第14話 美少女、口の悪い聖女に寛大な心を抱く

 

「…で?奇跡の再会を果たしたついでに庭先で抱擁と阿呆みたいな叫び声をあげたと」

「ああ!ジャン、聞いてくれ昔から話していた少女がユキだったんだ!」

「ソレは聞いた。こらまだ立つな。正座だ。レオ、ステイ」

「抱きついてきたのはこいつだし、叫んだのは悪かったけどまだ時間的には正座させられるほどやばい時間じゃないし…俺悪くないと思います」

「悪いに決まってるだろバカタレ。起きたのが俺だけだったからよかったものの…アイツらが起きてきてたらこの屋敷半壊どころの騒ぎじゃないんだぞ」


 レオナルドからの熱い抱擁を(一方的に)受けて叫んだ15分前。とんでもないスピードで走ってきた従者ジャンがあっという間にレオナルドを引き離しキラキラしたイケメンスマイルで喋るのをガン無視しながら流れるように二人で正座させられ状況説明すること10分。そろそろ足がしびれてきた。だってここフローリングだよ?俺のか弱い繊細な足には無駄な贅肉が付いていないせいで骨が割と直にゴリゴリするんだけど。泣きそう。


「…で?マジなのか」

「なにが」

「レオの初恋がお前なの」

「多分というかなんというかほぼ確実に?間違いなく?」

「お前この先苦労するな~?」

「やめろよ今はなにも考えたくないんだ…」


 そう。今は何も考えたくない。横の男が未だに極上の笑顔でいることとか、女子軍が起きてきてこの笑顔を見ようものならメロメロになってまた醜い争いが起こるんだろうなあとか、99%の確率で俺に矛先がむくんだろうなあとか…ちなみに1%は俺の向かなきゃいいなって希望です。


「お前ら付き合うのか?」

「いやいやいやいや!」

「そうだな、とりあえず交換日記から…」

「しないから!お前!貴族!俺!平民!わかる?!」

「ユキ、その言い方は身分さえどうにかなるなら付き合うって言ってるようなものなんだが」

「付き合いません!絶対に!」

「………そ、うか…そうだな」


 しまった何も考えずにひどいことを


「まあ俺はユキが好きだし今更何年かかっても傍にいるからそれでいい」

「あぁあああぁあぁ…?なんなんだよこの男~~~…」

「こいつ性根が楽天家なんだよ。付属で脳筋なだけで。根はいいやつだから」

「そ…それは知ってるけど…まあ…いいや。いいかレオ、少なくともこの戦いが終わるまではお前とどうこうする気ないから!」

「そうか、なら戦いが終わったら改めて告白しよう。確かにまだきちんと出会って3日と経っていないんだこれからゆっくり知っていくことにする」

「……モウ、ソレデイイデス…」


 戦いが終わってしまえば俺たちは元の生活に戻る。貴族は貴族として、俺は旅人として。そしてもう関わることもないだろう。それほどまでにこの世界の身分格差は大きいのだ。ま、俺も爵位なんて貰う気ないし。


 微妙にそわそわするこの気持ちはそっとなかったことにするのである。

 くさいものには縛って密閉して蓋をしろってね。夏場の生ごみがマジやばいのは前世の一人暮らしで経験済み。








 この屋敷にお世話になって2日目の朝。それは食堂に入ってから起こった。


「ユキィィィ?!アンタなんでレオと二人で入ってきた?!」

「おはようございますレオ様♡入口で会ったんですか?もうレオ様狙ってるんですか?……ふふふ♡鏡でよーく自分のこと見たことないんですか?全身鏡ってしってます??」


 昨日と同じくレオナルドが朝に起こしに来て水回りを借りてから食堂に向かうとすでに女子二人が席に着きスタンバってたのだ。オフの服装なのかエリーは白のオフショルダーになってる丈の長い花柄のワンピース、ルイーダは胸をガッツリ開けたワイン色のワイシャツに白のパンツ。え、オフの方が露出度少ないのか?いやでも俺はこっちの方がいろいろと想像力が掻き立てられて…はいはいはいそうですよ…前世はきつめ美人の巨乳ねーちゃんが性癖でしたとも…いや清楚系も好きだけどやっぱりこう…女教師とか潜入捜査系とかさあ…ね?


「え、いやたまたま…」

「違うぞ、俺が起こしたくて起こしに行ったんだ」

「ちょっとお前は黙っとけ?!」

「へえ…?あのレオがねえ…」

「女性の部屋がある階までこないレオ様が…???」

「いや、あの、これはその」

「ユキは二階の屋根裏に部屋があるからな」

「は?」

「あ?」


 なんでこの馬鹿全部話すの?俺に恨みでもあるの??








「はぁ~?屋根裏部屋ァ?」

「しかも男性陣の部屋がある屋根裏部屋ってどういう神経してるんですか?頭おかしいんですか?……だれかれまた開いてんじゃないのこのクソ女」

「流石に嫁入り前の女がそれはちょっと…今日から3階に部屋借りな。レオ達がそういう奴じゃないのもわかってるけど、ちょっと考えなさすぎだよ」

「そうですよ~レオ様たちは兎も角ユキさんが襲うっていう事もあるんですから……一人で旅してたとかどこで何してかわかったもんじゃない」


 すげーいうじゃん、この女…これが女の前だけならただただ性悪女だと思うが、これを男の前でもするんだから、ある意味いさぎよいなと逆に感動してしまった。


「…エリーいい加減にしな、口が悪いよ」

「…失礼しました。でも本当の事ですし。っていうか本当にこれからこの人も一緒に旅するんですか?すでにチームの和が乱れそうなんですけど」


 それをこいつがいうかね~~~~~って本気で思うがこの手の輩って口に出すとよけいこじれるんだよなあ…


「あー1泊させてもらうだけのつもりだったからさ、昨日も疲れてたし。とりあえず今日部屋移動するから許してくれよ…グラムさん、悪いんだけど手伝ってもらっていいかな」

「勿論です。お任せください」

「私の部屋の横はやめてくださいね。寝首かかれそう。旅の途中ならまだしもお屋敷にいるときぐらいは心置きなく休みたいんで」

「はいはいわかったわかった」


 レオは慣れっこなのか我関せずなのか数席離れた誕生日席で平然と食事をしている。ルイーダはため息をつきながら眉間を押さえているし、さっきちらっと見えたけど中に入ろうとしたジャンがぎょっとした顔で引っ込んだあたりこれはもうこのごたごたが終わらないと入ってこなそうである。


 で、なんで俺がこんなに冷静かといえば前世に似たようなことをされた経験があるからなわけで…それはそれは遠い昔。俺の従兄の兄妹はとても仲が良く、年も近かった。

 兄の方はひとつ年上で俺をよくかわいがってくれていたんだけど妹がそれはそれはブラコンを極めたやべえやつで、俺と兄の方が仲良くするたび間に入り、兄のいないところで俺をいびり倒すのだ。当時はそれはそれは腹が立ったが2つ下の女の子を泣かせようものなら親から叱られ親戚連中に叱られ、兄とそこの親に謝られるけれど本人は謝らず甘やかされる始末……そして俺は学んだのだ。徹底無視が一番被害が少ないと。

 結局兄の方とは俺が死ぬまで仲が良かったし、妹はいい年してブラコンが治らず性格も悪い奴だったとさ。

 三つ子の魂百までとはよく言ったもんだ。


「…悪いね、こいつアタシがメンバーになったときもこんな感じだったんだよ」

「へえ、どうやって和解したの?」

「和解したようにみえるかい?」

「…まろやかには?」

「馴れかねえ。戦闘に置かれればそんなこと言ってる場合じゃないしね…とりあえず戦闘はきちんとこなす奴だから…」

「いいんじゃないか?裏表がなくて。好いてる男の前ではいい顔するような女じゃないだけイイ女ってね」

「な…褒めてもなにもありませんから!」

「はいはいわかったわかった。で?朝ごはん食べていい?」


 二人はちゃっかりレオの前を陣取って食事を始めた。俺はめんどくさいからここでいいや。


「おはよう。朝から大変だな、初恋の君」

「シッそこはばれてねぇんだから黙ってろ。おはよう。とめにも来ない薄情者」

「女の喧嘩に男は口を挟まないのが常識だ。レオだってあの通りだろ」

「っていうかあのスルースキルすごくね?普通仮にもは、初恋?とかす、すきだとかいうなら庇うもんなんじゃ…いや庇われた方がめんどくさいけど」

「いやいや、貴族の女なんか妬み嫉みのオンパレードだぞ。陰湿で自分たちは男にばれてないと思ってるようだが男にも筒抜けだから…マジ性根腐ってんなと思うのゴロゴロしてるから。それを思えばあれくらい可愛いもので…それを基準にしてるわけだから…女の喧嘩に口出すなって教育もしたし」

「お前がか」

「いいだろ?うちの主。すげー素直♡」

「そうね…従者に似なくてよかったよ……レオとラッキースケベすればいいんだお前なんか」

「そういうのやめよ??」


 比較的仲良く(見える)食事を行っているとレオナルドが目の笑っていない笑顔でジャンの肩を叩いた。


「…ジャン、あとで訓練に付き合ってくれ。身体がなまるといけない」

「レ、レオ?あー俺ちょっとこのあと予定が」

「大丈夫だ。すぐ済むから……いいよな?」

「………ハイ」


 おお、ざまーみろ。

 俺は昨日と同じく美味しいご飯を四人分はたいらげてとても幸せでしたとさ。昼ご飯はなにかな?







「で、結局屋根裏かい?」

「しかたないだろ、エリーの部屋の隣じゃない部屋ってないし。ごめんな、グラムさん」

「いいえ、お気になさらず。もともとこの屋根裏の荷物もそんなにあるわけではないのですよ。子供のおもちゃやちょっとした骨董品がしまわれているだけでして…本来はこの荷物も捨ててもいいと言われておりますし…」

「え、そうなの?」


 下ろされる荷物はどれも積み木や絵本といった思い出が詰まってそうな、それでいて見た目のきれいなものばかりだった。


「ええ、ただ思い出があるものの捨てるには忍びないと二の足を踏んだ挙句こうしてしまいっぱなしのものばかりで」

「そっかーあるある。持って行くほどじゃないけど見てると思い出がたくさんあって捨てるにすてられないんだよなあ」

「これを機に処分しますかねえ」

「あ、処分じゃなくてさ、寄付すれば?」


 廊下に並んだ絵本や積み木といったこどもたちの玩具をみてそう提案したが、指揮を執っていたグラムさんと物珍しさに覗いていたルイーダの顔がとても渋くなった。え?なんで?


「寄付…ですか」

「寄付ねえ…ちょっと試しにエリー呼んでみな、そんな気なくなるから」

「え」


 自分がいくと意固地になりそうなのでルイーダに呼んでもらうと、エリーは渋い顔をして首を横に振った。


「駄目ですよこんな汚い古めかしいもの…あの、いくら私たち教会が孤児院を有しているからといっても寄付されているものって新品なんですよ?それをこんな…ガラクタと一緒にしないでください子供たちが可哀想です」

「はあ?」

「なんですか?それとも孤児院の子供たちには新しいものなんてもったいないとでもいうんですか?いいですか?基本的に物を送ってくださるのは貴族の方々です。その方々が寄付してくださるものが使い古したものなわけないじゃないですか!そうやって一般市民の貴方たちが子供たちを差別するからいつまでも王都の孤児院の子たちがここに馴染めなくて王都に根付かないんです!」

「まてまてまて!今孤児院の話してるんだよな?!本当に!」


 後ろを振り返れば渋い顔をした二人がうんうんと深く頷いた。まじか。


「…あの、一応聞くんだけど、エリーは街に寄った時に孤児院に慰問とかしなかったのか?」

「慰問というのは本来事前に予約をとっていくものです。それに教会の人間が来たりするのはあまりいい顔されませんから」

「…はあ」


 なんとなーくわかってきたぞ。うちの街にも小さいながら孤児院があった。

 そこに貴族や教会の人間がくると知らされれば子供たちを小奇麗にして年末かってくらい大掃除する。俺もよく町長に連れられて色々手伝わされたのを覚えてる。が、決して貴族と言えど新品を差し入れするばかりじゃない。服や毛布と言ったリネン系は古着屋で調達するものだし、食材も形の悪そうな芋や野菜が主である。玩具系なんて滅多にないし、数年に一度古びた絵本が届けられる程度である。

 旅をしている間ちょっとした小銭稼ぎに孤児院に荷物の運びを手伝ったりすることがあったのだが地方はどこもそんな感じ。

 孤児院て基本的には質素だし、ものを大事にするし、礼儀を叩きこむからそこら辺のやんちゃなクソガキより礼儀正しい。それでちょっと街で浮くことはあるけど、大人になってその町に住み着くことの方が多い。あくまで地方は。身寄りはなくても小さい頃から大人になるまで過ごしていれば周りも情が湧くのだ。

 基本的に自給自足してるしね。


 で、そんな生活を送ってる中その和を乱すのが主に貴族や教会の上の方の人間なわけだ。

 そりゃ事前に予約という名の宣言だけして勝手に来てほしくもないものを置いて行ってそれが上等なものだった日には周りにやっかみが増えることもある。というか一部はまず間違いなくやっかむ。

 で、その貰ったものを売ろうものなら送った貴族に目をつけられてジ・エンド。

 こわぁい貴族に目を付けられるか、生活に根付いたその町の人間に嫌な顔されて生きていくか、違う街に出ようものなら素性の知れない人間はまず手に職がつけられないのでこれもあまり得策じゃない。なんというか八方ふさがりである。


 で、そんな八方ふさがりで困っているのが今の王都の孤児院なんだろうなあ…この感じだと。


 基本的に宿がないときは教会に泊めてもらうこともある。これは勇者一行じゃなくても立ち寄った旅人や商人が素泊まりする程度なのだが。もちろん風呂もないしベッドもない。ただ本当に雨風しのげる場所を提供するだけ。そのかわりタダでおいてくれる。

 それ以上のサービスを受けたいときは街の宿に泊まればいい。

 まあそんなんだから地方の孤児院なんて見たことないんだろうなあ…


「なるほどな、わかった。じゃあグラムさん、これ俺に譲ってくれない?地方の孤児院に持ってくから」

「ちょっと人の話聞いてましたか?孤児院は…」

「いいから。地方の孤児院はそういうかんじじゃないから大丈夫」

「よろしいのですか?」

「うん、ただちょっと収納足りないからこのままにしてもらえる?後で用意するから」

「かしこまりました。では陰干しの為に一度場所を移します」

「ありがとう!」


 エリーは困惑した顔でこちらを見ていた。根はなあ…悪い子じゃないと思うんだけどなあ…


「多分新品なのって王都だけだと思うからさ、王都じゃないもう少し地方の孤児院に持ってくよ、心配なら目録取っといて、俺が持ち逃げしないように」

「そ、そんなことは思ってませんけど…」

「古いものもこんなにきれいで大切にされてるんだ。捨てるなんてもったいないし、喜んでくれるところまで運ぶのが俺なりの恩返しなだけだよ。でもそうだなあ、渡す時はさ、エリーもきてよ。所属してるエンブレムは隠したままで」

「え?どうしてですか?」

「…人は色眼鏡で見やすいから…かな」








 王都の教会のエンブレムは忌諱の対象、なんて俺の口からは言えなかった。

 だってエリーは、多分まっすぐな子だと思うから……ちょっと、いや大分…かなり口は悪いけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る