36話・きみは独りで泣いていた



「落ち込むわたしを救ってくれたのは、フィルマンさまが出てくる恋愛ゲームでした。それはノルベールさんが制作し、わたしの手元に届くようにしてくれていたものだそうで、そのゲームを通してわたしはこちら側の世界のことや、フィルマンさまのことを知りました。ゲームの中に出て来たフィルマンさまはとても素敵で、現実にこんな男性がいたら良いのに……と、いつも夢見ていました。だからこうしてあなたに会えたのが夢みたいで、未だに信じられない気持ちでいっぱいです」


 恋愛ゲームの世界は作られた世界だ。現実とは異なる。恋愛ゲームに登場するようなキャラだから、あくまでもプレイヤーとなる女性達の理想の男性像であり、現実にはあり得ないと思いながらも、ゲームの中のフィルマンに強く惹かれた。


「これが例え、夢だったとしても満足しています」


「夢か。僕は夢で毎晩、きみに会いに行っていたよ」


「えっ?」


 事も無げに言われた言葉に驚くと、彼はこちらの反応を窺うように言った。


「こんな事を言うと、引かれてしまうかも知れないが、僕は夢の中で何度かきみに会っている。実は僕には夢渡りという能力があって、夢を通して他人の夢の中を通る事が出来る」


「恋愛ゲームを通してでは無く、夢の中で?」


「うん。やはり信じられないかな?」


「いえ、疑ってはいません。ただ、驚いたというか、予想も付かないことが次から次へと起こるので……」


 こちらの世界は、わたしがいた世界から見れば夢のような世界だ。魔法使いがいたり、王族がいたり、騎士がいたりする。その上、フィルマンが夢を渡って自分に会っていた? 随分と自分に都合の良い世界だ。頬を抓ってみたら痛かった。


「サクラ?」


「夢なのかなと思って確認です。痛い。夢じゃ無い」


 フィルマンがわたしの行動に驚いていた。頭が変になったのかと思われたかなと思い、自分がフィルマンと会っているのは夢かどうか確かめたのだと言えば、彼は「サクラらしいね」と、微笑んでいた。


「僕はね、初め夢の中で泣いているきみを見つけた。あの頃、きみは独りで泣いていた。その泣き声がせつなすぎて、僕は足を止めて、慰めたくなった」


 フィルマンは、遠くを望むような目をして言った。


「きみはどうして彼女なのか? 彼の隣に並ぶのはなぜ、自分じゃ駄目なのかと嘆き悲しんでいた」


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