第12話

 チェルニ伯爵邸の庭園。美しく、色とりどりの瑞々しい花々は見る者の心を明るくする。この生き生きとした花々を見ることができるのは、チェルニ家の庭師たちが心を込めて花を育てている証拠である。


 いつもなら和やかな雰囲気でお茶会は行われるが、今日は楽しむ為ではないのでピリッとした雰囲気である。


 普段はすでにお菓子やお茶が用意をされているが、今日はまだ何もテーブルの上には用意をされてはいなかった。


「茶会の招待状を送ってきたくせに、用意がまだ終わっていないとは……礼儀知らずな家だな」


 このお茶会は自分の両親が、緊急の話し合いをする為に頼んで行われていることをサッパリと忘れて、ボソッとリネルドは文句を言う。


「お前っ……!」


「何てことを……っ!」


 直ぐ近くにいたグリンゼ夫妻は、リネルドの直ぐ近くにいたので、その暴言を聞き取って憤る。


 そしてそれが少し離れていて暴言が聞こえなかったグラン夫妻にも、息子がまた何かをやらかしたことに気付かせた。


「リネルド。お前はこの茶会が一体どういうものか、全く理解していないようだな」


 大きく肩を落とし、エドモンドは言った。ひとり息子への失望が隠せない、暗い声音だ。


「いつもの茶会だと思っているのなら、大間違いだ。これはチェルニ家の方々が我々のために与えて下さった、大事な時間なんだからな」


 仕事が忙しく、息子のことをあまり見れていなかったとエドモンドは反省をする。ここに来るまでの息子の酷さを間近で見て、最近囁かれるようになって聞こえてきた息子の噂話は、真偽の分からない話として聞き流していたが、事実だろうと思わざるを得ない。信じたくはないが、この様子では事実だろう。


 息子の言動を見て、噂話よりも実際はもっと酷かったのではないかとさえ思う。


 妻であるヘルミーネは顔を青くして、今にも倒れてしまいそうである。


「ヘルミーネ、大丈夫かい?」


「あなた……。わたくしはどこで、あの子の教育を間違えてしまったのでしょう?」


 ヘルミーネは夫に寄りかかり、鼻を啜る。


「いつもの茶会じゃないって……、母さんも一体どうしたんだよ? 俺の教育を間違えたって! 俺はこんなにも立派に育っているじゃないですか!?」


 自分が馬鹿にされたと思い、リネルドはへそを曲げる。そこにチェルニ家の面々がやってきた。


「すまない。待たせたね」


「ご機嫌よう。会えて嬉しいわ」


 チェルニ家当主レオルドはすまなそうに、だが堂々とした姿で。その妻で正妻のフランネはおっとりと、彼らを見る。特に、リネルドをきつい眼差しで見つめる。相手に分からない程度に見るのは、社交で慣れたものである。


「無理を言ったのはこちらです。急なことにも関わらず、茶会に招待してくださりありがとうございます」


「その通りです。私たちは、もてなされる資格などないというのに……っ!」


 堪えきれず、ヘルミーネは泣き崩れる。夫のエドモンドと同じく、ここに来るまでの息子の言動を見て、信じたくなかったことが現実であると嫌でも気づく。


「ヘルミーネ、大丈夫よ。さあ お茶を飲んで落ち着いて」


 フランネがヘルミーネの涙をハンカチで拭いながら、お茶を用意するように使用人たちに合図を送る。


「あなた達も、こちらへどうぞ」


 にこやかに言っているが、顔には逃さないと書かれていそうなミラベルも、残りの面々を席に誘う。


 客人の一番最初の挨拶を任されていた彼女は、挨拶を交わしてからずっと近くで、彼らの様子を間近で見ていた。当然、リネルドの暴言も聞いているし、彼から失礼な物言いもされている。




 今、お茶会という名の話し合いが始まった。

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