第11話 彼の様子

 姉様達が帰った後、私はマリルとエディットと一緒にラーザンド辺境伯子息の様子を見に行くことにした。彼が運び込まれた客室は薬品の香りがまだ微かにしている。


そっとベッドの横にある椅子に座って彼の顔を覗き込むが、彼はまだ深い眠りに入っている様子。


「ラーザンド辺境伯子息はまだ目覚めないの?」


私は小さな声でマリルに聞くと、マリルは医者から聞いた事を話してくれる。


「ラーザンド様は沢山の血が流れたので目覚めるのはもう少しかかるという話です」

「そう。ごめんなさい。私の力がないばかりに。ほらっ、顔の傷だって治せていないもの」


自分の魔法の効果が低いのは分かっていたけれど、やっぱり自分の力が全然役に立っていなかったと思うと悲しくなる。


「お嬢様、そんな事はないですよ。お嬢様がいなければ彼は確実に亡くなっていたのですから。それに医者でも治癒魔法が使える者は殆どいないのです。ラーザンド様は幸運ですわ」


マリルはそんな私を励ましてくれる。そう、魔法を使える人は少ない。治癒系の魔法となると更に減る。

そして魔力量が多い人は更に少ないようだ。

そんなこともあってこの世界の医者は医術をメインとしている。ただ、前世で暮らしていた文明と数百年程の違いがあるようで医術レベルは言わずもがな。

ハーブに頼った物が多いと思う。


これはあくまで私の今世の知識でしかない。部屋から出ないので本しか情報が得られない分、本当の所はよく分からないんだ。


「早く良くなりますように」


私はそっと彼の腹部に手を当てて治癒魔法を掛ける。


「お嬢様!!」


マリルは慌てたように声を上げるけれど、私はシッとマリルを止める。


「大丈夫よ。ほんの少しだけだし。私が掛けた所でほらっ、顔の傷も治っていないもの。おまじない程度だわ。長居も良くないわよね。さぁ、部屋に戻りましょう?」


私はそう言ってマリルとエディットと一緒に部屋を出た。


静かに見つめる瞳があるとは気づかずに。


 その日の午後を過ぎた辺りにラーザンド家の執事が我が家へとやってきたようだ。


まだ傷が塞ぎ切っていない事と子息が目覚めていないので我が家で当分の間、療養する事になったみたい。ラーザンド辺境伯から感謝の手紙が送られてきた。



 翌日、子息は昨日の夜頃に目覚めたらしいと教えてもらった。私は相変わらず部屋の中で勉強とスクワットで過ごしている。


……目覚めて良かった。


 医者からは深い傷はないらしいが斬られた箇所がくっつき次第、辺境伯のタウンハウスへ移動してもいいと言っていた。その前に一度は挨拶しないといけないわよね。


彼も助けてくれた私にお礼が言いたいと言っていたらしい。でも母は苦い顔をしていたようだ。


「エディット、最近ちょっと体力も付いてきたし、そろそろ護身術を教えてくれてもいいんじゃない? ほらっ、この辺がムキムキマッチョでしょう?」

「えっと、まだ数日ですよ? まだまだあと二か月は体力づくりをしてもらわないと難しいと思いますが」


エディットはとっても言いづらそうにしながらも答えた。


……ガーン。


さすが令嬢。護身術はすぐに教えて貰えないらしい。諦めて勉強に取り組む私。

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