21話・わたしは運が良かった
「こんな時間にごめんなさいね。でも、あなたには伝えておきたいことがあると、ノルが言うから」
「ヴィオラ夫人の前では言えなかったことだ。悪いな」
その晩。夕食後にユノが夫のノルベールと共に、わたしの部屋を訪れた。
「こちらへどうぞ」
わたしに宛がわれている部屋のソファーに二人を促し、わたしは椅子に座った。
「まずはこの世界の異世界召喚から説明したいと思う。この世界で異世界召喚は現在禁止されている。その昔、この国では異世界召喚を頻繁に行って、異世界の情報を収集し、召喚した異世界人を酷使したことがあり、その事で一部の権力者達は断罪され、異世界召喚は相手の許可無く行われる行為で、拉致になると批難された事があった。それから異世界召喚は禁忌とされていたが、今回は特例として、俺は陛下から一度だけの許可を得て行った。ところがそのことを良く思わない一派がいて、俺が異世界召喚の術を行った時にほころびが出た。その結果、きみは記憶を失い、このサクラメントに転移することになってしまった。それについては大変申し訳なかったと思っている。きみの身を危険に晒してしまって済まなかった」
ノルベールはソファーから立ち上がり、深く頭を下げた。ユノも妻としてそれに従い、一緒に頭を下げてきた。
「あなたを不安にさせてしまってごめんなさい。すみませんでした」
「あの、二人とも頭を上げて下さい。わたしは何とも思っていないので」
いきなり謝罪されるとは思わなかったので驚いた。自分も当初は記憶を失っていたし、自分が何者か分からない事への不安が大きくて、そう言う目に合わせた誰かのことなんて、気にする余裕もなかった。
二人が部屋を訪ねて来た時に、ヴィオラ夫人の前では言えない話と言ったが、この異世界召喚のことに違いなかった。今の説明にもあったとおり、異世界召喚は禁止されている行為だ。だからわたしが異世界人だと知って、ヴィオラ夫人は驚いたのだ。
「それに飛ばされたところがここで良かったです。皆さん、優しいですし、良い人ばかりで恵まれました。わたしは何も嫌な目にあっていませんし、気にしないで下さい。謝罪は入りませんよ」
わたしは運が良かったと思う。もしも非人道的な人に見つかっていたら、今頃奴隷扱いされていたかもしれないし、人買いに売られていたかも知れない。そんな非道な目にあうこともなく、こうしてヴィオラに保護されて客分としてお持てなしを受けている。それに対して不満もないし、結果オーライだと考えている。
そう言うとノルベールとユノは安心したようにお互い、顔を見合わせてからソファーに座り直した。
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