第3話 新たな客人
俺は近くのスーパーで買い物をした後家に帰ってきた。
「ただいま〜」
そう言ってもいつもだったら誰も返事などしてくれない。しかし、今はシャロがいる。
「おぉ、やっと帰ってきたのか。」
この家に誰かがいるだけでなんか違和感を感じるが、別に悪い気がしない。しかも、清楚な黒髪ロング、容姿もとても良い。そこら辺の有名なモデル雑誌に載っていても遜色のない美人さんだ。
しかし、「おい、飯はまだか?そういえばこのポテトチップスとかいうやつすげえ美味いな!これをもっと私に食わせてくれ!」
この自堕落さと、この自分勝手な口調が欠点だ。
周りを見渡せば、俺が綺麗に整理したマンガや本が散らばっていたり、ポテチの袋がそのまま、床にはポテチのクズがこぼれていたりした。
「…………」
俺は呆れて言葉も出ない。
しかし、このままではいけない。俺は深く呼吸したあと口を開く。
「おい、シャロ。これはきちんと片付けてくれよ。」
しかし、シャロは「いやだ。なぜ私が片付けなければならない。」と駄々をこねる。
「俺だって夕飯を作らなければならないし、ていうかお前が散らかしたものなんだから片付けて当たり前だろ!」
「そんなこと知らない!これ以上口を出そうものならこの手で首を跳ね飛ばしてやる!」
(ふっ、人間ごときがこの私に歯向かおうなど100年早いわ!)
勝ちを確信したかのような笑みを浮かべるシャロ。
俺はたしかに死にたくはない。しかし、今後のことを考えるとここで負けてはならない!
「じゃあ俺を殺したとして、夕飯は誰が作る?そのポテチは誰が買う?」
「なっ…!」
「その材料費、家賃、光熱費、水道代を誰が支払う?俺がいなければここに住むことさえできない。」
シャロは何も言い返せずにいた。
力だけで見たらその人間離れをしたシャロのほうが強い。しかし、今は権力が全てだ。
「だからせめて片付けだけはやってくれないか?」
そうシャロに優しく問いかける。
「仕方ない。しかし、その代わり飯とポテトチップスだけは用意してもらう!」
なんか上から目線な気がするがまぁ、これで少し楽にはなるだろう。
どうせシャロは別の世界から来たような奴だ。家から追い出したって行く宛もないだろう。
それに、堕天使だという事実がバレたらシャロがどうなるかわからない。
それなら選択肢はとりあえず家に住まわせるしかないだろう。
そのためにもできる限りシャロにもやれることはやってもらわなければならない。
そうこうしているうちにシャロの片付けが終わり、俺の夕飯もできあがった。
今日は豚肉の生姜焼きと付け合せのキャベツ、そしてインスタントの味噌汁と白いご飯。
そして、二人分の料理を小さなテーブルに置いたあと二人で手を合わせる。
「「いただきます」」
そうして俺達は目の前にある夕飯を食べ始める。
シャロはとても美味しそうに食べてくれる。その顔を見ると作ってよかったと思えてしまう。今まで自分の分しか作ってこなかったからか、なんか不思議な雰囲気に包まれる。
そして俺達は夕飯を食べ終え一段落したあと、ゲームの電源を起動する。
ゲームの起動時間が待ち切れない俺はソワソワしながら待っていると…
「そのゲームとやらはそんなに面白いのか?」
俺の横で見ていたシャロがそんなことを口にだす。
なんだと、天界にはこんな面白いものがなかったのか…俺ならそんな場所、到底耐えられない。
「一回やってみるか?面白いぞ。」
さあ、お前も一緒にゲームの沼へとどっぷり浸かろうじゃないか。
そんな目でシャロに問いかけながら、もう一つのコントローラーを彼女の目の前に差し出す。
「ほぉ、お前がそこまで言うのなら試しにやってみようではないか。」
どうやら乗り気になったようだ。
しかし、誘ってみたはいいものの2人以上でできるゲームが圭人とよくやる対戦型格闘ゲームしかない。このゲームは俺がハマって1日中やり込んだ記憶があり結構強いランク帯までいっている。
そのため初心者のシャロには申し訳ないが俺が一方的に勝ってしまうだろう。まぁ、ゲームは嫌いにはなってほしくないため少しくらい手加減してあげよう。そんな事を考えながらゲームが始まった。
しかし、予想外なことにシャロは飲み込みが凄く早かった。最初は、操作方法が意外と複雑なためキャラの操作に手間取ってはいたが、数回くらいやっているうちに、俺と同格の強さになっていた。
俺の今までの努力で手に入れた強さにものの数十分で追いつかれてしまったことに対して、驚きとそれと俺のプライドに対する謎の喪失感がオレの心に傷をつける。
そんなことにへこんでいると俺の家のチャイムがなる。
こんな時間に誰だろうと思い玄関のドアを開けるとそこには見知らぬ女性が立っていた。
「こんな夜分にすみません。少しお聞きしたいことがあるのですが…」
そう彼女はいい、立て続けにこう言った。
「ここに、天使は来ませんでしたか?」
この言葉には優しい言葉とは裏腹に、何故かゾッと寒気がするような気がした。
そして俺は、「すみません、ここには天使は来ていませんね〜」と言いながら玄関のドアをそっと閉める。しかし、ドアに手を挟み閉ざそうとするのを阻止する。
(何だよこいつ、またやべぇやつに絡まれたんですけど!)
そんなことを思っていると、しびれを切らしたシャロがこっちに来た。
そのドア向こうにいる人の顔を見て驚いた。
「もしかして、ローズか?」
シャロは彼女のことを知っていたみたいだ。
「やはりここに居ましたか。シャロ·スーヴェルト様。」
どうやらこの人はシャロと親しい人なのだろう。
どうやら敵対する気はないのだろうと判断した。
そうして俺はドアノブを握っていた手のちからを緩め、ローズという人物を部屋の中へと入れた。
「いやぁ、探すの大変でしたよ〜。私の探知能力はそこまで高くないのに〜」
羽目を外したかのように軽い口調で話し始めるローズ。
「おいローズ、少し口調が軽くないか?」
そう指摘するシャロ。
「おっと、これは失敬。コホン、ですがシャロ様も随分と…こう…なんというか…変わりましたね…」
「まぁ、堕天使になったからには仕方のないことだ。」
そんな会話を二人が進めていると俺の事についてローズが聞いてきた。
「そういえば、あなたの事について聞いていなかったな。名前は何という?」
「坂月裕也だ。」
俺はそう答える。
「裕也殿、貴方はシャロ様をこの家に匿っていただき感謝する。」
固っ苦しい言葉に動揺する俺だが、そういえば色々と聞きたいことがあったため色々聞いてみることにした。
ローズやシャロからの話によると、意外と天界というものはこの地球と似たようなものだった。
天使も同じように学校や仕事に行き、空腹になれば何かを食べ、眠くなったら寝る。なにか違うといえば思想や差別くらいだろうか。どうやら、天界は堕天使を相当酷く扱っているらしい。
まず堕天使になる理由として、過度なストレスから来るのが主な原因なんだとか。まぁ人間で言う鬱になる原因がそれにあたるらしい。
堕天使になると、髪や羽根が黒く染まり、口調や人格の変化や凶暴化などが症状として出るらしい。
「そして、私達が使う”神儀”にも影響が出ます。」
「それって、この前シャロが窓ガラスを直したときに使ったやつか?」
「そうだな、あとはローズの言っていた探知能力もその一つだ。」
その他に武器を出したり、水や火を出すことができたりする。まるで魔法のようだ。
しかし、堕天使になると一部の”神儀”が使えなかったり、途中で疲れ果てたり、更には身体への負担がかかりそれで死ぬこともあるのだとか。
「ですが、天界はこれをあまり問題視していないため差別による標的にされたり、または奴隷として扱われることが常識となっています。」
ローズはこれらのことを淡々と話してくれた。
「ちなみに堕天使を治す方法はあったりするのか?」
「一応、治す方法としては幸せを感じることが、解決方法となってはいますが、天使というものは普通の人間と比べて喜怒哀楽があまりないものですから。」
天使というものは心のあるロボットに近いものなのだろう。しかし、心当たりが一つあった。それは、アイスクリームを食べたときのシャロの言葉だった。あの言葉が妙に引っ掛かる。
「もしかしてだが、それは少し違う気がする。俺が見ているシャロはそんなに感情がないやつには到底見えない。あと天界には料理や娯楽があまり充実していないように思える。だから感情がないと言うより感情を使う場面がないというのが正しいと俺は思う。」俺はシャロの言動や行動、そして天界での堕天使の扱い方から考えた一つの推測である。
それに対してローズは、「確かにそうですね。天界は堕天使が感情を使いやすい場所ではないのは事実です。もし、貴方様が言っていることが正しければシャロ様を元に戻すにはここにいたほうがやりやすいでしょう。」
「ああ、俺はシャロがいても構わない。」
そう聞くとローズは少し安心したように思えたが
「貴方様がするはずがないと思いますが、万が一いかがわしいことをシャロ様に行った場合、この第一騎士団ローズ·ヴェルニータが貴方の首を切り捨てます。」
なんか急に怖いことを言い始めたんだけどこの人!
ただでさえシャロにも首を跳ね飛ばされそうだったのに!
まぁ、けれどそんな事するつもりは一切ない。
「わかってますよ。てか、シャロってどっかの偉い人だったり?」
「そうですね。シャロ様は簡単に言えば国のトップの第二王女ですから。」
なんか、とんでもない貴族がいたもんだ。
ってか、なんでこんな凄い人物が堕天使になってしまったのだろうか…
まぁ、本人も最初は濁してたからまだ、深堀りするのは良くないだろう。
そんな感じで、ローズは天界へと帰っていった。
そして、時計を見れば12時すぎだったので寝ることにした。
念の為に、来客用の敷布団があったためそれを敷いて寝ることになった。
シャロはベッドが気に入ったみたいだった。
疲れた俺は、その敷布団で深い眠りについた。
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