20話・ミュゲのままで



「じゃあ、ミュゲさんとはもうこれでお別れになるのかしら? 少し、寂しくなるわね」



 ヴィオラがしんみりとした調子で言った。わたしもこれでヴィオラとお別れになるのかと寂しくなってきた。するとノルベールが渋面を作った。



「その事なのですが、大変申し訳ないのですが、ヴィオラさま。彼女をしばらくこちらで預かってもらえないでしょうか? それと今まで通り彼女のことは、ミュゲと呼んで欲しいのです」



「わたくしは全然、構わないわよ。ミュゲさんはどう?」



「わたしもヴィオラさまとは、まだご一緒したいです。それにこの屋敷にいる皆さんには、ミュゲという名前の方が馴染んでいると思うので、そのままでも抵抗はないです」



「じゃあ、それで決まりね」



  ユノが楽しそうに言う。




「ミュゲさん。後でお部屋に伺ってもいいかしら? 私同じ年頃のお友達がそんなにいないから、私ともお友達になってくれたら嬉しいわ」


「こちらこそよろしくお願い致します」




「ユノったら。あなたは帰宅したばかりだし、ミュゲさんも記憶を取り戻したばかりなのだから無理がないようにね」



 ヴィオラ夫人はそう言いながらも、首を傾げた。



「でも、サクラさんをミュゲさんと呼ぶのには何か事情があるの?」



「それは……、今は明かせませんが、ミュゲさんに悪いようにはしないと誓います」



 ノルベールの言葉に何か察したのか、ヴィオラは「あなたがそう言うのなら分かったわ」と、了承していた。わたしは未だ、自分が異世界に召喚されたという事実に理解が追いつくのがやっとで、そこに深い事情があったとは思いもしなかった。


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