37話・どうしてわたしをこちらの世界に招こうとしたの?


 それはわたしが結婚まで望んでいた彼に振られた頃だ。一応、職場では淡々と仕事をこなし、何食わぬ顔をしながらも、アパートに帰ってきてからは何もする気になれなくて荒れていた。


 独りでいる部屋が無駄に広く感じられて、心寂しく思われる。週末は飲んだくれてどんどんゴミが増え、片付ける気にもなれないでいた。




 一途に彼だけを想い続けていたわたしは彼の裏切りが許せなかったし、彼の心を奪った女性が許せないでいた。彼氏に捨てられた。その現実を受け止めるのが辛すぎた。段々と彼に捨てられた自分は女として魅力に欠け、生きている資格が無いように思われてきて、精神的に追い込まれていた。






──死にたい!






 何度もそう思って毎夜、ナイフを握ったことか。でも、死ねなかった。死ぬ勇気がなかった。不甲斐ない自分に嫌気が差して、悔しくて、悲しくて、辛くて泣き続けた。




 でも、ある時、気が付いた。目が覚めると気持ちが少し安らいでいるような気がしたのだ。良い夢でも見たような気がする。でも、その内容は思い出せなかった。




 それからは少しずつ気持ちが和らいでいき、このままじゃ駄目だと自覚した。週末は掃除に明け暮れ、貯めていたゴミを処分し、家の中がスッキリした頃にあの恋愛ゲームに出会った。




「僕はきみに初めは同情していた。でも、毎晩きみを慰めて色々と話をしていくうちに、きみに笑顔が増えてきて可愛いと思った。そしてその笑顔を守り続けたいと思ったんだよ」




「どうしてフィルマンさまは、わたしをこちらの世界に呼ぼうとしたの?」




「それはきみに直接、会って話がしたいと思った。きみのことをもっと知りたいと思った。迷惑だったかな?」




「いいえ、嬉しいです。わたしもフィルマンさまのこと知りたいと思っていました。会いたいと願っていました」




「僕達はお互いのことが気になっていたようだね」




 彼は握っているわたしの手に唇を当ててきた。彼のその突然の行動に驚いたし、胸がドキリとした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る