第2話 美少女、お礼をされる。


「はあ?女の子たちの仲間割れで死にかけたあ?!」

「そう。さっきの女達は昔からレオを男として見てたんだけどこれでも魔王を倒すくらいには連携できてたんだよ」

「魔王ねえ…」


 屋敷に戻ると屋敷を管理していた執事のおっさんがリビングに案内してくれた。上品で高そうな家具におっかなびっくりで中に入り座らされたソファは今世じゃ経験のないくらいふわふわなソファだった。

 出してもらった紅茶はとてもいい匂いで癒される。そういえば前世でも紅茶党だったんだよな、コーヒーは苦くて飲めなかった。


「魔王の封印と魔王討伐軍ってのはわかるか?」

「知ってるよ、東西南北に封印してある魔王のかけらを倒さないと本物の魔王が復活するとか言って魔王討伐軍がくまれたんだろ?」

「そう。で、その魔王討伐軍に何人かの勇者がいてそいつを中心に組まれた勇者一行は四方に散ったわけ」

「でその一組があんた達?」

「そう。で、うちの勇者がさっきのレオ。俺が護衛のジャン。他に白魔法に特化した王都の教会の修道女で修道着着て倒れてたのがエリー、えらい露出度で倒れてた女が魔剣の女剣士でルイーダってのがいるんだけど」

「剣士?踊り子じゃなくて?」

「踊り子じゃなくて。装備の中で一番強いのがあのビキニアーマーだったらしい」

「あー…防御力はなさそうだけど破壊力はありそうだったもんな」

「まあ仲間割れの原因はあの防具なんだけどな」

「なーんかくだらないオチが見えてきたぞ」

「そう言わず聞いてくれ」


 申し訳なさそうに執事のおっさんがふわふわの生クリームの乗ったケーキを持ってきた。

 生クリーム…今世では高級品に次ぐ高級品!


「申し訳ありません。ジャン様のお話を聞いていってくださいませんか?普段ジャン様の愚痴を聞いてあげられる方がいらっしゃらなくて…レオ様がお戻りになるまででよろしいのですどうか…」

「喜んで!」

「甘いもの好きなのか?」

「好きだよ、一度しか食べたことないけど」


 小さく一切れを切って口に運ぶと頭に痺れるほどの甘さが駆け上る。


「ん〜っで?」

「ああ…確かに防御力も高かったんだが…あれがなあ、本人曰く脱げやすくて」

「あー本人曰く」

「魔王のかけらを倒した後であれがレオの前で外れてエリーがブチギレて」

「予想通り」

「ルイーダをどっかに飛ばそうとエリーが魔法陣サークルを使った転移魔法を使ったんだがルイーダの防具がそれを弾いて、ちょうど争いを諌めようとしてたレオが範囲内に入っちまって」

「うわ」

「咄嗟に掴んだ俺と魔法を弾いたはずのルイーダも魔法陣の中に入ってきて、それを見て唯一魔法陣の外にいたエリーも慌てて魔法陣の中に飛び込んできて…4人仲良く飛ばされたのが残党の巣の中でな」

「予想が逸れてきたぞ」

「そのまま大乱闘を起こして晴れて残党残らず殲滅したまではまあまだ許容範囲内だったんだが」

「ここまでで許容範囲内なの?懐広くない?」

「意図せず4人の転移からの大乱闘のせいで聖水も切れてエリーの魔力も底をついててな」


 聖水はいわゆるMP回復薬の一種だ。味はただの水。


「その残党が残ってた場所っていうのがエストノルドの境界山の上でな」


 この国は上から見ると十字に分かれているけれどその周辺は険しい山になっていて北を囲む山々は四方の山の中で1番険しいと言われている山だ。そこに転移なしであそこにいたということは…


「く、下ったの?あの山を」

「下った。三日かけてな。麓の村は残党にめちゃめちゃにされていて食料を分けてほしいともいえず、なけなしの聖水を分けてもらったりエリーの回復を待ったりしながら転移を繰り返してやっと王都に着くってところでまだあの防具をきてたルイーダとエリーが喧嘩して…ルイーダの魔剣の攻撃が止める元気もなかった俺たちを巻き込んだ大爆発を起こしてあのざまだ」

「…斜め上を行ったなあ」

「だろう?そしてもっと面白い話もしてやろう…レオはな、ラッキースケベ体質だ」

「うわ〜なるほど修道女が怒るわけだ」


 女剣士もあわよくばを狙ったのかもしれない…なんと羨ましい


「じゃああの勇者ウハウハじゃないの?」

「ところがあいつな〜昔一度だけあった少女に操立てしてるからちっとも靡かねえんだわ」

「え、なんだそりゃすごいな」

「だろ?」

「なんの話をしてるんだジャン」

「お前の話だよバカ」


 ボロボロだった青年はこざっぱりしてラフな白いワイシャツに黒のトラウザーズ姿だった。チッ分かってたけどイケメンだな


「君が俺たちを助けてくれたのか、ありがとう。ジャン、客人の相手は俺がするからお前も身支度を整えてこい」

「ああ。悪いな嬢ちゃん、ちょっと席をはずすぜ」

「ん。そのケーキも置いてけよ」

「はいはい食っていいよ」


 ジャンと入れ替わりに向かいに座ったのはラッキースケベの勇者だ。


「…この短時間で随分仲良くなったんだな」

「俺、苦労人には優しくするって決めてるんだ」


 ケーキは奪うけど。


「改めてお礼を言いたい。俺たちを助けてくれて感謝する」

「いいよ。こっちにも下心あってのことだし」

「下心?」

「身なりがいい奴ばかりだったから後から報酬踏んだくろうと思ってた」


 ラッキースケベ野郎は深く頷いて腕を組む。いちいち様になってて腹立つな


「勿論だ。どんな報酬がいいだろうか」

「いや本当は金品でももらって宿代でもと思ってたんだけどさ、いいよ既にもうこれでもかってくらいイイ思いさせてもらってるから」

「もう報酬を払ったのか?」

「まあね、あまーいケーキに美味しい紅茶。俺たち庶民には食べられないものばかりだよ、特にケーキな!昔一度だけ食べさせてもらったけどまた食べられるとは思ってなかったなあ〜!」


 俺はジャンの残したケーキを手に取り二個目のケーキを今度は大胆に頬張る。


「…もう一つ食べるか?」

「流石に三個目は…う、でももう食べられないし…」

「ユキ様、チョコレートケーキはお食べになられたことはございますかな?」

「?!ないです!」


 執事のおっちゃんがチョコレートケーキを乗せたお皿を眼前に置く。チョコレートケーキなんて今世どころか前世でも大人になってからは食べなかった。


「〜っ甘い!うま〜い!」


 生クリームとは違った甘味に感動する。神様ありがとう!この仄かに香る洋酒がたまんねえなあオイ!


「あなたはユキというのか…俺はレオナルド・アドルナート。レオと呼んでほしい」

「俺はユキ・スッド。今は旅をしてるしがない美少女だ」

「そうか、ところで一つ聞いておきたいんだが」

「ん?」

「本当に18歳なんだろうか。歳を誤魔化したりは…」

「正真正銘18歳だよ!悪かったな!言っとくけどあんたの連れが規格外なだけだからな!」


 あんなボンキュッボンそこかしこにいてたまるか!

 それとも都会の女性は皆あんなんとか…?悲しくなってきた…


「す、すまない、君が随分可愛らしかったからエリーやルイーダと同い年だと思えなくて…いや、そのそれも失礼だな?可愛かったんだ、悪かった」

「同い年?!…一応聞くけどアンタの歳は」

「俺は19でジャンは22だ」


 神様、いくらなんでも酷すぎないか?


「…も、いい…」

「お、おかわりするか?」

「…食べる」


 モリモリケーキを食べていたらちょっとささくれてた心が癒された気がする。


「そういえばユキは泊まる所がないのか?」

「ん?うん、これから探すよ。街で一番安い宿ってどこだか知ってる?」

「ああ。金のかからないところがある」

「え、なにそれ怪しい。体売るとかは勘弁な」

「なっち、違う!」


 真っ赤になって可愛いな。ラッキースケベ野郎から純情チェリー野郎に昇格してやろう。


「この屋敷に泊まってはどうだろうか」

「は?」

「王都にいる間この屋敷にいるといい。俺たちも暫くは遠征もないしこの屋敷にいるから遠慮はいらない」

「お、いいなそれ」


 部屋にジャンが戻ってきたらしい。顔を上げると生えていた無精髭がなくなり後ろに流した髪も艶やかな茶髪になっていた。


「だ、誰だ?!」

「さっきお前にケーキを譲った男だよ!髭がなくなったくらいだろうが」

「無精髭って男を下げるんだなあ」

「暗にイケメンって言われてるのか俺?」

「話を戻してもいいか?」

「あ、そうだよ俺そこまですごいことしてないし流石に泊めて貰うのは悪いと思うんだけど」


 ジャンはレオの隣に座り紅茶を啜る。


「いいんじゃね?宿代が浮けば他に金も回せるだろうし、何よりここなら三食食事つきだぞ」

「さ、三食食事付き?!」

「デザートにケーキもおつきしますよ」

「で、デザートにケーキ?!」

「ああ、彼の趣味は料理なんだ」

「ユキが食ってるそのケーキ作ってんのはみんなグラムさんだぜ」


 執事のおっさんもといグラムさんを見ると嬉しそうにニコニコしていた。


「お嬢様方からは太るからやめてほしいと言われてしまっておりまして…爺の趣味に付き合っていただけたらとても嬉しいのですが」

「喜んで!」


 宿代なし三食食事つきにデザートまで!神様ありがとうございます。さっきはちょっと血も涙もないのかこのエロ神めとか思ったけどきっとこの中途半端なこの体型を好んでくれる人もいるって信じてるよ!俺、顔は可愛いし。


 こうして俺は暫くここにご厄介になることにした。





「どこの部屋がいいとかあるだろうか、設備は整っているからどの部屋でもいいんだが」

「どこでもいいよ、なんなら屋根裏とか物置とかでも」

「命の恩人にそれはちょっと」


 だってそれくらいこの屋敷は広いのだ。

 案内された部屋は使っていないと言われたけれど大きなベッドにふりふりの白いフリルが上から下から飾られてるし、ソファは大きいしこれはお姫様でも暮らしてるんじゃないかと思うくらいだった。

 可愛すぎて恥ずかしいし、汚したらとおもうと恐ろしくてお断りしたんだけどどの部屋も似たり寄ったりでもう屋根裏とかでいいと本気で思ってる。


「ていうかなんでこんなふりふり部屋多いわけ?」

「ここは叔母が使っていた屋敷なんだが叔母には6人の娘と3人の息子がいて…彼らが王都に来た時にしか使わない上に子供達も成人しててもういないから好きにしてくれていいと譲り受けたんだ」

「…てことは息子の部屋ってもうひとつあいてんの?」

「ん?ああ、空いているぞ。2階の奥だ」

「えっそこでいいよ!息子ってことはふりふりしてないだろ?」


 レオナルドとジャンは顔を合わせて黙りこくってしまった。何か不味かったんだろうか


「あーごめんだめならやっぱり屋根裏とかで…」

「違う違う。部屋は空いてるんだけどさ、俺たちの部屋の真ん中なんだよ」

「真ん中?」

「三兄弟の部屋並んでんの」

「いやそれは想像つくけど…なんで真ん中あいてんの?護衛なら隣の方がいいんじゃ…」


 ジャンがちょいちょいと手招きして耳打ちしてくる。


「俺とレオは小さい頃からの馴染みなんだよ…嫌だろ?昔馴染みに情事の音だの声だの聞かれるのは。だから一部屋開けたんだよ」

「あーなるほど…でも結局なんもないわけだろ?俺が使っちゃまずいのか?」

「まずかないがなあ…女の子が男に挟まれる部屋ってのは不安じゃないのか?」


 そこでやっと合点が入った。そうだこいつら俺が攻撃魔法使えるの知らないんだ。

 ぽんと手を打ちジャンの背中をバンバン叩くとレオナルドが怪訝な顔をして首を傾げた。


「大丈夫大丈夫!なんかしようものなら容赦なく凍らせて粉々に砕いてやるから…何とはいわないけど」

「物騒だなお前!そんな芸当できるのは魔剣か魔道具かだろ?そりゃ俺たちは何もしないけど安心するには…」

「違うよ、俺が使うのは魔法。攻撃魔法だよ」

「ユキは男だったのか?」

「この美少女の面と身体見た上でそういってんだったらぶっ飛ばす」


 ギッと睨むと信じてないレオナルドとジャンがじろじろと俺の身体を見る。俺はちょっと胸を張りながら仁王立ちして見せた。

 徐にレオナルドが近づいて俺の乳房と股間を弄るようにやわやわと揉んだ。


「ぎゃっ?!」

「…失礼、確かに女性だ」

「…にゃああああああ!?」

「何してんだ馬鹿!?」


 揉まれた手に一瞬頭が真っ白になる。魔法の修行と旅のことしかなかったからこの身体では一度も触られたことなどなかったのだ。


「す、水氷すいひょうを司り清濁全てを飲み込み流せし水の精霊ヴェレ!我と汝の名の下に彼の者に氷の刃の鉄槌をォォォ!」

 《あら〜イイ男♡ いいわよぉ氷漬けにしてあげる♡》

「待て待て待て!落ち着けユキ!お前が攻撃魔法使えるのはわかったから!わかったからー!」

「うるさいうるさいうるさい!この変態馬鹿を氷漬けにしてやるんだ!」

「すまない…触った方が早いと思って」

「情操教育どうなってんだーーー!!!」


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