第2話

 頭が砂糖で、お花畑な人たちに付き合っていられないので、今回の婚約破棄の件も含めて、さっさと実家に戻り今後のことを確かめましょう。


「私はこれで失礼しますわね。ご機嫌よう」


 ふたりは聞いていないみたいだけれど、挨拶はしてやった。周りに顔見知りもいたし、挨拶もしないで去ったとは思われないでしょう。

 ……何かしらの文句は言われるかも知れないけれど、こっちの知ったことではないわ。


「アレン、シェイ。帰りましょう」


「「はい。お嬢様」」


 アレンとシェイ。このふたりは私の専属執事と専属侍女なの。幼い頃から仕えてくれていて、私の大切な家族でもあるわ。


 デートと誘って? おいて婚約破棄とは。この婚約は先方からどうしても! と、頼みこまれて仕方なく婚約をしたというのに、あのお馬鹿さんは! 彼も愛人? も同じくらい、頭の中が空っぽそうでお似合いだとは思うけれど。


 ああ、まったく無駄な時間を過ごしてしまったわね。婚約破棄は家同士で決められたもので、どうしても破棄したいなら、それぞれの当主に先に話を通すべきではないのかしら? それとも、もうしたのかしら? まあ、していないでしょうね。


「まったく。こちらから婚約破棄を言ってやりたかったのにね」


「その通りです。あんな奴にはお嬢様が勿体ないですもの!」


 うんざりしながら言った言葉に、即座にシェイが答えてくれた。アレンは今、馬車の御者をしてくれている。私の家の使用人はみんな優秀なので。


 馬車に揺られている間に、家の当主であるお父様に話をしなければと思う。口頭での婚約破棄だけれど、もはや私には続ける意味も価値も見当たらない。初めから政略結婚だったが、相手の方に寄り添おうという意思がまったくなかったので、そんな相手に心を配る努力はそうそうに無駄になった。


 体面のためこちらの非が全くないように、言動や行動に十分注意をして過ごしてきたので、あちらの有責で破棄できるでしょう。早く解放されたいわ。


「さて。これからどうしようかしら?」


 まずは公衆の面前で堂々と婚約破棄を宣言した、頭がとてもお花畑な彼に、何か仕返しがしたい。こちらも婚約破棄をしたかったとはいえ、両家の話し合いや婚約解消ではなく、公衆の面前で、しかも大声で破棄を言われては、私の名誉に傷がついたのは否めない。本っ当にむかつくわね!!


 あの野郎、覚えていなさい。これまで我慢してきた鬱憤を晴らしてやるわ!


「とりあえず、帰ってお父様と話をする前に、ゆっくりしたいわね。疲れちゃったわ」


「帰ったらすぐに、リラックス効果のあるお茶の準備をしますね」


「嬉しいわ、お願いね!」


 家に着くまでまだ時間がかかるので、少しだけ寝させてもらうことにした。帰ったらやることが多すぎて、少しでも休んでおきたいからね。

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