35話・わたしの身の上話

「サクラ。ありがとう」


「いいえ。こちらこそ。こちらの世界に呼んで下さってありがとうございます」


「僕はきみについて知りたいな。色々と教えてくれないか?」




 フィルマンはそう言って、わたしのことを聞きたがったので、まずは身の上話から始めた。


わたしは両親と姉の四人家族。姉はわたしより3つ年上で現在30歳。22歳で嫁に行き8歳の甥っ子と、7歳の姪がいる。




 年子で手がかかるとぼやく姉ではあるけれど、わたしにとっては可愛い甥と姪。彼らが帰省する時期には必ず実家に顔を出し、甥と姪に会うのを楽しみにしていた。




 わたしは高校まで実家で暮らしていたが、高校を卒業して就職したのを機に、家から出て一人暮らしを始めた。それには理由があって、当時付き合い始めた彼が大学に進学したので、その後を追うように自分も家を出たのだ。その彼が就職し、週末同棲状態になった。




 彼は時々、「結婚したらこうしたいね、ああしたいね」と、夢を語っていて、当然それは自分との結婚生活を描いているのだろうと思っていたら違った。


 結婚しようか? と、言いながら彼はわたしよりもかなり年下の女性と懇ろな仲となり、付き合いの長かったわたしを切った。




 初めそこまで話すつもりはなかったのに、フィルマンを前にすると何でも話せてしまった。初対面の相手に気まずい話を聞かせてしまったと思っていると、「大丈夫?」と、さりげなくハンカチを差し出された。




 目頭が熱くなってきたのを、彼に悟られてしまったようだ。




「ありがとうございます」


「そんな理不尽な男の為に、きみが泣く必要は無いよ」




 ハンカチを受け取ると、「その男、許せないな」と、フィルマンが自分のことのように憤ってくれた。優しい人だ。




「まだ、その男のこと未練があるのかい?」


「ないです。全然、無いです。これは悔し涙です。わたしが尽くした9年間を返せと思って……」




 あいつが学生の頃も、就職した時も、何かと物入りだと愚痴るし、貧乏学生の身では美容室にも行けない、服も買えない。等と言うから、就職していた自分が貯金を切り崩してまで彼を支えてきた。


それなのに、わたしの買ってあげた服で、わたしの出したお金で外見を磨いて彼は合コンや、ナンパにと勤しんでいたようだ。それを別れた後日、友人らから聞かされてショックを受けたし、恋愛にトラウマを持つようになった。

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