44話・つかみ所のない王太后陛下


 お屋敷の応接間へ案内されたベネベッタ夫人一行は、中央の椅子にベネベッタ夫人が座り、その横にアージアが控え、後ろには顎髭の男性が立った。


 二人を従えたベネベッタ夫人は、堂々としたもので、ヴィオラ夫人に連れられて入室したわたしは、呆気にとられた。



「お久しぶりね。ヴィオラさま」


「お久しぶりにございます。王太后陛下」



 ベネベッタ夫人が気軽に声をかけてくる。それに返したヴィオラ夫人の言葉に、わたしは目を剥きそうになった。この御方が王太后陛下? 現国王の母親にして、フィルマンさまの継母?


「今は堅苦しい呼び名は止して」


「そうも参りません。あなたさまはどうしてこちらに?」



 ヴィオラ夫人は、一線を引いた態度を取っていたが、ベネベッタ王太后陛下はそれを良く思っていないようで、子供のようにふて腐れるような顔をした。


 ヴィオラ夫人は、先々代の陛下の王兄と婚約を結んでいたことがある。ベネベッタ王太后と何かしらの繋がりが合ったのかも知れなかった。ヴィオラ夫人は、米神を引き攣らせていた。



「あなたさまが突然、いなくなって離宮では皆が探し回っているのですよ。アージアもアージアです。あなたが付いていながら何故、お止めしなかったのですか?」


「申し訳ありません。ヴィオラさま」


「そんなに怒らないであげて。ヴィオラさま。わたくしが悪いのよ」



 王太后陛下の後ろに控えるアージアは、ヴィオラ夫人の怒りに触れて身を縮めていた。ベネベッタが庇うも、ヴィオラ夫人の火に油を注ぐ形となっただけだった。



「悪いと分かっているのなら、あなたさまも反省して下さい。王太后陛下」


「そんなに怒ると小じわが増えるわよ。ヴィオラさま」


「王太后陛下っ」



 ヴィオラ夫人は、王太后陛下を相手に遠慮のない物言いをしていた。それにも関わらず王太后陛下を始め、誰も止めないと言うことは、それだけヴィオラ夫人は認められている存在であると言うことなのだろう。


 王太后陛下と、ヴィオラ夫人の力関係が見えたような気がする。わたしは下手に口を出さない方が良いと判断して、この場では口を貝のように閉ざすことしか出来なかった。



「あなたさまの身に何かあったらどうするのですか?」


「別に。人間いつかは必ず死ぬし」



 王太后陛下は、あっけらかんとしていた。これがこの国の王太后陛下? 何だろう? ふわふわとしていてつかみ所がない気がする。世間知らずなのか、わざとそう装っているのか分からなかった。



「なぜ、あなたさまはこちらに?」


「昔から秘蹟の地として有名なサクラメントを、一度はこの目で見てみたかったのよ」




 ヴィオラ夫人は、王太后陛下を警戒しているようだった。


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