第13話 兄の誕生日
「相変わらずブランシュは罪作りな妹だ」
「お兄様。そんな事はありませんわ。確かに私は可愛いと自覚しておりますが、まだ十歳ですのよ? 犯罪ですわ」
「あぁ、ブランシュ。兄は心配だ」
私達は見送りを済ませ、サロンでお茶をすることにした。
今日、父は仕事で城へ行っている。領地から帰ってきてから父と兄はとても忙しくしていて会う時間が殆どないといってもいいほどだ。
父は城の仕事もあり、普段は母が領地全般の仕事をこなしているが、兄も跡取りとして最近少しずつ領地の事を補助しているから私以外が忙しいのだ。
「それにしてもブランシュ、折角の辺境伯子息からの求婚を断って良かったのかしら?」
「お母様、受けた方が宜しかったですか?」
「うちはどちらでも構わないわ。ブランシュが生涯邸に居たって大丈夫よ?」
「そうだよ。大切な妹を嫁に出すくらいなら生涯ここに居てもらった方がいいに決まっている。僕は妹一人を養うくらい何でもないよ」
「ふふっ。嬉しいですわ。お外は怖いですし、私もずっとお家でお兄様を支えていきたいです」
兄のニヤニが止まらなかったのは言うまでもない。
そうこうしている間に待ちに待った兄の誕生日になった。
普通の貴族ではお誕生日会と称したパーティが開かれるのだが、我が家では家族だけの誕生日会となっている。理由は言わずもがな。兄にいつのながら心の中で謝罪する。
そして私は兄様のために手料理を振舞う事にしたの。前もって料理長にお願いをしていたのよね。厨房で料理を作りたいって。料理長は驚愕したのなんのって。
最初は駄目ですって断られたけれど、粘り強く何度も交渉してようやく調理場使用権を勝ち取ったのよ! とは言っても簡単な物だけにしたよ。
ピラフを炊いて、その間にケチャップを作る。炊きあがったらラグビーボール型にして卵を乗せて作るオムライス。
凄いでしょう? 玉ねぎを切ったのはもちろん料理長。ピラフの具も料理長が切ってくれたんだけどね。
フライパンが重くてちょっと卵が不格好になったのは仕方がない。
それでも料理長はとっても驚いていたわ。ピラフやオムレットはあってもオムライスは無かったらしく、褒めてくれたんだよね。
私は満面の笑みを浮かべながらお兄様に持っていこうとしたけれど、料理長は膝を突きながら『落としてはいけませんので私が命に代えてもヴェルナー様へと運ばせていただきます』って、大げさよね。
そうしてサロン家族だけの誕生日会が始まった。
お父様はお兄様に剣のプレゼント。お母様は万年筆とインクのセットと分厚い本。兄は読書家だからとっても喜んでいたわ。
「お兄様! 私もプレゼントを準備したの。受け取って欲しい、かな」
勢いよく口に出したものの、みんなの視線が一同に集まって恥ずかしくなってモジモジしちゃう。
「ブランシュ、僕のために用意してくれたの?何かな?」
兄はニコニコと私のプレゼントが気になっているみたい。マリルに持たせていた小さな小箱を兄に渡す。
「お兄様、私とお揃いのイヤーカフです」
「ブランシュが選んでくれたの? それにお揃いだなんて。ブランシュ有難う」
兄はギュウギュウと私を抱き、頬ずりまでしている。それを温かく見守る父と母。いや、止めて? 兄からの熱烈な愛情表現を止めてくれたのはやっぱりマリルだった。
「お嬢様、他にもプレゼントがあるのでは」
「そうそう! お兄様他にもプレゼントを用意しているのです」
私は手を叩くと、料理長が私の作ったオムライスを持ってきてくれた。
「私が料理長に手伝ってもらいながら作ったオムライスなの」
「オムライス? 食べてみていいかな?あぁ、でも勿体ない。どうしよう、悩んでしまうよ」
兄は目に焼き付けるようにオムライスを睨みつけた後、一口食べてるとカッと目を見開いた。
「!! ブランシュ美味しいよっ。あぁ、柔らかな卵の食感にマッシュルームの香りが鼻をくすぐる。僕はなんて幸せ者なんだ。ブランシュの手料理を食べているなんて」
父が横から味見しようとしているけれど、兄は手を払ってパクパクと食べてしまった。
「お父様、今度はお父様にも作りますね」
「ぬおぉぉー我が娘がっ、ブランシュがっ。なんて優しいんだ」
父にも作ると約束して誕生日会は成功を収めたと思う。翌日からはしっかりと兄の耳にイヤーカフが着いていた。
もちろん私も着けているので兄は私の耳を見る度にとても喜んでくれている。
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