第3話 美少女、身の上話を聞く

 

 真っ白なフリフリの部屋と変態馬鹿の隣の部屋とどっちがいいと聞かれれば答えは簡単。


「屋根裏を所望する!」

「本当にすまない。ユキは可愛いらしいから見かけではわからなかったんだ」

「触るだけでよかっただろ?!なんで揉むんだよ!」

「つい…柔らかかったから?」


 ギッと睨みつけてやるとしょんぼりとした顔でこちらを見ていた。あああ前世の実家の近所で飼われてたハスキーを思い出す。普段はキリッとして可愛いのに人懐っこくて離れるとこんな顔をしてたのだ。犬可愛い。やめてほしい。


「お前他の女の子達にもこういうことしてたんだな?ラッキースケベというより顔がいいのを盾に好き放題してただけなんじゃないのか」

「…一応幼なじみから言わせてもらうとコイツから行動したことは一度もない…なかった。今までは…俺の、見ている範囲では…」

「自信無くなってきてるじゃねーか!」

「し、していない。本当に…というかどうして指が動いてしまったのか自分でもよく…」


 自分でも胡散臭そうな顔してるんだろうなと思いながら顔が死んでいくのがわかる。


「…ほ、本当に…すまなかった」


 深々と頭を下げるレオナルドにぎょっとする。この世界に頭を下げるという所作は一般的ではないからだ。


「…まあ、反省してるならいいよ。いいか?今度やるときは間違っても指動かすなよ、どうせやるならバレないようにしろ。お前顔はいいんだから多少気に入られれば割とすぐ落ちるから」

「ちょっとうちの子に変なこと吹き込まないで?!」

「本当にもうしないから許してくれ…」


 男2人が地面に沈んだところで執事のグラムさんが顔を見せた。


「お部屋は決まりましたかな?」

「あ、すみませんまだ…」

「いいんですよ。ゆっくり探してください」

「あの、屋根裏部屋ってありませんか?」

「屋根裏部屋ですか?ございますが…あそこは何もありませんよ?」


 やっぱりあるにはあるのだ。

 是非見てみたい。洋風の屋敷の屋根裏部屋ってちょっとロマンがある。

 床に落ちた2人をそのままにグラムさんについていくと3階の上ではなく2階の端に来た。


「グラムさん、ここ2階ですよね?」

「ええ、3階は2階と違ってこの上にはないのですよ。3階の屋根裏は使わない物を収納してあるのでお部屋にしたいのなら2階の屋根裏がよいかと」


 グラムさんが壁の角に触れるとシックな長い木の棒が出てきた。よく見ると木に何か彫ってあるから多分触るまで棒がここにあることを気づかれないようにする魔法がかけられてるんだと思う。


「それ、なんの魔法がかけられてるんですか?」

「これは目隠しの魔法ですね。主に貴族がよくお使いになる生活魔法の一種ですよ」

「へえ…目隠しの魔法か…」

「但し本体に彫り込むか縫い付けないといけないもので無機物にしか効きません。あまり用途がないので一般化はしていないのでしょうね」

「あーなるほど、一度その物に付与すると外せないってことか」

「左様にございます」


 棒を天井に軽く2回突くと魔法陣が現れて四角く穴が空いた。自動で梯子が降りてきて俺のテンションは最高潮だ。


「おおー!秘密基地って感じ!かっこいいー!」

「おお。いい反応だな〜小さい頃は魔力値が足りなくてロックが解除できないから秘密基地にできないんだよな」

「幼少期に使いたかったと今でも思う」


 やっぱり秘密基地って言葉は世界共通らしい。男心をくすぐるもんなあ、秘密基地。


「あの、散々ごねた後でアレだけど本当にここつかってもいいの?」

「ああ、それは構わない。ただベッドもないし窓も小さいぞ?」

「ああ、そこは平気平気!雑魚寝には慣れてるし。雨風凌げるだけで充分」


 意気揚々と梯子に手をかけると慌てたようにレオナルドがその腕を掴んだ。


「ま、まってくれ、ユキ君は最後の方が…」

「へ?なんで…はっはーん秘密基地が羨ましくなったな?どうぞどうぞ!一番は譲ってやるけど部屋は譲らないからな〜?」


 勇者と言ってもいやいやまだまだ男の子だな〜!

 わかるよその気持ち、とうんうん頷いて一番を譲ってやると苦笑気味にありがとう、と微笑まれてレオナルドが一番最初に登っていった。


「ほら、ジャンも二番手どうぞ?」

「多分レオが言ったのはそういう意味じゃないと思うけど…」

「は?」

「まあいいか、俺もお先」


 なんだよどういう意味?首を傾げながらグラムさんの顔をみると困ったように笑い頭を軽く下げた。


「我が主人の名誉のために申しますとユキ様は女性ですので下から見上げてしまうのは些か不愉快な思いをされるのではないかと思われたのかと」

「え、あ、そういう意味か」


 可愛い男の子かと思ってたらただの紳士だった…すまん。


「足を踏み外しては危険ですのでユキ様が登り終えるまでは待機しております。登り終えてから声をかけていただいてもよろしいでしょうか」

「は、はい、アリガトウゴザイマス…」


 さかさか梯子を登りグラムさんに声をかけてあたりを見回す。なにも置かれていない空間は自分が思っていたよりもぐっと広かった。え、これ何畳?10畳以上ないか?


「広いな?!」

「しかしやはり窓は小さいな…ユキ、息苦しくないか?」

「平気平気!窓も全然小さくないって!ほら俺の腰ぐらいから上まである」


 みろ!と窓に並ぶと腰あたりに窓の下枠があった。上はレオの頭を越すくらいだからやっぱり高い。

 空気を入れ替えようと窓を開けると開き方もスムーズだし両開きだから窓全開にできた。風が流れ込んできて気持ちいい。


「お前落ちそうだなあ…大丈夫か?」

「俺は幼児か!」

「グラムはここの掃除も徹底してくれていたんだな、埃もない」

「ありがとうございます。ベッドを入れることは出来ませんがゲスト用の布団がありますので運びましょう」

「えっいいんですか?」

「勿論にございます。夕食後にはお持ち致しましょう」


 グラムさんは用意してくると言い残し先に降りて行った。レオナルドとジャンは物珍しいのか部屋の隅から隅まで見回して歩き回っていて引っ越したばかりの犬みたいでちょっと可愛い。前世の実家にいた犬を思い出す。ゴールデンレトリバーが二匹いたのだ。


 ちょっと感傷に浸りながら窓から軽く顔を出すと自分たちが歩いてきた道が少し見える。


 《ユキ、彼女たちが目を覚ましたわよ》

「!」

「ユキ!」

「言ってるそばから危ないだろバカ!」


 街の入り口あたりを見たくて窓から身を乗り出すと慌てたレオナルドとジャンが声をあげた。


「大丈夫だって…わ!」

「ユキ、ここは二階なんだから危ない」


 レオナルドは乗り出した腰を引き寄せがっちりホールドしてきた。


「大丈夫だよ、ほら、下はすぐ屋根だから」

「転げ落ちたら落下する」

「その頃には二階分も高さないって…ほらそれより女の子たち目を覚ましたってよ!」

「え、マジで?」

「誰がそんなこと…?」

「俺の精霊ともだちに防護壁張ってもらってたんだ。目覚めるまであんな道端で倒れてたら不用心だろ?ましてや女の子なんだから…なにかあったら大変だからな」


 ふたりとも驚愕したように目を見開き窓の外に目を向けた。流石に門から誰が入ってきてるかまでわかるほどここは近くはないけど。


「見えるか?」

「ああ。確認した」

「…マジで?目がいいんだな」

「視力強化をつかっている。俺は基本的に魔法は身体強化に全振りしてるから」

「…立派な脳筋に成長して…」

「ジャン、ちょっと子供の養育について話しておこう」


 冷たい視線を遠くを見ているジャンにむけるとレオナルドは不思議そうに首を傾げた。


「何か問題があるんだろうか」

「そーね…」


 身体強化。主に自分たちの身体の内部に宿っている魔力を己自身に施し身体能力を底上げする魔法の一種である。


 本来であれば自分の得意とする属性の精霊の力を借りて自分の魔力と引き換えに現象を引き起こす。

 これを自分たちは防衛、攻撃含め精霊魔法と呼んでいる。

 自分の魔力の質や量、仲良くできる精霊の位の高さで威力は全然違うし精霊の力を使うので魔力の消費はあれど体力の消費はほぼない。ある意味省エネである。


 一方で身体強化とは自分の魔力を使った自分の強化であり、自分で動くために魔力は消費するし体力も消費する魔法だ。

 しかもできることといえば大抵が精霊魔法でどうにかなることであり、強いて言うなら精霊魔法の効かない魔法耐性のついた高レベルな魔物のときに有効なくらいで主に使われているとしたら街で働く力仕事の屈曲な男たちくらいだろうか。


「…で?そんな身体強化に全振りしてるんだな?」

「ああ。敵は全て剣で叩き切り、拳を打ち込み、蹴りを入れる」


 防具をつけていないレオナルドはどちらかといえば細身のように見える。試しに腹筋当たりに手を当ててみると、思いの外筋肉がついている。細マッチョというやつか…?

 ちょっと羨ましくて両手でそこかしこの筋肉を確かめる。いいなあ、この身体は筋肉がイマイチつかなかったんだよな。


「……ユキ、少々恥ずかしいのだが」

「あ?おうごめん」

「別にレオに適正がなかった訳じゃなかったんだよ」


 遠い目をしていたジャンが大きなため息を漏らした。おかえり。


「精霊の愛し子って知ってるか?」

「あれだろ、文字通り精霊に愛されてて低魔力で全属性使い放題っていう」


 実を言うと俺がそうだったりする。

 ちなみに魔力とはいわゆる精神の強さだ。メンタルが強い奴は魔力が多い。調子に乗って魔力を使いすぎると精神的に病むのだ。

 だからというかなんというか…魔法使いと言われる職業についてる奴らは基本的に長いものに巻かれるタイプではないから非常にゴーイングマイウェイだ。

 生きてるの楽しそうな頭やばいやつらである。


 ちなみに俺は平凡だと思う。人生二回分の精神面ちょっとズルしてるからそこらへんのやつよりタフだとは思うけど。


「それがこいつだ」

「へえ、それならなんで余計に身体強化に全振りしてるんだよ」

「昔、精霊達が戦争を起こしかけた」

「はあ?まてまてまて、そうならないように精霊と契約するんだろ?」


 精霊魔法を使うときはあらかじめ精霊と契約するのが決まりだ。俺だったら命の精霊のエールデや水氷の精霊のヴェレといったように。

 といっても人間側があなたたち以外から力は借りませんよという契約ではある。

 精霊たちは基本的には人間に友好的だがどうしても魔力が必要になる。精霊たちにとって魔力は食糧だからだ。しかし沢山の魔力(強い精神)を持った人間はそのうち力に溺れることが多く、大きな事故や災害を引き起こしては魔力の使いすぎで本人は廃人同然ハイ、サヨウナラのパターンが多かったらしい。

 だから特定の精霊の力しかかりませんよ〜って契約を交わす。


「その契約を誰がするかで戦争が起きかけたんだ」

「…えっと…精霊って上下関係わりと厳しくなかったか?最上位の精霊が出てきたらそんな…あーーわかった何も言うな。最上位の精霊達で揉めたんだな?そりゃ下手すりゃあ人間界も精霊界も壊滅しそう」

「ああ…で、とった苦肉の策が『誰とも契約しない』だった」


 ……アイドルの、私は彼氏つくりません!宣言みたいな?


「お前苦労してんなあ」

「そうでもない。そう決めたのは10の頃だし、そこからは肉体強化一択で修行した。側にはジャンがいたしな」

「そっか、ジャンがいてよかったな」

「ああ」


 因みに俺の時は特に戦争は起きなかった。

 最上位の精霊は基本的に人に近い形をしていて知能も高いから基本的には喧嘩なんかしない。基本的には。

 人生二回目でこんなんだぞ?人生一回目でそうなるんだからやっぱり純正な愛し子すげー


 でもなあ、身体強化って長く使いすぎるとムキムキになることが多いんだけど…コイツの身体は見事なプロポーションなわけよ

 …もしかして精霊の力が働いてるんじゃなかろうか。

 あいつら上級になればなるほど美意識高いから…ヴェレ好きそうだったもんな……



 えっ大丈夫?俺捨てられない?




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