第22話
――その頃兄たちは――
「なあ、なんで俺らはこんな所でお茶を飲んでいるんだ?」
チェルニ家次男のシアンドルが頬杖をつきながら疑問を口にする。
「確かにな〜。ここ、めっちゃ遠くて話が聞こえねぇよな! 俺たちも一緒で良いのにな?」
シアンドルの双子の弟のベオルドもお茶と一緒に出された菓子を食べながら、双子の兄に同調する。
そんな弟たちの様子を見ながら長男のフルードリヒは書類を片手に優雅にお茶を飲む。今日のお茶も美味しいと思いながら。
「兄貴、聞いてんのか? どうして俺らはコソコソとこんなに離れた場所でお茶をしているんだよ? 別に母さんたちの所に混ざりに行っても良いだろ?」
「そうだ! 俺たちも話が聞きたいぞ!」
この3人が今いる場所はレイリーアたちのいる場所から離れた庭園の一部である。元からテーブルなどなかった場所なので、使用人たちによってお茶の用意が整えられた。
「ふたりともうるさいよ。いくら離れているとはいえ、あまり大声は出さないように」
フルードリヒは書類を見ていた目を弟たちに向ける。なんだか機嫌が悪そうだと双子の兄弟は声を先ほどより下げて話し始めた。
「ベル。兄貴のあの目は、ものすごく怒っているよな? そんなに俺らうるさかったか?」
「シド。俺もあの目はとても不機嫌な時の目だと思うぞ。そんなに騒いだつもりじゃないから別のことだと思いたいな。兄貴に怒られるのは勘弁してほしいぜ」
双子の兄弟揃って長男を見る。フルードリヒはお茶を飲んでいるが、片手に持っている資料は握りすぎて皺が寄っている。心なしかティーカップを持っている手にも力が入っているように見える。
「あ、兄貴? 一体なんの資料を見ているんだよ。さっきから顔が怖いぞー?」
「ベルの言う通りだぞ兄貴。せっかく美味しいお茶と菓子があるのに、そんなに酷い内容なのか?」
「酷いな」
バッサリ一言で切り捨てられた。弟たちには今度は一瞥もくれずに資料を読み込んでいる。今度は眉間に皺を寄せて。
「おい。ありゃ相当ヤバい案件なのか?」
「俺が知る訳ないだろう」
「だよな。でも何だか俺たちも見なきゃいけない気がするのは、気のせいか?」
「俺もそんな気がしている。でも、兄貴があんなに機嫌の悪くなる資料って一体なんだ?」
兄弟揃ってコソコソと話し合う。
「……見たいか?」
「?!」
資料を読み終わったらしいフルードリヒがふたりに聞く。心なしか、目が座っているし、辺りが冷え込んでいる気がする。
「み、見してくれるんじゃ見たい……かも?」
「お、俺も! 気になっていたんだ、その資料!」
「そうか。なら、まずは椅子をテーブルから少し離しておけ。後、別々に読むのは面倒だから一緒に読むと良い。大声は出すなよ?」
双子はよく分からないまま言われた通りに椅子をテーブルから離した。
「はい、これ」
フルードリヒは資料を双子に手渡した。
「えぇっと、何々? リネルドの今までについて?」
「はあっ? アイツの資料か! そりゃ兄貴の機嫌も悪くなるぜ。もちろん俺たちもな!」
「くれぐれも大声を出して彼方にバレるなよ?」
「「応!!」」
フルードリヒは新しいお茶のおかわりを使用人に頼む。可愛い妹が思った以上の扱いを受けていて怒りが込み上げてくる。いっそのこと今すぐにでもリネルドのことを殴りに行きたいが、話し合いは当主たちに任せている。
ちらり、双子の弟たちを見る。普段の元気な様子とは違い、真剣な表情で資料を読み進めている。時折同時に眉をひそめたりしながら読み進めていて、自分と同じく機嫌が悪くなっていっているのが分かる。
「「あのクソ野郎がっ!!」」
「気持ちは同じだが、うるさいよ」
「「でも兄貴っ!」」
「分かっている。可愛い妹を侮辱したんだし、タダでは済まさないよ」
「だよな!」
「さすが兄貴だぜ!」
「ありがとう。ふたりも協力が必要な時には手伝ってほしいな?」
「「任せろ!!」」
双子は怒りのあまり立ち上がって倒していた椅子を元の位置に戻しながら、フルードリヒと同じようにお茶のおかわりを使用人に頼む。
お茶のおかわりを飲む3人の周りは、先ほどよりも冷え切った空気が流れていた。
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