折角美少女に生まれ変わったのでこの世界を楽しみたい!
朝登 優
一章 出会いと再会と出発準備。
第1話 美少女、勇者一行を助ける。
小さい時からファンタジーが好きだった。小説、漫画、アニメなど様々なメディアで夢見た幼少期の憧れは今も心にある。
あるのだ。『海で溺れて死んだ』今も。
成程これがいわゆる異世界転生…神様小さい時の夢を叶えてくれてありがとう。そして大人になってからの淡い夢も叶えてくれてありがとう。
誰しも思ったことはあるんじゃないだろうか。異性になってみたいなーとかボンキュボンの女性になってみて色々触ってみたいなーとか、小さい時の純粋な憧れじゃないちょっと擦れた青少年の可愛い淡い夢だった。
今の俺はオレンジ色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばした髪に緋色の瞳はぱっちりしてまつげも長い。鏡に映る快活そうな表情の口はぱっと開くと八重歯がチラリと覗く。うん可愛い。
細身で小柄な体には大きくはないが決して小さくない胸はクリーム色のピッタリしたリブ状の生地でできたタートルネックのノースリーブに包まれていて我ながら形はいい方だと自負している。そこにこげ茶の長袖を羽織って腰に細身のベルトを通して完璧だ。
上の服がお尻まで隠しているので下は黒のスパッツだが太ももの半ばまでの長さなのでブーツは膝上のニーハイブーツ。これ買った時すごい高いヒールを勧められたんだけどあれは絶対店員の趣味に違いない。歩いて旅するっていうのにヒールとか殺す気か。
魔力補助のついたイヤリングにナイフを腰につけて宝物のネックレスが服の下にあるのを確認してマントを羽織り、相棒の杖と荷物を持てば完成。みんな想像できたか?これでかれこれ数年この世界を旅している超絶美少女の完成だ。中身は元お兄さんだけど。
「あらお嬢ちゃん早いねェもう行くのかい?」
「うん、今日中には王都につきたいから!お姉さんのご飯美味しかったですありがとう!」
「やだようこの子は〜ほら握り飯持ってきな」
「いいの?ここ朝食はつかないんじゃ」
「これは餞別だからいいんだよ、気をつけていきな」
「やった、ありがと!いってきまーす」
この国、ネーヴェ国の王都に近い町の安宿で一泊した俺は気のいいおばちゃ…女将に手を振り握り飯を持って宿を出た。こうしていく町の先々でよくしてもらって感謝しかない。まあコツは笑顔とヨイショと愛嬌だな。基本的に義理人情の厚い人たちばかりだからこっちが善人ですよーって顔で近づくと打ち解けるのも早い。
『俺』は前世はしがないサラリーマンだった。ブラック企業に勤めているわけでもワーカーホリックなわけでもないただ普通のサラリーマン。土曜出社はたまにあったけど基本的には週休2日だったし給料もそこそこ。学生時代の友達もそれなりにいたし、暇な時は漫画を読んだり撮り溜めたアニメみたりしてはいたけど程よく遊んでたし彼女がいたこともあった。
8月の最初の方に学生時代の友人達と海に遊びに行った時だったと思う。浮き輪に乗ってた俺は気づいたらちょっと沖に流されてて慌てて浮き輪から降りた。思っていたより冷たかった海に足がつり、パニックになった俺は浮き輪を掴んだはずの手を滑らせて気づけば海に沈んでた。
そして目を覚ました時には可愛い女の子だった。
最初は夢だと思ってたんだけどどうも違うらしい。それに気づくの三日かかったんだけど。
そのあとはもう気にしないことにしたけど年頃になって色々女の子って大変なんだなあと身をもって感じた。世の女の子たちはえらい。前世ももっと優しくしてあげればよかった。ごめんな。
もっと驚いたのはこの世界には魔法が当たり前にあることだった。俄然テンションが上がったのが懐かしいなあ…俺が生まれたのは南の端の方にある小さな村で生活魔法以外の魔法を使えるのは村長の爺さんと婆さんだけだった。
2人は魔法を習いたいといったら大喜びで俺に色々教えてくれた。そこでわかったのは生活魔法以外は女性は防御や治癒魔法しか使えず男性は攻撃魔法しか使えないということだった。
ここで俺のいつか巨大なモンスターを倒してみたいというささやかな夢は途切れたかに見えたが…どういうことかわからないけれど俺にも攻撃魔法が使えたのだ!
勿論というかなんというか防御魔法も治癒魔法も使えたし、魔力量もチートとは言えないけれどそれなりにあった。前世の記憶のおかげか?ありがちなラノベ展開ありがとう神様!!
けれどそれに目の色を変えたのは村長の爺さんと婆さんだった。奴らには放蕩息子が1人いてふらふら遊び歩いちゃ女の子をナンパして手を出すクズで仕事も碌にしない奴だったからまわりの村の女の子達が相手にしなくなるとひと里離れた町にまで遊びにいく始末。
ほどほどに顔が良くてクズってすごい腹立つよな?魔法の勉強をさせる代わりにその放蕩息子(バカ)を俺と結婚させようとしたのだ。
もちろん俺はそんなの絶対にごめんだったので両親に相談して村を出ることにした。まあ、元々いつかは村を出て旅がしたいと小さい頃から公言していたしちっともお淑やかにならない俺と素行の直らない村長の息子(バカ)に頭を抱えていた両親はこれ幸いと俺を放り出した。
一応村長の家と血縁者になればそれなりに生活も豊かになると思うんだけどって聞いたら「今の生活で満足してるからいい」らしい。いざとなれば自分たちも村から出るとまで言ってくれた。欲のない親でよかったと心底安心したしとても感謝してる。前世でまともに親孝行しなかった分も出来るだけこっちの両親にはしていきたいと思ってるんだけど…孫が欲しいくらいしか言わないんだよなあ…とりあえず待っててくれ…両親よ…前向きに考えるから。
とりあえず俺は月に一度手紙を送るという約束だけして心置きなくあの村を去った。
そうして面白おかしく旅を始めて早数年。思っていた以上に世界は楽しいし、苦労という苦労はあまりしなかった。
ただし雨と森の中の野宿だけはいまだに好きじゃないけど…
だからこそ聞きたい。
どうして後少しで王都ってところで瀕死状態の男女4人組を見つけるんだ?怖いんだけど。
「おーい。大丈夫か?」
「う、うう…」
唸ったまま身動きの取れない4人をよく観察する。うーん身なりはそれなりにいい気がするんだよなあ…つけてる武器や装備がいちいち高そうだし女の子たちの方は装飾品もそれなりに高級品だ。こんなボロボロ具合じゃ貴族ではないだろうけどそれなりに腕の立つ冒険者、みたいな感じだろうか。
こりゃ助けたらそれなりのお礼はしてもらえるかな?王都は物価が高いというしお金は持っていて損はない。
「よし。お礼はしっかり頼むよ」
杖後ろに担いでいた杖を構えて地面をついた。
「
《手を貸しましょう。我が友のために》
「ありがとう、エールデ」
彼らの周りに沢山の花が咲き乱れると淡く輝き散っていく。
「さすがエールデ。相変わらず綺麗な魔法使うな〜」
《これもユキの魔力あってですよ。さあ目を覚ますわ》
一番に飛び起きたのは長い後ろ髪を括ったガタイのいい髭面の青年だった。腰に短剣と鞭をぶら下げているし前職かな。
「っレオ!」
隣りに倒れてる青年に駆け寄り息を確かめている。え、女の子2人も倒れてんのにそっち気にすんの?
「生きてるよ、もう少ししたら起きると思う」
声をかけて初めて俺に気づいたのか青年を庇うように剣を構えるが俺の姿をみて息をついたみたいだった。
「君は…女の子か」
「この可憐な姿をみて男だとか言ったら殴るぞ」
「すまん…俺たちはさっきまで戦場にいて…ここはどこだ?」
「ここは東側の王都目前の道端。あんたらここで瀕死になって倒れてたんだよ」
「東側…?ということは
「いや、王都もすぐそこだよ、
この国は十字の形で五つの地区に分かれている。中央が王都。
王様がいるお城やら貴族、商人、とにかくいろんなものが集まるのが
後は東西南北に分かれていて、こいつらが倒れていた東側の
俺たち庶民に苗字はないから名前の後に出身地区を名乗ることが多い。俺だったらユキ・スッドみたいな感じかな。俺的には音的にオヴェストがかっこいいと思う。
「そうか…君が助けてくれたんだろう?ありがとう、俺はジャン。こいつはレオ。俺はこいつの護衛で兄貴分なんだ」
「俺はユキ。ユキ・スッドだ」
「
「この通り旅してんの。生まれは南で今は東から王都に向かってたんだ」
「1人でか?!危ないだろう…とりあえず礼もしたいから俺たちのアジトに来てくれ」
「そうでもないよ割とどうにかなるし…ついて行くのはいいけどそれよりこっちの子たちの心配はいいわけ?」
ジャンの口から女の子の説明が一切ないから未だ伸びてる二人の女の子を指さして話を振ってみるとジャンはスッと真顔になり腕を組んだ。
「ああ、元はといえばこいつらのせいで俺たちは死にかけたからな」
えー訳ありなの?助けなきゃよかったかなあ
ジャンは未だに目を覚さないレオとかいう青年を担いで王都に向かおうとした為、俺は全力で止めた。
「待て待て待て!この子達放置か?!さすがに危ないだろ意識ないんだぞ?!」
「そいつら強いから平気だろ。そのうち起きて王都のアジトにくるさ」
「えー」
ジャンは相当怒っているようで見向きもしない。仕方なく2人に防御壁と目くらましの魔法をかけて誰も触れられないようにしておく。
薄汚れてるけどよくみりゃ修道着を着たボンキュッボンの美少女と下着みたいな衣装を着たこちらもボンキュッボンの美女が無防備に道端に転がっているのだ。通りがかりにへんな奴らが通ったら何をされるかわかったもんじゃない。日本のように治安のいい場所なんてこの国にはどこにもないのだ。
「エールデ、彼女達のこと守っておいてくれる?」
《相変わらずお人好しなんだから…いいけれど貴方この人についていくの?わたくし不安なのだけれど…》
「大丈夫だよ、お願い」
彼女達の側に小花が咲いたのを確認してジャンについていく。
女の子の身体になって早十数年、未だに俺は俺っていうのが抜けないし口は荒いし見るのは女の子の方が好きだ。柔らかそうだし可愛いし…ここの男達ってみんな顔はいいし背は高いし、なんというか心底腹立たしい。
両親は俺のことで頭を抱えていたけれど、小さい頃一緒に住んでたばあちゃんは好きに生きればいいってスタンスで俺を見守ってくれていた。恋をすれば変わるだろうって言ってたけどどっちに恋するかなんて今の俺にはわからないし、俺が男ならこんなガサツでおっさんみたいな女の子いやだ。顔は可愛いけど。
さっきの子たちかわいかったな~あわよくばお友達くらいになれないかな~
王都に入ると一気に人が増えた。沢山の人を見るのは久しぶりで右往左往しているとジャンにヒョイと抱き上げられた。いくらガタイがいいからってそんなムッキムキじゃないのにどこにそんなに力が…って思ったけど筋肉増強してるだけか。視覚的にびっくりするから言ってほしい。いいなあ、俺も前世の身体でそんな魔法がほしかったなあ…
「こーら、うら若き乙女を無断で抱き上げるとは何事か」
「悪い悪い埋もれそうだったからついな、お嬢ちゃんいくつだ?」
「18」
「は?」
「18!」
「嘘だろ?!13くらいじゃないのか?」
「失礼な男だな君は?!後、ユキ!さっき名乗っただろ!」
「重ね重ねすまん。ユキなユキ。小脇に抱えなかっただけいいだろ」
「小脇に抱えるつもりだったのか?!この美少女を?!……しかし起きないな、そっちの男。怪我は治したんだけど」
頭打ってたらヤバいなと思いながら逆側に抱えられている青年をジャンの頭越しに眺める。藍色の髪がサラサラしていて今は薄汚れてるけどこ綺麗にしたら貴族と言っても通りそうな…
「…なあ、ジャンはどこに向かって歩いてるんだ?」
「俺たちのアジトだけど?」
「…そのアジトってどこにあるんだ?だんだん人気がいなくなってきたんだけど」
「ああ、貴族街にあるからな。奴らはみんな馬車移動だろ…ほらついたぞ、ここだ」
恐る恐る正面を見ると大きな白い外壁に青い屋根が映える二階建ての立派な屋敷が大きな門扉の奥にに広がっていた。
「パーティー用のアジトだからそんなに広くないけどな」
「いや、十分でかいだろ…?」
「ん…ここは」
「起きたなレオ。今アジトについたぞ」
頭を振り立ち上がった青年はジャンより少し低い背をしていて瞳は綺麗な金色をしていた。その瞳に目を細める。淡い記憶が脳内に蘇るも余韻に浸る暇はなかった。
「ジャン」
「なんだ?」
「幼女誘拐は犯罪でっ」
「俺は18だ!!」
握っていた杖でこいつの頭をどつくのに忙しかったからだ。
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