45話・ヴィオラ夫人と王太后陛下


「このような辺境の地に、あなたさまの気を引くようなものがありまして?」


「辺境というからどのような田舎かと思っていたけど、それなりに栄えているのね。空気も新鮮で美味しいし、食べ物も美味しいわ」


 ベネベッタ王太后陛下は、サクラメントが気に入ったと言った。


「離宮での暮らしは窮屈でつまらないわ。わたくしが王妃だった頃は、王宮では華やかな夜会が催されていたし、昼間はお茶会で王都に住む貴族夫人達との交流に勤しんでいたと言うのに」


「それは仕方ありませんわ。夫君であらせられる先代陛下がお亡くなりになられたのですから……」


「分かっているわ。ただ、先王陛下の死は早すぎた」



 ヴィオラ夫人は過去の栄光に縋ってどうなる。今は現王陛下の御世なのだからと言いたかったのだと思う。

 その言葉を遮り、未練たっぷりな様子を王太后陛下はみせた。



「あの人はまだ、したいことがあったのよ。それなのに未だ信じられない思いで──」


「……世の中、理不尽なことは沢山ありますわ」



未練たっぷりな様子の王太后陛下は、ヴィオラ夫人の言葉に「ごめんなさい」と、呟いた。ヴィオラ夫人が本当なら先々王の時代、王妃だったからも知れないことを思い出したのかもしれない。



「もう息子に代替わりしているけど、わたくしの中で気持ちの踏ん切りが付かないというか、納得が行かないというか──」


「それだけ先王陛下のことを愛しておられたのですね」



ヴィオラ夫人は、淡々としていた。身分で言えばベネベッタの方が王太后として上のはずなのに、この場を制しているのはヴィオラ夫人だった。



「でも、それとこれとは別物です。あなたさまは離宮に移られたとは言え、王太后陛下としての立場があります。今回の事は行動が浅慮過ぎますわ。そのせいで離宮に勤める大勢の者達が翻弄されました。彼らはあなたさまの失踪の責任を取り、減俸や解雇されたと聞きました」


「それは仕方ないわ。離宮に勤めている近衛兵達はまともな者がいないのだから」

 ヴィオラ夫人の言葉に、王太后陛下は馬耳東風と言った感じで他人事のように言う。ヴィオラ夫人は深いため息を漏らしたが、王太后陛下の顔をマジマジと見つめた。


「王太后陛下。少しやつれたのでは無いですか?」


「離宮にいると食欲が湧かないの」


「陛下はご心配されていると思うので、先ほど王宮の方には知らせを送りました」

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