第7話

「今日、グラン家夫妻たちが来る」


 お父様がそう言った途端、部屋の中がシーンと静まりかえった。夫妻たちということは、リネルドも来るということだからだろう。


「それではしっっかりと、おもてなしをしなければいけませんね」


 ミラベル様がやけに「しっかりと」の部分を強調して言う。青髪のキリッとした雰囲気で美女の彼女から、冷ややかな空気が流れてくる気がする。彼女は剣術の腕も確かで、双子の剣の腕前はミラベル様譲りだろう。


「そうね。わたくしたちの可愛い娘が公衆の面前で、辱めを受けたのだから」


 お母様がにこやかに言う。笑顔ではあるけれど妙な雰囲気が漂い、お持ちになっている扇がミシミシと音を立てている。


「「「……」」」


 お兄様たちはやけに静かである。私の可愛いルルは……?


「ブツブツ……おぼえていなさい、あのやろう。いままでのお姉様へのぶれい。ぜったいにただじゃおかないんだから」


 あら? うつむいて震えているわ。そうよね、今のお母様たちはちょっと、怖いわ。


「フルール、大丈夫よ。グラン夫妻は人柄が良いし、もしリネルドが何かをしでかしそうでもお兄様たちがしっかりと守ってくれるはずよ?」


 可愛いルルを抱き寄せて、頭を撫でる。すると可愛い笑顔を見せてくれた。もう怖くはなさそうね。


「そうだね。あまりにも目に余りそうだったら、しっかりと『お話』をしよう」


 フルード兄様が言う。いつもは優しい雰囲気だけれど、お母様に似て何だか黒い感じがする。お話とは、一体何を話すのかしら? アレには話をするだけ無駄な気がするけれど。


「「暴力沙汰ならまかせろ。しっかり締めてやるぜ(よ)!」」


 お義兄様たちったら。多分一応、話し合いに来られるのよね? 暴力沙汰にはならないと思うけれど頼もしいわね。


「ふふっ、頼もしいお兄様たちね。これでルルも安心でしょう?」


「お姉様もあんしんですか?」


「ええ、もちろんよ。ルルも居てくれたら、とっても安心ね」


 癒しが欲しいし。イラっとしても、可愛いルルを見たら落ち着きそうで安心しそう。話し合いの場に居ればだけれど……。


「います!ルルがお姉様をおまもりします」


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。それじゃあ何も心配事はないわね。お父様?」


 それまで黙って私たちの様子を見ていたお父様に聞く。話を聞きながら何回も相槌を打っている様子は見えていたけれどね。


「ああ。我が家は優秀だし、全く問題はない。だから話し合いは任せなさい」


 さすが我が家の大黒柱。とても頼もしいわ! 家の者たちが家族も(勿論、この私も含めて)優秀なのは事実なので、それには何も言う事はない。きちんと優秀な実力なのは、既に知られている事である。……リネルドが知っているかは別問題だけれど。


 とりあえず、リネルドのことはどうでも良いけれど、グラン夫妻のことはしっかりとおもてなししなければ……。久しぶりにお会いするし、楽しみね。



「それでは使用人たちも含めて、各自早急に準備をするように!」


 

 お父様の言葉に、使用人含めて全員がそれぞれ準備を始める。私も準備をしなければ。このために集めた証拠があるからね!

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