良くあるよね? 婚約破棄

エミリー

第1話

「レイリーア、お前との婚約を今! ここで破棄する!」


 それが婚約者に初めてデートに誘われたと思う私、レイリーア・チェルニが待ち合わせ場所に着き、彼に言われた言葉であった。


 ちなみに、この場所へは自分で向かった。もちろん家の馬車で。勝手に約束をしておいて迎えに来ないなんて……。自宅まで迎えに来るのが婚約者ではないかと思うが、彼の言動からして、私は婚約者だとは思われていなかったらしい。まあ、こちらも全く思ってはいなかったが。


 言いたかったことを言い切ったのか、何だかすっきりとした顔で、何故か彼の隣にさも当然のように立っている栗毛のふわふわとした、可愛らしい雰囲気の女の子の肩を抱きながらさらに話を続けた。


「真面目でお堅くて地味なお前とは違って、メイプリルは見ての通り可愛いし、癒される!」


 あらそう。と軽く答えてやりたかったが、私は優しいので我慢した。

 

「そ、そんなことないですよ……。レイリーア様の方がお綺麗だし、可愛いですよ〜」

 

 全くそう思っていない、余裕ぶった顔を隠そうともせずメイプリルは言った。隠そうとしたが、あまりにも演技が下手すぎて隠れていないだけかもしれないが。


「何を言う、メリル! 君とアイツを比べるなんて、そこら辺の石ころと磨かれた宝石みたいなものだぞ!」


「まあ! リネ様ったら。私が石っころって言いたいの? ひどいわ……」


「君が宝石に決まっているだろう! 出会った時から君は光り輝く宝石だったよ!」


「リネ様……。私、照れちゃいますわ!」


 完全にふたりの世界に入ってしまった。つまり私の婚約者(仮)のリネルドは、私のことをそこら辺の石ころと思っており、一応まだ婚約関係のはずなのに、愛人? のメイプリルに自分の愛称を呼ばせているし、彼女の愛称も呼んでいると……。コイツら、どうしてやろうかしら?


 ふたりが甘ったるい世界に入っている間に、私は素早く今後のことをどうするか考えだした。

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