第16話

 揃ったように振り返られる。ここまで揃った感じの動きができるなんて凄いわね。


「支度に思った以上の時間がかかってしまいました。お久しぶりですね、エドモンド子爵にヘルミーネ様。ようこそ、グリンゼ男爵夫妻」


 今着ているドレスが際立つように、膝から広がる布地部分が綺麗に見えるようにカーテシーをする。少し屈むときにふわりと生地が広がって、このドレス1番のこだわりである、濃い青から段々と薄い青に変わっていく綺麗なグラデーションが見える。


 ドレスは淑女の武器でもある。ただただ綺麗なドレスを着ているだけではなくて、どのようにすれば美しく見えるのかを考えなくてはならない。


 私たちが着ているドレスって、社交に関わりがあるのよね。布地の種類とか、どこの国の産地がいいかとか新しい技術が生まれたとか今の流行は何か。ドレスだけに言えることではないけれど。


 私はあまり社交はしないのでお母様たちから聞いた話だけれど。それにしても……。


「あの?」


 実はさっきから返事が返ってこない。お父様たちからも!


 (私は何かしてしまったのかしら? どうしてみんな何も言わないの?)


 とても不安になる。もしかして時間がかかりすぎた? それともタイミングが悪かったのかしら? どんどん不安になってしまう。


「だいじょうぶですよ! お姉様。みんなわたくしとおなじで、うつくしいお姉様にみとれているんです!」


 少し泣きそうになっていると、ルルがぎゅっと手を握ってくれた。小さいけれどなんだか安心する手ね。


「そうだとも! 自慢の娘がさらに美しくなっていて驚いてしまったんだ。不安にさせてしまってすまない、リア」


 そう言ってお父様は優しく抱きしめてくれた。よかった、私が何かをしてしまった訳ではなくて。


「リア、私もごめんなさいね。あまりにも綺麗にドレスを見せてくれるから。貴方にも、ドレスにも思わず見とれてしまったわ!」


「私もそうよ。ドレスの見せ方がいいわね」


 お母様にミラベル様も褒めてくださる。照れくさいけれど、嬉しいわ。


「髪色を戻したんだね。輝く綺麗なストロベリーブロンドの髪を見て、妻とまるで天使のようだと話していたのを思い出すよ。今は女神様かな?」


「ええ、ええ。初めて会った日を思い出します。挨拶が遅れてしまってごめんなさい、レイリーアさん」


「な、なんだか大袈裟ですよ? でも、自慢の髪なんです。褒められてとても嬉しいですわ」


 ストロベリーブロンドの髪は私の自慢でもある。今まで赤くしていたのを久しぶりに本来の色に戻した。そういえば、髪の手入れをしてくれる子たちが大喜びだったわね。髪型もね、前はくるくる巻いて固定だったし……。


「あの……」


「あら、ハンゼット。お久しぶりね? 元気だったかしら?」


「はい、挨拶が遅くなりました。お久しぶりです、レイリーア様」


 実はグリンゼ男爵家の三男であるハンゼットとは顔見知りである。主に領地経営に関しての話をしていたわ。


「ハンゼット、そちらがいつも話してくれる貴方の妻かしら?」


 世間話をするときに彼の妻の話をたっぷりと聞いていたから会えるのを楽しみにしていたのよね。聞いていた通り、とても可愛らしい方ね!


「その通りです。マール、こちらへ」


「ええ。初めましてハンゼットの妻、マルグリットと申します。お会いできて嬉しいです! あなた? いつも話しているって、変なことは言っていないわよね?」


「大丈夫だよ。変なことなんて言っていないさ!」


「ええ、ハンゼットは変なことなんて話していないわ。安心して?」


「そうなんですね、安心しました」


 彼が話していたのはマルグリットの自慢話。妻のここが可愛いって話をあまりにもにこにこしながらするので、私もなんだか楽しくなって話を聞いていたわ。愛妻家なのよね、ハンゼットは。


「リアとルルも揃ったことだし、お菓子も出そうか」


 そう言ってお父様が合図を送ると、すぐにお菓子が出された。彩も美しく、味も美味しい。相変わらず素晴らしい腕前だわ、我が家の料理人は!


「お姉様、おいしいですね!」


「ええ、とても」


 先ほど食べた菓子と違う種類が出されている。細やかな気遣いが嬉しいわ。


 その後しばらくみんなで美味しいお菓子を堪能した。話をするのは美味しいお菓子を食べてからでもいいわよね?





 何か忘れている気がするのは、私の気のせいかしら?

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