第8話

「今日、グラン家夫妻たちが来る」

 

 お父様はそう言った。元々定期的に両家でお茶会をしているが、今回ばかりはアレのせいで楽しい茶会にはならないでしょう。


 グラン夫妻には申し訳ないけれど、家の嫡男が起こした不祥事と私への数々の無礼を今日こそは知ってもらわなければ。


 婚約が破談になるかもしれないと、前々から念の為リネルドの無礼の証拠を集めていた。結局は破談ではなく破棄になるが、こちらに非がないことは明らかである。


 相手は子爵家でこちらは伯爵家であり、私の家の方が家格は上である。しかも、チェルニ家は王家にも目を掛けてもらっているし、公爵家にも引けを取らないと言っても過言ではないと言われている家門である。

 

 メイプリルという彼女は男爵家で、子爵家よりも下であり私との家格は言わずもがなである。その私を下に見る……。


 チェルニ家の長女の私を侮辱する。馬鹿たちのする事は大胆ね。彼の両親が本当に巻き込まれて可哀想だわ。


「リア様、ドレスやアクセサリーなどの準備が整いました」


 私の支度を取り仕切るシェイが声をかけてきた。ちなみに普段は華やかな(場所にきちんと合わせた)ドレスだが、今回は清楚な感じのドレスである。どちらかといえば、清楚な方のドレスが私の好みである。


 ある理由から、私は髪色を変えて服装も品を落とさない程度に強めのドレスを着ていた。今回は、本来の姿でお茶会に参加するよう両親に言われている。自分でも久しぶりに見る自分の姿にちょっとだけ、緊張してしまっている。



 ――十数年前――


「リア。悪いが婚約が終わり結婚式を挙げるまで、髪色を変えても良いか?」


「ドレスの色や柄も、少し強めにしたいの」


「? 大丈夫ですわ」


 私の婚約が決まった日の翌日、お父様とお母様に突然そう聞かれた。




 今日私の家と仲の良い、グラン家の1人息子であるリネルド様と婚約をした。私もお父様もお母様たちもあまり乗り気ではなかったが、夫妻にどうしてもといわれてしまったの。なんでも息子さんのリネルド様には子爵領を治める器がないと……。


 私と同じでまだ幼いのにもう器がないと言われてしまうなんて……。成長する姿が見えない?だから私に子爵家を継いでほしい? え?


リネルドがダメなら、分家の優秀な方を養子にとったりすればいいのでは?


 ああ、ひとり息子ですもんね。継がなくても良いから私の伴侶として、子爵領の仕事をして欲しいと……。あれ? でも、私は伯爵家の者。婚約して結婚しても継ぐのは息子さんではないの? 王家にも我が家にも了承をもらった??


 理由はきちんと教えてもらえるのならば、良いですわ。私がどうやって子爵家を継ぐのか、とても気になりますが……。


 ――回想終了――


 まさか、私に子爵領を継いでもらう為に夫妻があそこまでするなんてね。リネルドは子爵家を自分が継ぐわけではないことをきちんと知っているのかしら? ……知らないわよね。



 さて。シェイと侍女たちに全身を磨かれて、私が久しぶりに本来の姿を家族含めて見てもらう機会。落ち着かないけれど、最高に磨かれた私の姿を見てもらいたいわね。

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