第21話

「婚約をしたら普通、男性側から女性にプレゼントを贈るのが我が国の慣わしですが……」


 そう。我が国では貴族家で婚約が決まった場合、1年に1回だけでも女性側にプレゼントを贈ることが慣わしなの。金銭的に負担をかけてはいけないから、値段は安価な物でも良い。ただし、自分の婚約者の為に自らが選んだ物をプレゼントするの。直接手渡しで! 物が大きくて、あるいは大量で直接渡せない場合はメッセージカードを渡すのが暗黙の了解よ。資金的に本当に無理な場合もね。


 裕福な家門では1年に1回ではなく、複数回プレゼントを贈ることがあるみたいだけどね。グラン家は我が家が支援をしている家門であるし、貧しくはないけれど裕福とは言えないわね。それよりも……。


「私は婚約が決定してから今までリネルドからプレゼントを受け取ったことがありません。そして、メッセージカードも今まで1回も受け取ったことはありません」


「ゔっ!」


「「えっ?!」」


 やっぱり驚くわよね。婚約してからもう10年は軽く経っているもの! その間まっっったく、安物のアクセサリー1つも貰ったことなんてないわ。1回もね! 多分、我が家からこの慣わしの為にも普段とは別にリネルドに資金援助をしているはずだし、お金がなくてプレゼントが出来ないなんてありえないわ。例えお金がなくてもメッセージカード1つ渡せば良いのにそれすらないなんて!


「待ってくれ。我が家からプレゼントを贈る用に資金を渡していたはずだが……」


「「ええ。私たちも一緒に確認しました」」


 やっぱりお父様は資金援助をしていたわね。お母様たちもそれを確認している。グラン夫妻は良い人たちだし、娘に良い物を贈ってくれって思ったのよね?


「はい。しっかりとプレゼント用の資金は受け取りましたし、リネルドに渡しています」


「リネルドはプレゼントを贈ったと言っていたのに……っ!」


 グラン夫妻が困惑した表情でリネルドのことを見る。リネルドは顔を青くさせているわね。


 婚約者から婚約者へプレゼントを贈るこの慣わしでは、何を贈ったかを聞くのはいけないことなの。普段のデートとかで贈ったプレゼントについては聞いても話しても良いけれど、ひとりで直接プレゼントを選ぶこれに関しては特別なことだから、例え実の家族でも貰った物やあげた物については聞かない話さないのが決まりだから、リネルドが嘘をついても気付かなかったのね。


「私でも、ハンゼットから1年に1回はプレゼントを貰うのに! チェルニ家当主は資金援助をされたって言うし、グラン家はそれを受け取っている。なのに1回もプレゼントを贈っていないって、どういうことなのっ!? メッセージカードすら渡していないなんて!」


「ヘルミーネ様が言うには、プレゼントを贈ったと言っていたみたいだな。どういうことだ?」


 マルグリットとハンゼットのグリンゼ夫妻が厳しくリネルドを問い詰める。ハンゼットは慣わし以外でも積極的にプレゼントを贈っているものね。マルグリットに似合いそうな○○があるからお金が貯まったら買うって話を何回聞いたことか!


「娘に贈っていないということは、受け取った資金はきちんと残っているね? では使っていないということは全額回収しよう」


「それは……っ」


「何か問題でも?」


「いや、えっと……」


「お父様。資金の全額回収はすぐには無理だと思いますわ」


 ちらり、リネルドを見る。相変わらず顔色は悪いけれど私には関係ないわ。このクズに私の人生の中で10数年分無駄にされたわね! 10数年よ10数年! しかもその間1年に1回なのにプレゼントやメッセージカードも一切ない。デートもない! 本当に私の婚約者なの?! って何回思ったことか!


「リア、どういうことかな? 資金の回収がすぐには無理だとは?」


「だって、リネルドはその資金を使ってしまっているはずですし」


「あら。それじゃあ貴方に渡していないだけで、プレゼントは用意していたってことかしら?」


「そっ、その通りです!」


「そんな訳ないでしょう。嘘をつくのはやめなさい」


 お母様。分かっていて聞いていますね? リネルドもすぐにバレる嘘をつくなんて……。 知能が低いわね、どうしてあのおふたりからこんなのが生まれたのかしら?





「プレゼントは買っているみたいですよ? ……私以外に」


 その瞬間、辺りがしんと静まり返った。

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