シェアハウス十日崎の怪綺譚
橿原 瀬名
不思議なシェアハウスの入居しました
第1話 家主と契約しよう
『君も豪邸で暮らそう! シェアハウス十日崎! 入居者募集中!』
シェアハウスとして貸し出されている、とある物件の入居者募集のポスター。そこにはこんな胡散臭い文言が書かれていた。
立地は郊外にある旧市街から、少し離れたあたり。大正時代あたりに建てられたであろう、古びた洋館だ。
「交通の便はそんなに悪くなさそうだな。徒歩15分とは言え、駅も近いし。というか、相部屋とはいえ、家賃1万8000はかなり安くねーか」
まさか事故物件じゃねーだろうな。心の中で付け足しながらも、速水 ユウイチは既に、ここに住むことを決めていた。ベッドなどの家具も既に屋敷にあるらしいし、これなら初めての一人暮らしのピッタリである。
ユウイチは、来年から大学生になる、高校を卒業したばかりの18歳だ。無論、これまでに一人暮らしなど経験したことがなく、派手な見た目の割に寂しがり屋なこの男は、地元を離れての暮らしに不安を覚えていた。
「シェアハウスなら、一人暮らしでも賑やかでいいかもなー」
茶色に染めた、少し長めの髪を揺らしながら、ユウイチはスキップをする。こうして彼は、不思議な能力を持つ人ばかりが集まる奇妙なシェアハウスーーシェアハウス十日崎への入居を決めたのだった。
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入居を決めてから2週間後。赤い絨毯の引かれた応接室にて、ユウイチはシェアハウスの管理人と対面していた。
古い洋館にふさわしい、優雅なデザインの調度品の数々は、確かに豪邸と呼ぶのに相応しいかもしれない。
「随分と、派手なお兄さんが来たねー。けれど、なるほど。作者の人が言うには、君は意外とピュアで寂しがり屋のようだね」
——何言ってんだこの人。作者の人ってなんだよ。
ユウイチは困惑していた。初対面の自分に、開口一番に妙なことを言い出した管理人。彼に対する第一印象は、不思議な言動をする、ガタイの良いイケメン、と言う感じだった。
ミステリアスな雰囲気の、ミステリアスな黒髪の男。歳の頃は二十代の後半だと思われる。
「さて、まずはシェアハウス十日崎の生活ルールのついて説明しようか。とは言っても、基本は自分の寝室で、好きに過ごして貰えればいい。風呂だのリビングだのは共用スペースだが、使い方は住人同士で話し合ってくれ」
「ルールはない、あるのはマナーのみってことっすね」
「飲み込みがいいね。作者の人の言うとおりだ」
またしても出てきた、『作者の人』というワードにユウイチは困惑するが、正直なところあまり気にしてはいない。管理人が少し変わった人だろうと、生活に支障はないからだ。
「さて、これが契約書だ。と言っても、君が不利のなるようなことは特に書いていない。部屋を綺麗に使ってくれさえすれば、こちらも文句は言わない。ただ、1つだけ、君にとってはヒジョーに困るルールはあるけどね」
「ルール?」
怪訝な顔で聞き返すユウイチに、管理人はニヤリと笑いながら、こう返す。
「私は住人同士のトラブルや、君たちの身に起こる困りごとについて、干渉しない主義なんだ。なので、そうしたことは自分たちで解決したまえよ」
「え? じゃあ例えば、他の人が夜中にスッゲー騒いでても、注意とかしてくれないんすか?」
「しないよ」
「そうっすか……分かりました」
つまり、今後の生活が快適になるかどうかは、全て他の住人の当たり外れに影響されると言うことだ。
今時は親ガチャなんて言葉を巷で聞くが、まさかシェアハウスで住人ガチャを引くハメになるとは。ユウイチは内心でそう思ったが、言わないでおいた。
この程度ならまあ、許容範囲だからだ。自分は腕っぷしが強いし、背も少し高い。親に柔道を教えられていたから、明確な殺意のない相手なら、暴力沙汰になっても問題ない。
明確な殺意のある相手は刃物を持ち出してくるので、流石に勝てる自信はないが、そこについては想定するだけ無駄だろう。
トラブルを起こすタイプの人間は大抵の場合、自分より強い相手には逆らわない。いざとういうときには、暴力という手段がある。その事実だけで十分なのだ。
と、ユウイチとしてはそう思っていた。
「それじゃあ、契約内容に不満がないなら、ここにサインと印鑑をよろしく頼むよ」
「了解っす」
ユウイチは、几帳面に整った字でサインをしてから、ハンコを押す。力みすぎたせいか、ハンコの方は、あまり上手に押せていなかった。こうして、ユウイチは、シェアハウス十日崎で暮らし始めたのだった。
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