第2話 スカウトした娘は無能力
「な・に・を・考えてるのよ!」
俺は社長に叱責を受けていた。理由はスカウトしてきた少女……モナミ・サンフィールドのことだ。
「まあなかなか無茶振りだったかなってすこーし反省はしてたのよ。だから成果なしで帰ってきても咎めるつもりもなかった。それが?こともあろうに?成果なし通り越して無能力の子を連れて帰ってくるなんてどういうつもり!?」
「そ……それは……」
社長の鋭い声を聞きながら、俺はモナミと出会った日のことを思い起こしていた。
※
「え、無能力……?」
「はい」
名刺を渡しスカウトを行った俺に対し、モナミは自分が人間族かつ魔法や特殊能力を持たない「無能力」であることを明かした。
「私は生まれつき魔法も使えないし、何か特殊な力を持っているわけでもありません。……だから、芸能界を夢見たこともあったけど一度は諦めたんです」
そういうことか、と俺は納得してしまった。正直モナミの見た目はかなり整っている。オーディションやコンテストに参加すれば業界内で話題になるのでは、というくらいには。しかし現状、アイドルやタレントとして活動しているのは殆どが魔法を使える種族であったり何らかの能力を持っていたりする。無能力者が差別されているのでは決してない。ただ、要求されるパフォーマンスに無能力だと身体がついていかないのだ。ダンスは強靭な身体を持っていたり身体強化魔法であったりを使用することが前提の振り付けで、歌声はより大きく美しく響くことが求められる。自分をよりよく見せることのできるアピールとなる能力はあればあるほど有利だ。今の芸能界では到底無能力の人間がアイドルになれることは考えられない……否、想定されていない。
「……無能力の私に出来るのかなって思いました。今でも思います。それでも、ペーレさんが私をスカウトしてくださった時、凄く嬉しかったんです。私の能力のことを知らない貴方が、このままの私を見て……私なら出来るって思ってくれたんだって感じたから」
考え込んでしまった俺にモナミの言葉は強く響いた。そうだ、俺は。
「貴方の、笑顔が」
「はい」
「窮地にいた私を救ってくれた貴方の存在が、輝いて見えました。……アイドルに最も必要とされるものを、きっとサンフィールドさんは持っています」
「は、はい」
「単身でギルドに登録して活動しているからにはきっと体力もある。魔物から私を助けようと単身飛び出していく度胸もある。……能力がなくても、それを補って余りある力を貴方は持っていると……私は、思います」
「!」
俺の言葉を聞くモナミの目には涙が浮かんでいた。
「ありがとうございます」
涙をそっと拭ってモナミは微笑んだ。そして決意の滲む表情で俺にばっと頭を下げた。
「オーディション、挑戦させてください」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺はモナミと固く握手を交わしたのであった。
※
「ペーレ!聞いてるの!?」
「は、はい!」
「芸能プロダクションは……私たちは夢を売る仕事をしている。それは理解しているわね?」
「はい」
「だからって中途半端に夢を見せろっていう話じゃあないのよ。ただ可愛いってだけで無能力の子が生き残れるほど
「それは」
「それは、何?」
「……無能力であろうとなかろうと、全ての方に言える話です。そして私は、サンフィールドさんは無能力であるという理由でふるい落とされていい存在だとは思いません」
「本気で言っているの?」
「はい」
はあ、と社長は溜息を吐いた。苦悩しているのがわかる。社長は所属している人間のことを、これから所属する人間のことを真っ先に考える人だ。だからこそ悩んでいるのであろう。
「……わかったわ」
「本当ですか!」
「ええ。モナミ・サンフィールドのオーディション参加を認めます。ただし、貴方がスカウトしてきたからと言って特別扱いはしない。無能力者だからといってプログラムにハンデを与えることもしない。あくまでも他の練習生、候補生と同じ条件でスタートラインに立ってもらいます」
「十分です!」
「貴方も審査過程、オーディションプログラム中の指導過程には参加してもらうから……わかっているとは思うけど贔屓なんてしようものなら左遷するわよ」
「当たり前です!」
「よろしい」
にっこりと笑った社長は告げる。
「モナミさんに書類審査の合格を伝えてきなさい。あと、オーディション参加中は寮で生活してもらうことや参加規程その他諸々きちんと伝達すること。了承してもらった上でオーディションに参加してくれると言うのであれば歓迎すると言っていることもね」
「はい!」
「貴方にそれだけ言わせた娘のパフォーマンス、楽しみにしてるわよ」
俺は社長に頭を直角に下げ、社長室を辞するとそのまま駆け出したのであった。
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