第9話

 ――リネルド視点――


 俺には昔から真面目でお堅くて地味な婚約者がいる。地味というのは見た目ではなくて、雰囲気? というのだろうか。アイツは見た目だけを見れば派手なヤツだ。貴族としての品格がないのか? 俺と違って。見た目を派手にしても地味と思うのは、それぐらい魅力のかけらもない者ってことなのだろう。


 そんなアイツが俺の婚約者にされた。なんて可哀想なんだ、俺は! 他の子息たちにはまあまあ? 可愛い婚約者がいるのにっ……!


 アイツはいつものように俺の家の領地について話をしてくる。俺が継いで治めるのに、出しゃばるなとイライラする。何様のつもりだ! 結婚しても家の事には一切手を出させないし、別の場所の小さな家にでも追い出してやるつもりだ。


 俺の両親は俺たちの結婚後はしばらく国内を旅行するらしい。戻ってくる時に家に戻してやり、余計なことは話すなと釘を刺せばいいか。見た目と反対で大人しいからな、きっと俺の言うことを聞くだろう。


 可愛くない婚約者と結婚をするのは優秀すぎる俺に神の与えた試練だと思う。完璧すぎると皆の反感を買うからな。少しくらい欠点を与えなければと思われたのだろう。俺は優秀だからな!


 アイツとの婚約を破棄したいと考えていたある日、神は俺を憐れんで望んでいた可愛い女を与えてくれた。道ですれ違う時にぶつかってしまったのが俺の可愛い恋人、メイプリルとの出会いである。


 栗毛のふわふわとした、可愛らしい雰囲気のメリルは隣にいるだけで癒される。思わずプレゼントを送りたくなり、送ったら大層喜んでくれた。アイツ用の経費? だったが、一度も使ったことがないしメリルの喜ぶ顔が見れるので、気にしないことにした。


 会うたびにもう、お互いが運命の相手だと思った。だから邪魔なアイツと早く婚約破棄をすることにした!


「レイリーア、お前との婚約を今! ここで破棄する!」


 そんなことを言われていないと嘘をつかれないように、わざわざ人がいる時間を選んで大衆の面前で言ってやった。これで言われていないという言い訳はできないだろう。証言者がこんなにも居るのだからな! メリルの肩を抱きながら、いかに彼女といると癒されるかを話してやる。アイツに新しい婚約者ができる様に、俺からのヒントだ。婚約破棄された令嬢は傷がつくと言われているが、アイツのことだから何も問題なんて無いだろう。


 今まで溜まっていた言葉を言ってすっきりした。アイツとメリルとの違いを言っているうちに、思わずアイツのことを忘れてメリルとの甘い時間を過ごした。



 婚約破棄をしてやった後の、良くある両家でのお茶会。最後になるから参加しろということか? 両親はアイツのことを気に入っていたからな。俺と違って見る目がない両親だと思う。優秀な俺が生まれて、本当にこの家は良かったな。


 何故か分家の男もひとりいるが、アイツの新しい婚約者になるのか? でも見たことない女も一緒だな。連れのメイドか? それにして、もわざわざこちらから新しい婚約者を用意してやるなんてしなくてもいいのにな。


 後で父さんに確認をしたら無言で首を振られた。なんだ、違うのか?



「ああ、メリルに会いたい」


 いつものつまらない茶会よりも、可愛いメリルとの時間を過ごしたい。ふわふわとした彼女は本当に見ているだけで癒される。……誰かとは違ってな!



 茶会中は可愛いメリルとのことを考えて過ごそう、そう思っていた。まさか、あんなことになるとは思わなかったんだ……。

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