーディション前全体練習の開始日。早く起きてしまった私はジョギングでもしようかな、と外に出ることにした。合宿所の敷地内であれば自由に使用していいとのことですごく助かる。ギルドにいたころからの習慣で早起きしちゃうし、身体を動かしてないと落ち着かない。外に出て準備運動をしていると後ろから声をかけられた。


「おはよう。やっぱりモナミね。ランニング?」

「K2!おはよう。その通りだよ」

「私もなの。一緒にいい?」

「もちろん!」


 準備運動を終えて一緒に走り出す。K2と一緒に走るなんていつぶりだろう。向こうもそう思ってたみたいだ。


「いつぶりかしらね、貴方と一緒に走るの」

「私もそう思ってた。ギルドにいた頃ぶりくらい?」

「そうよね。長い距離走るといっつも貴方に敵わなかったわ」

「そんなこといいつつK2がバテてるの見たことないよ?」

「モナミに敵わないって言うのが問題なのよ」

「そんなことないと思うけどな。槍同士で戦ったらK2が勝つでしょ」

「そりゃあね!でも剣と槍で戦ったとしたら貴方に負け越してるのよ?」

「ほぼいい勝負だったじゃん」

「勝ち越しを否定はしないのね?」

「否定する方が貴方は嫌でしょ」

「よくわかってるじゃない」

「そりゃあね」


 軽く話しながら合宿所の敷地内をぐるぐる走る。敷地の外に出られないとは言え、同じ景色が延々と続くのは飽きるな、と思っていると。


「おはよ~」

「あら、ノノ」

「後ろにいたの、ノノちゃんだったんだ?おはよう!」


 何週目かに差し掛かってた時にのんびりとした声が聞こえてくる。隣を見るとふわふわと笑うノノちゃんが走っていた。流石は猫の獣人と言うべきなのか、全く足音がしなかった。ちょっと気配はしてたけど探りづらかったしもしかしてノノちゃんって戦闘経験ある子なのかな?


「えへへ~。二人が走ってるのが見えたからね、びっくりさせようと思って静かにきたんだ~」


 びっくりした?した?とわくわくした顔で訊いてくるノノちゃんはやっぱり可愛い。びっくりしたよー足音しなかったし!と言うと少し不服そうにしながらもノノちゃんはえっへん!と胸を張った。


「昨日けーちゃんおどろかそーって思って後ろからこっそり近付いたらね、わっ!ってする前に気付かれちゃったから~。今日は本気出した!」

「けーちゃん?」

「私のことよ」


 K2が少し呆れたような顔でノノちゃんを見ている。


「この子とまさか同室の上にこんなにいたずら好きは思わなかったわ」

「やなの?ノノは嬉しいよ~?」

「嫌じゃないわよ。でも驚かせるのはやめてちょうだい。背後から気配を消して来られると心臓に悪いわ」

「わかった~」


 ノノちゃんは軽く言ってるけどK2の背後を取れる人ってなかなかいないような。もしかしてこの子ものすごく強かったりするんだろうか。


「でも~、もなみんはノノのこと気付いてたよね~?後ろ振り返ってた!」

「ノノちゃんってことまではわからなかったよ?振り返った瞬間には視界から外れてたし」

「それでも!ノノのこと気付くなんて!」


 むーっと頬っぺたを膨らませるノノちゃんにほ申し訳ないけどそんな顔も可愛い。


「当たり前でしょ?モナミは私より索敵能力高いんだから」

「なんでけーちゃんが誇らしげなのさ~」

「そりゃモナミのことは自分のことみたいに嬉しいし」

「仲良しさんだね~」


 にこにこ笑うノノちゃんに笑い返していると、また後ろから話しかけられた。


「モナミちゃん!……と、お友達かしら?みんな早いわね」

「ココさん!おはようございます!」

「モナミのお知り合い?おはようございます」

「おはようございます~」


 ココさんもランニングだったようで、4人で並んで走ることになった。


「初めまして。私はココ・グリーン。モナミちゃんの同室よ」

「同室の方なんですね。私はカレン・ナイトレイ、モナミとは昔馴染みです」

「ノノだよ~。けーちゃんは昨日からお友達!もなみんとここっちは今日からね~」

「ここっち?って、私のことかしら。可愛い呼び名ありがとう、よろしくね、ノノさんにカレンさん」

「もなみん……!ありがとう、ノノちゃん!よろしくね!」

「うんうん~。よろしくだよー!」

「よろしくお願いします」


 ちなみにこの会話は走るペースを全く落とさずに続けている。K2はともかくとしてノノちゃんにココさんも顔色ひとつ変えてないところを見るとやっぱりアイドルを目指す人たちって凄いんだな、と身に沁みる。


「……それにしても貴方達、凄いわね?」


 そんなことを考えていたらココさんが不意に口を開いた。


「私、『Windy』にいた頃から体力には自信があったしメンバーの中で一番持久走も早かったんだけど。私に付いてくるどころか余裕そうじゃない」

「私とモナミは冒険者ギルド出身なんです。体力がないと始まらないから」

「普段から走ってるからですかね?」

「ノノの国ではみんなこれくらい走るよー?」


 三者三様の答えにココさんは目を丸くした後に笑った。


「流石ね!全体練習も楽しみだわ」

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