22話・ライバルにもならない羽虫
わたしは気になっていたことを訊ねた。
「あのゲームは、こちらの世界をモデルに作ったとアガリーさまは言っていましたが、良く出来ていて感心しました。あのストーリーには結構、泣かされましたよ。フィルマンさまが不憫に思われて仕方なかったです」
「きみがしていたゲームのストーリーは、ほぼ実話だ」
「では、出ている人達もほとんど──」
「本物だ。きみに警戒してほしくて情報を盛り込んでいた」
あのゲームを目の前にいるノルベールが作ったと言うだけで驚きなのに、そこに真実を盛り込むなんてこの国最強魔法使い、恐るべしだ。
「あ。私もちょっとだけ手伝ったのよ。この人を入れた方が良いとか、案を出したの」
何と、ユノも手伝っていた? だから恋愛ゲームの話が出ても平然としていたのか。ヴィオラ夫人は何の事か分からずに困惑していたというのに。
「ゲームには、あなた方夫婦は出て来なかったわね」
「それはあえて削除したの。制作する自分達が登場するのは恥ずかしい気がしたから」
ユノが照れくさそうに言い、その肩をノルベールが抱いていた。仲良し夫婦で羨ましい。じっと見ていたせいか、ノルベールと目が合った。彼は照れ隠しのように一つだけ咳をして言った。
「本当は、俺が異世界召喚をした日、きみはペアーフィールドに現れる予定だった。それなのに何者かが、俺の異世界召喚中に横槍を入れた。そのせいできみは別の場所に飛ばされてしまうことになった」
「それでわたしは、このサクラメントに来る事になったのですね?」
「ああ。きみが記憶喪失になったのは、それが原因だと思う。異世界召喚とは、強力な力で引き寄せられることになる。それを弾き飛ばされたのだから、その反動で頭を強く打ったと思われる」
記憶を失っていた時は、自分が何者か分からなくて毎日が不安だった。でも、記憶を取り戻した今は、心に余裕があるのが感じられる。
「ノルベールさんの、異世界召喚を邪魔した人には心当たりがあるのですか?」
「何となく察している相手はいる」
「ノルベールさんのライバルですか?」
「いや、ライバルにもならない羽虫だ。耳元で煩く騒ぎ立てる」
「まるでハエか、蚊のような存在ですね?」
「その通りだ。煩くて叶わない」
「さすがね。ミュゲさん。適切な表現だわ」
ノルベールの邪魔をする相手は誰か知らないが、ハエや蚊に例えられるぐらい、アガリー夫妻には好かれてはいないようだ。
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