第5話
一家揃っての夕食後。いつもなら賑やかで楽しい食卓だが、今日は何故かみんな凄みのある笑顔を浮かべて食事をしていた。しかも、無言で。
まだ幼くて可愛いルルでさえも怖い笑顔を浮かべていた。あんな顔もできるのね、初めて知ったわ。
普段家族が団欒するための部屋でさっそく今日、アレから婚約破棄を言われたことを話した。愛人? とイチャイチャしていた事もね。
「「「「殺そう」」」」
お父様とお兄様×3が厳しい顔つきで腕を組み、物騒な言葉を言いだした。
「「あらあら、まあまあ」」
と、お母様たちは扇で口元を隠し微笑んでいる。目はちっとも笑っていませんが? それに何だか冷気が漂っているような?
最後に私がとても可愛がっている妹は……。
「ちっ! あんさつ? じこし? どれがいいかなぁ?」
「ルル! フルール?」
今、なんだか聞こえてはいけない単語が聞こえたような? 最初に舌打ちも聞こえた気が……。
「なあに? お姉様!」
あら可愛い、にっこり笑顔で聞いてくる。さっきのは流石に私の聞き間違いね。可愛い妹は舌打ちなんてしないもの。
「ふふ、私の隣に来る?」
「いきます!」
違うソファーに座っていたルルを隣に呼び、さっき感じてしまった疑念を誤魔化した。可愛いルルは直ぐに私の隣に移動してきた。
「お姉様のおとなり、うれしいです!」
そうやって、にこにこと笑うルルは
癒されるわね。つい頭を撫でてしまったわ。
「ウォッホン」
お父様が咳払いをした。妹の可愛さに現状を忘れてしまっていたわ。
「とりあえず、お父様。婚約は破棄で良いですよね? あちらの有責で」
「当然だ。こちらに非は無いのだから、貰えるものは最大限に貰うように」
お父様がさも当然だという感じで答える。私も同意見である。長年我慢をして婚約をしていたので、お仕置きを頭が砂糖でお花畑な人たちにする予定だ。でも、少し問題が……。
「アレらにはお仕置きは決定ですけど、グラン家には恨みはありませんわ。あの夫妻には、とても良くして頂いたので……」
何故あのやり手で優しい夫妻からあんなポンコツが生まれたのかとても不思議で仕方がない。
そして何故こんなにも、私のことを大切にしてくれている家族のみんながさっさと婚約を白紙にしなかったのかというと、我がチェルニ家がグラン家夫妻のことをとても好ましく思っているからである。
「確かに。あの夫妻の息子はアレだが、ふたりは貴族の中で数少ない人格者だ。自分たちの息子がしでかした無礼を知ったら、自ら爵位の剥奪や降格を国王に願い出るかもしれんな」
お父様が困ったように顎をさする。
「それは我が家だけではなく、この国の損失にも繋がりますわ」
「ええ、私もそう思います」
お母様とミラベル様が悩ましげに言う。私のお母様の名前がフランネで、ミラベル様が側室の方である。
「何かいい案はないか?」
フルードお兄様も眉間に皺を寄せて考え込んでしまっている。
「「全く思いつかないな!」」
元気よく答える双子のお兄様たち。何かを考えることより、身体を動かすことの方が得意だから。頭が悪い訳ではないのだけれど……。
さてどうしようかと家族で頭を悩ませていると、袖口をくいくいっと引かれた。
「ルル? どうしたの」
何故か顔を赤らめて、興奮した状態で可愛い妹は爆弾発言をした。
「アレはすてましょう! お姉様。グラン家にはリネルドというやつは、そんざいしませんわ。かわりにゆうしゅうなものがはいります」
可愛い顔で凄いことを言う妹。でも、伝えたかったことは伝わった。お父様やお母様たち、お兄様たちも妹の言った言葉の意味を察したらしく、頷いている。
「フルールはまだ幼いのに優秀ね」
可愛い妹のお陰で良い案が出そうである。お礼も込めて抱きしめると嬉しそうに笑っている。もう! 可愛いんだから!!
それから妹のお陰で話が進みそうなので、今夜はこれでお開きになった。ルルにご褒美に添い寝を頼まれたので、もちろん一緒に寝たわ。
可愛い寝顔で、今日あった嫌な事も忘れそうね。ルル、ありがとう。お休みなさい、良い夢を見てね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。