第4話 美少女、規格外に圧倒される。

 身なりをきれいにした女の子たちが応接室の扉を開けたのはたっぷり二時間近く経った頃だった。


「ひどいですレオ様ぁ…私を置いていっちゃうなんて…目を覚したらルイーダさんと2人きりでとっても怖かったんですからねっ」

「なっお前…っ目を覚したら寝首かこうと迫ってたのはお前の方だろ!レオ、本当に怖いのはこの女の方だからな!」

「悪いな2人共。俺も気絶していたから担いで帰ってこれなかったんだ。だが2人が危なくないように彼女が防御壁まで張っていてくれたんだ。無事で安心したよ」

「感謝しろよ〜?こいつが俺たちの命の恩人のユキだ」

「んっ?」


 俺はというと本日4個目のスイーツであるフルーツタルトを頬張っていたところで突然扉が開かれて始まった口論と自己紹介に呆然としていた。こいつらマシンガンか?


「ユキ、紹介しよう。白魔術に特化した王都修道女のエリーと魔法剣の使い手で女剣士のルイーダだ」


 何故このタイミングで俺に話題を移すのか。ギンッと目つきを鋭くした2人は完全に俺をロックオンしている。え?視線で人殺せそうなんだけど?好きな男の前でその顔はいいのか?


 可愛い顔した金髪碧眼の巨乳の女の子がエリーで赤い髪に紫の瞳のセクシーダイナマイツな女性がルイーダ。覚えた。そして18歳同い年なのも覚えた。

 ……世の中はちょっと不公平だ。


「こんにちは…」

「「こんにちは」」

「…いいお天気ですね」

「「そうですね」」

「ケーキ、いただいてます」

「「そうですね」」

「…座って一緒に食べない?」

「「そうですね」」


 明日も笑ってくれなくていいから今笑ってほしい。

 いいともー!って腕を振り上げてくれないかな。お前らめちゃくちゃ仲良いじゃねえか。


「…はあー…」

「悪いな…ユキ」


 いや、存在をフルで無視されてるお前ジャンが一番可哀想だと思うぞ。こんな可愛い女の子たちに総スカン食らったら俺なら多分泣く。


「…まあいいや、俺はユキ・スッド。本当に他に痛い所ないか?4人倒れてたから外傷しか治してないんだ、内臓やられてたら事だぞ」


 本当は内臓まで完璧に治ってるはずだけどここで私が貴方達を助けたんだぞマウントを取るのは得策じゃない。

 こいつら腹芸は出来なさそうだし刺激しないのが一番だ。


 2人が顔を見合わせた後、先に口を開いたのはエリーだった。


「助けていただいてありがとうございました。私が王都修道女のエリーと申しますわ、まだこんなに小さいのに魔力をたくさんお持ちなのですね」


 下から上にじっと観察されてソファに座っている自分に目を合わせるように屈むとドレスの谷間から豊満な白い肌が寄せられて…あ、これ見せつけられてんのか…神様ありがとう。


「あはは俺2人と同い年らしいからそんな小さくないよ、よろしくな」

「「はぁ?!」」

「ああ、同年代だし仲良くしてほしい。ついでに暫くここに滞在するから」


 こら、火に油を注ぐんじゃない。

 ちなみに今応接室のソファの座り順は俺の向かいにレオナルド、隣がジャンになっている。どうしてこの席順なんだろうと密かに首を傾げていたけれど原因が今、やっとわかった。


 当然のようにルイーダがレオナルドの隣に座り、それを見たエリーが競うように反対側に座ったのだ。


「助けてくれたのはありがたいけどわざわざここに泊めるのか?だったらこっち持ちで宿に泊めてやればいいじゃないか。そのほうが私たちもゆっくり休めるし」

「ここの方が安心だし金もかからないだろ?三食食事付きのデザート付きだし」

「グラムも気に入ったようだしな」

「…てことで二、三日お世話になります」

「もっと長居してもいいんだぞ?ユキ」

「勘弁しろよ…そもそも俺あんまり王都ここに長居する気ないんだ」


 ケーキは捨て難いけど、と残っていたケーキを頬張っているとつまらなそうにふうん、とルイーダが頷いた。


「あたしはルイーダ。あんた…ユキだっけ?王都に何の用なのさ。見たところ旅人みたいだけど?」

「ああ、第一王子に呼ばれてんの。古い友人でね」

「はあ?!庶民のアンタが王族と友人?!第一王子って…あの第一王子?イケメンの」

「…第一王子は1人だと思うけど…この国イケメン多いよな」


 この国の第一王子と言えば今や輝く大人気アイドル並みに貴族平民関係なく知名度が高くて人気がある。金髪碧眼で美青年の文武両道…神様まじ不公平じゃない?って思うくらい欠点が見つからない完璧王子だがちょっと訳ありで未だに結婚どころか婚約者さえいないやつだ。


「どこであったのよ!」

「すんごい食いつくじゃん…昔、王都にきたことがあってさ。その時に街で会ったんだよ」

「それは…」


 申し訳なさそうな顔のエリーが小声で騙されているのでは、と呟いて3人のなんとも言えない顔でその言葉と肯定していた。


「信じられないよな〜俺も村でこの話したら誰も信じてくれなかったし」


 あれから手紙のやり取りをして何度も手紙がきてたというのに残念ながら最後まで村の皆には信じてもらえなかった。俺が出ていってから一番最初に向かったのが王都の第一王子のところで最初は色々お世話になった恩人だ。

 旅に出ると言ったら大反対されて家族に手紙を送るついでに王子のところにも手紙を送ることになったんだけどあいつも大概過保護だと思う。


「まあ信じてくれなくてもいいんだけどさ…でも顔見たらああこいつは本物だって思うぜ」


 それくらい顔が整っているのだ。本当、あれが偽物だったら逆にすごい。


「皆様、お夕飯の準備が整いました」

「わーいじゃあそういう事だからさ、用事が済んだら出てくから安心してよ」


 俺は馬には蹴られたくないし。

 金持ちの夕飯てどんなのかな、と楽しみにしながら扉を開いてくれているグラムさんに寄っていくと、今夜のメインはお肉だと教えてもらった。やったー!肉!








 分厚いのに柔らかいステーキに舌鼓をうち、おかわりしてデザートのプリンまで堪能して大満足した俺は風呂のデカさに目を丸くして大きな湯船に感動した。銭湯?銭湯だ。気分は銭湯独り占め状態だ!

 熱めのお湯をたっぷり楽しんだ俺はお風呂上がりに脱衣所に戻ると服は消えていて代わりに真新しい下着とシンプルな白いワンピースタイプの部屋着が置いてあった。

 ……あれ、グラムさん以外にメイドとか見てないんだけど…この下着とかは誰が用意してくれたんだろう…?


「……誰かいるかな」


 キョロキョロしてると食堂の隣の扉が空いていた。伺うように顔を覗かせると4人が顔を突き合わせてテーブルの上の紙を覗き込んでいる。会議中かな、邪魔しちゃ悪いか?


 一応未婚の女の子がいるから扉は全開なんだろうけど…会議中くらいは閉めたほうがいいと思う。っていうか会議中も席順はさっきのままなんかい。ちょっとアウェーなジャンが可哀想になってきた。


 声をかけようか迷っていたらレオナルドが顔を上げた。真剣な顔が花が咲いたような笑顔になって手招きされる。

 いや俺だって花の咲いたようななんて例えは女の子にするもんだと思ってたけどイケメンにだって該当するらしいよ。クソ顔がいいなあもう!


「なあ…俺の服ってさあ」

「ん?ああここにはメイドが何人かいるから彼女たちだと思う。基本的に表に出るのはグラムで他の人たちは顔出さないんだ」

「特に女性はな。ここにいるのは子育てが終わった世代の既婚者しかいないから間違いはまずないけど念には念を入れてるんだ」


 ジャンは皆まで言わないけど多分ラキスケ対策だろうなとは思う。そっか、こういうところはちょっと不便みたいだ。


「なあそのラキスケ体質って男性には影響ないわけ?」

「…あるに決まってるだろ。だから身体能力が高い俺とグラムさんが表立ってるんだ」

「…大変だなあ」

「二十年近く一緒にいるんだ、もう慣れた」


 ジャンが席をずらしてくれたのでそこに座るとテーブルに並んでいたのは遠征の報告書だったらしい。

 数枚の報告書に目を通してみたけど段々ギャグだろ?ってくらいアホみたいな展開が広がって行く。挙句に王都寸前で通りがかりの魔法使いの少女に救助され…とか書かれてるし。せめて黙っとけよここくらい。


「これ俺が見ていいやつ?」

「ああ。基本的に俺たちの遠征費は国から出ているものだからこうして報告書を書くんだが…今回の報告書がその…」

「魔王の一部破壊の報告より後半のすったもんだの方が長くなってな」

「あーなるほど…?」

「あたしは正直後半は村もないような道なき道を辿ってて宿にも泊まっていないし特に報告しなくてもいいんじゃない?って言ったんだけどね」

「流石に報告なしはどうかと…国王様のところには明日行くわけですし…」

「まあ後半戦なかったら一週間近く早く戻ってきてたことになるしな」

「っていうかさ、せめてこの王都寸前で〜のくだり切っちゃえよ、これあまりに情けないだろ…」


 呆れ顔で目の前のレオナルドの顔を見ると首を横に振られた。


「そこは切ってはいけない。俺たち勇者一派は国から派遣された人間だ。それを救ったのだから表彰ものなんだぞ」

「いやいいよ別に…報酬ならともかく表彰とか興味ない」

「表彰されることに興味がないのですか?とても栄誉なことですよ?」


 楽な寝巻きに着替えたらしい、自分のよりも露出度の高い谷間が際どい白いワンピースにふわふわしたカーディガンを羽織ったエリーは不思議そうに首を傾げた。

 薄い布地に下着をつけていない姿はなんというか…ありがとうございますといいたい。薄そうだけど色々透けないあたり高級な布だろうしなんというか下品さがない。

 反対側でレオの腕に腕を絡ませているルイーダは俺たちとは対照的に短めなタンクトップにショートパンツで、小麦色の健康的な肌が眩しい。もちろん下着はない。ここの世界の女性って基本的に寝る時の下着って下だけなんだよな…俺的には本当に拝みたいくらいいい文化だと思う。神様、ありがとう。

 ちなみに俺もしてない。だってこの世界のブラって硬いし伸びないし苦しいんだよ。いや前世も特につけたことないけど。

 でもこれだけはわかる。絶対こっちの方が苦しい。


「ユキさん?大丈夫ですか…?」

「ん、あ、ごめんなんでもない…えっとなんだっけ?栄誉?そんなの貰ったところで腹は膨れないし、余計な羨望とかやっかみとか買うだけだから逆に迷惑だな」

「迷惑ですか…」

「だったら報奨金とか宿代割引とかそういう方がありがたい」

「あっはっは!そいつは違いないわ!あたしだってレオが居なかったらこんな厄介事ごめんだもんね!」

「…成る程、提案しておこう」


 ルイーダはケラケラと笑って賛同してくれたが対照的にエリーは納得いっていない顔をしていた。こいつらどういう経緯で仲間になったんだろう。おらワクワクすっぞ。


 目の前でルイーダが笑うたびに豪快に揺れる胸に一瞬飛んでた頭を振って正気を取り戻す。いかんいかん。やっぱりまだまだオトコノコだな〜十数年女の子やってるけどやっぱり反応しちゃうのは女の子なんだよね。


「そう言うことだから俺のためを思ってくれるなら消してくれると嬉しい…ってことでそろそろ寝るよ!おやすみ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ、ユキ」

「おやすみ〜ねえレオ、私たちは夜のお楽しみしようよ♡ 」

「おやすみなさい…ルイーゼさん!レオ様は私と夜のお散歩するんです!」


 ギャンギャン聞こえる喧騒を後ろに聞きながらいそいそ部屋に戻る。そういえば最近シてなかったな〜今夜はいいオカズがあるしありがたく堪能させてもらおう…はしごに登りながら屋根裏に戻ると窓辺にロータイプのベッドが置かれていた。


「…へ?!この世界にロータイプベッドなんかあったっけ?」


 この世界は基本的に床に布団を敷く文化はないためベッドが主流で下に収納できるタイプや二段ベッドや3段ベッドは見るけどロータイプベッドは見たことがなかった。

 フカフカの布団にダイブしてのそのそ中に潜ると天井が高くなんとも懐かしい気持ちになる。


 ころんと横を向いて床が近いことに感動する。へへ。いいな、このベッドのためだけにもうちょっと長居したくなってしまった。明日グラムさんにお礼言わなきゃな。


 ムラッときていた気分はすっかりなくなってしまいトロトロと眠りに落ちた。久しぶりに前世の夢を見て。









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