第15話
「婚約なら、もう破棄しましたよ?」
リネルドがそう言ったとたん、シーンと周りが静まり返る。グラン夫妻とグリンゼ夫妻は顔を青ざめさせて、今にも倒れてしまいそうである。
「リネルド君。破棄とはどういうことかな? この婚約は、そちらのグラン家からどうしてもと頼まれて結んだものなんだが? 白紙や解消でもなく破棄とは……。それに、娘の婚約関係の書類は私が持っているし、私は破棄の手続きをしていない。だから婚約は破棄をされてはいないはずなんだが?」
内心穏やかではないがそれを表には出さずにレオルドは言う。こんな残念なやつを婚約者にして申し訳ないと娘に思いながら。
「えっ! そうなんですか?!」
こちらはレイリーアの想像通り、言っただけで婚約が破棄をされていると思っていたらしい。
「うちが婚約を頼んだって……? そちらからではなく?」
「そのことも知らなかったのか?」
娘から話は聞いていたがこの婚約を結ぶことになった経緯すらリネルドが知らないとは思わなかった。こちらから婚約を持ちかけたと思われていたとは頭が痛い。
本当に、どうしてこんなにも善良な夫婦からコレが生まれたのか不思議でならないとレオルドたちは思う。
「いや、その……。俺のことが好きだからレイリーアがわがままを言って無理やり婚約をしたのかと思っていました」
再び静まり返る。チェルニ家の面々からは冷気が漂ってきている気さえする。
「あら、まあ。笑えない冗談を言うのね?」
おっとりと、フランネが言う。手には力が入り、持っている扇子がミシミシといっている。
「ええ、本当にね?」
冷たくミラベルも言う。気さくな雰囲気は今はもう消え去っている。
「全くだ」
リネルドがここまで酷かったとは。いつもこれの対応をしていたのかとレオルドは娘に深く同情する。
「「申し訳ありません、チェルニ夫妻!」」
そろって頭を下げる4人。相変わらずリネルドは何がなんだか分かっていない。
「この馬鹿! 当事者のお前が頭を下げないでどうする!」
見かねたハンゼットが無理やりリネルドに頭を下げさせる。どうしてこんなにも馬鹿なのかと思いながら。
「うわっ! おい! この俺に何をするんだ!」
「頭を下げて謝ること位はしろよ! この馬鹿が!」
「何だと! 分家が!」
リネルドとハンゼットが喧嘩に発展しそうになる。すると凜とした声がその場に響く。
「おやめなさい!」
先程まで今にも倒れそうだったリネルドの母親、ヘルミーネが力強い口調でふたりを止めた。そしてヘルミーネは再び深く頭を下げる。
「度々の無礼、申し訳ありません。当事者だからと連れてまいりましたがこんなにも皆様に不快な思いをさせるとは」
妻の言葉を受けて、エドモンドも頭を下げて言う。少しだけ、悲しそうに……。
「これほどの失態をさらして罰を与えないわけにはまいりません。我が息子リネルド・グランを、今この瞬間を持って廃嫡とします。この決定は、絶対です。取り消されることはないでしょう」
「はあっ?!」
「息子は廃嫡されましたので、御息女のレイリーア様との婚約は、こちらの勝手ながら白紙とさせて頂きたく……」
「「もちろん、いいでしょう」」
「こちらから無理を言って結んでくださった婚約ですのに。さらにこちらの勝手で白紙としたことで、レイリーア様の時間を無駄にしてしまいました。本当に申し訳ありません。非は当然、こちらにあります」
そう言って、グラン夫妻はさらに頭を下げる。リネルドはまだ何が起こっているのか理解ができていないようで、口をパクパクと開閉して、視線も彷徨わせている。すると……。
「ご機嫌よう。遅くなってしまい、申し訳ありません」
話し合いの主役が集まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。