第2話 配信者で42歳の宇宙人(趣味、メイド)のお出迎え
「今日は住人のみんなが、歓迎会をしてくれるんだよな……。確か、俺も含めて5人住んでるんだっけ。大所帯だなぁ」
入居の契約をしに行ったときには、みんな出掛けてて会えなかったが、4人もいる他の住人に会えるのは、賑やかで楽しそうだ。ユウイチは心の底から、そんなふうに考えていた。
今日は引っ越しの当日。家具や冷蔵庫はシェアハウスに備え付けられているので、荷物は最低限で済む。
幾つかの段ボールに収まる程度の荷物が積まれた軽トラックを、ユウイチは巧みに運転する。
ちなみに、軽トラックは畑をやっている祖父に借りたものだ。
「改めて見ると、やっぱり趣があるなぁ」
屋敷の到着するなり、ユウイチは静かに呟いた。古くて、少しボロい洋館。魔女が暮らしていそうな、それでいて深窓の令嬢が黄昏ていそうな雰囲気を漂わせるその洋館は、見ているだけでワクワクさせられる。
ユウイチは、これからやってくる、シェアハウスでの新生活に胸を躍らせながら、車を降りる--と、そのときだった。
「お帰りなさいませ、ユウイチ様。お荷物は、こちらで持ち運びますね」
どこからともなく、急に現れたメイドが、ユウイチににうやうやしく頭を下げたのだ。
「……? えっと、今日ここに引っ越したばっかりっすよ、俺?」
「ええ、わかっております」
わかってるのか……。ユウイチは心の中で困惑する。
「えっと、メイドさん、ですよね?」
「はい。可愛い可愛いメイドさんです」
「おお、言い切ったぞ、この人! お茶目な人だなぁ……」
ユウイチはユーモアのある人間が嫌いじゃないし、自信家には好感を持つタイプの人間だ。
それに、目の前にいるメイドは実際に可愛い。クラシカルなメイドの衣装に、空色の鮮やかな髪。白くて透明感のある肌。
彼女は10代後半に見えるが、童顔な成人女性という可能性もある。背丈は150センチくらいだろうか、とても小柄だ。
「そうですね、初めましてですし、自己紹介でもしますか?」
「はい! 俺は速水ユウイチっす! お姉さんは?」
「わたくしは螺旋乃宮めぐる。趣味でメイドをやっている宇宙人です。年齢は42歳。本業は、配信者をやらせて頂いています」
「え? 42歳? それにしては見た目が若いっすね……。というか、趣味でメイドってことは……俺の身の回りの世話とか、そういうの、趣味でやってくれるんすか?」
「そうですけど、不思議ですか?」
それはメイドさんじゃなくて、ただコスプレしてるだけの異常に親切な人なのでは?
ユウイチはそう思ったが、突っ込まないでおいた。なんというか、不思議な人もいるものである。
「それにしても、めぐるさんって宇宙人なんすよね」
「そうですけど、まさか信じてるんですか?」
「えっ、嘘なんすか?」
「いいえ、事実ですよ。信じる人はバカだなと思いますが」
自分で言っておいて酷い話である。けれど、ユウイチはめぐるの対して、もしかしたら本当に宇宙人かもな、と思わせられる雰囲気を感じていた。
それに、髪の毛が染めたにしては自然な色合いというか、本当に空の色そのままの、澄んだ色をしているのだ。
「宇宙人ってことは、何かすごい能力とかあるんすか? あるいは、すっごいハイテクなマシンを持ってたり」
「そうですね。超能力なら、使えますよ。ほら、あんな風に」
「え……?」
めぐるがトラックの荷台を指差す。どういうことだろう。そう思っていた時にだった。
荷物を固定していたロープが解け、段ボールが宙に浮いたのだ。誰も荷物に、触れてすらいないのに。
「なっ……!」
「いわゆるサイコキネシス。手で触れずにモノを動かす、念力のパワーです。まあ、わたくしは
「す、すげぇ……。やっぱり、めぐるさんは宇宙人なんすね!」
「やっぱりってなんですか? ユウイチ様、頭が悪いですね」
やっぱりこの人、やたらめったら辛辣だなぁ。ユウイチは内心ではそう思いつつも、1つだけ確認をしておくことにした。
「荷物はそのまま運んでくれる感じっすか? その、念力で」
「……? 確認は不要だと思いますが」
「分かりました。ありがとうございます! めぐるさん!」
ユウイチは、めぐるに並んで歩きながら、屋敷の中に入っていく。
まるで母鳥の後ろをついていくカモの雛鳥のように、浮遊した荷物が追従する。
すると、入ってすぐにあるリビングで、一組の男女がチェスに興じていた。
「相変わらず強いわよね〜、おじいちゃんは」
「ほっほっほ。頭の回転は少しばかり遅くなりましたが、じっくり考える時間を与えてもらえれば、まだまだ若い人には負けませぬよ」
「さっすが。歴戦の死神は違うわねぇ。深謀遠慮の策士、ってやつかしら」
ニヤニヤ笑うツインテールの少女と、黒いフード付きのコートを着た老人。ユウイチにはチェスのルールは分からないし、戦況も理解できない。けれど、会話の内容からして、おそらく老人の方が勝っているのだろう。
しかし、このリビングはすごいモノである。恐らく、みんなで集まって食事を取るための空間なのだろうが、テーブルがとにかく長く、細い。
隣同士で座って遊ぶ二人は、孫と祖父なのかなとユウイチは思った。しかし、ここはシェアハウスなので、他人同士の可能性もあるだろう。
「挨拶と自己紹介は後でもできます。お疲れでしょうし、今は部屋に向かいましょう」
「そうっすね。邪魔しても悪いし。あ、俺の部屋どこっすか」
「わたくしが案内致しますよ。流れで分かりませんか?」
「……すいません」
毎回のように付け足される、辛辣な言葉。ユウイチは正直、辟易とし始めていたが、彼女の正直でクールな性格は嫌いではない。
正直なところ、不思議な力と出自への好奇心もあるが、ユウイチはめぐるのことを、もっと知りたいと思っていた。
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