幼馴染

403μぐらむ

短編

 午後の最後にあった講義が教授の都合で突然休講になってしまった。

 2時限連続の長くきつい講義だったので休講は有り難いが、代わりに出される課題がめんどくさいんだよな。


「それにしてもこれからどうしよう……。むっちゃ暇なんだけど」


 いつもつるんでいる友人は今日に限ってはなから講義を休むつもりだったらしく講義室に現れていない。ある意味ナイスタイミング過ぎて嫉妬さえおぼえそう。


「このまま帰るのも馬鹿らしいし、会う約束はしてないけど、美海みうんとこでも行ってみるかな。あいつも今日は講義無いはずだし」


 美海は大学に入ってから出来た俺の恋人。付き合いだしてもう少しで1年になる。付き合い出した頃には1周年の記念日には一緒に旅行に行こうなんて話をしていたけれど直前になった今でもその旅行は予定さえまだ立てられていない。


「そうだな。1年記念の旅行の話でもしに行こうかな」


 美海の部屋に向かいがてら旅行代理店のパンフレットを目的地の国内外を問わずに集め期待に心はずませる。



 電車で10分、そこから歩いて数分のところに美海の住んでいるマンションがある。一人娘らしく甘やかされているのか俺の自宅より数段階も建築物のグレードが高そうだ。

 俺は合鍵を持っているのでオートロックも難なく通り抜け、美海の部屋のある4階までエレベータで上がっていく。

 手土産に買った2リットルのジンジャーエールは重いが、美海の大好物なのでこのサイズがマストなんだよね。


 4階の角部屋405号室が美海の部屋。いつものように合鍵でロックを外して部屋に入る。


「ただいまぁ~って、あれ? いないのか」


 いつものように訪問の挨拶をするが応答がない。リビングでゴロゴロしているのが美海の日常なのだけど、1LDKのリビングには美海の姿はないようだった。


「上がって待つか」


 靴を脱ごうと下を見ると見かけない靴が一足。ブルーのスニーカーでサイズはどう見ても27センチはありそう。美海は足がちっちゃくて23センチしかないから、100パー美海の靴ではない。


「……どういうことだ?」


 一瞬無になったときに奥の美海が寝室にしている部屋からくぐもった喘ぎ声が聞こえてきていることに気づいた。


 一気に鼓動は早くなり、嫌な汗が額や背中を流れていく。

 俺は靴を脱ぐのも忘れて下足のまま声のする寝室に向かう。部屋のドアに近づくにつれ、喘ぎ声は大きくなりその声が美海であることもはっきりと分かるようになってきた。


「嘘だよな……。どうせひとりエッチしているだけだよね……」


 どう足掻いてもひっくり返ることのなさそうな事実を俺はまだ認めたくない。

 次第に大きくなる声に抗いとうとうドアのノブに手がかかる。躊躇するとそのまま回れ右して帰りたくなってしまいそうだったので握ったノブを一気に引いた。



 そこにはベッドの上に全裸のまま抱き合う美海と友人の荷葉正志かようまさしがいた。


「お前ら……」


 絶句してしまい言葉も、うめき声さえ出ない。


 道理で正志が今日の講義を最初から休みにしていたわけだ。こうやって俺という友人の恋人を寝取るためだったとは。

 ……いや違うな。どう見ても今日のきょうで初めて寝たという感じには到底見られない。ずっと前からこの関係はあったのだろう。

 知らぬは恋人であり、友人である俺だけってね……。


 もういい。この際NTRでも二股でもどうでもいい。


「え? 理来りくくん……どうして」

「か、か、神崎かんざき!? なんでおまえがっ、講義はどうした?」


 なんだコイツら。

 自分たちがナニしていることよりも俺がなんでここにいるのかの方が最初に来るのか?


「俺がここに来て何がおかしいってんだよっ!! てめぇら何やってやがるっ」


 俺は一気に怒りが込み上がってきて手に持っていたペットボトル入りのコンビニ袋を正志に向かって思いっきり投げつけた。


 ゴッ! という音ともにペットボトルは正志の顔面にヒットした。正志は鼻血を吹き出しながらベッドに沈む。

 当たった拍子にペットボトルの栓が弾け飛び吹き出したジンジャーエールはベッドの上で蹲る美海の頭から注がれる形で浴びせかけられた。


 美海は何か言おうとしていたようだが俺が怒りから聞く耳持たずに立ちつくしていたので諦めたのか俯いたまま口を閉じていた。

 せめて何か言い訳でもしたらこれ以上ないほどの罵詈雑言を延々と聞かせてやるくらいは出来たのだろうが。


「二度と俺の前に現れるな。何か余計なこと言うようなことならばこれを証拠にさせてもらうからな」


 先ほど部屋に入ってすぐにスマホで写真を1枚撮った。二人の顔と何をしているかだけはわかる一枚だと言えるだろう。


 俺はこれをばらまくつもりもないし、これでこいつらを脅そうなど言うつもりも全く無い。そもそもそんなことしたら俺自身の恥でしかないからな。

 最後に美海の部屋の合鍵をベッドに放り投げて俺は部屋を後にした。もうあれ以上あそこにいたら俺自身が何をしでかすかわからなかった。





 部屋を後にして暫くは怒りからか気持ちが高揚していたのだが、自宅に近づくにつれ段々と落ち着きを取り戻し、部屋に入る頃には逆にこれ以上ないくらいに落ち込んでいた。

 なにせ恋人も友だちも一度に失ったのだ。正気でいられるわけがない。

 帰宅途中で美海も正志もラインと電話をブロックしたので一切俺のココロを余計に乱すことはないが、いろいろと自分で考え込んでしまうと闇深い精神状態に落ちていってしまいそうだ。


『たすけて』

 自分でも無意識でスマホにそう打ち込んでいたみたいだった。


 メッセージを送ったのは幼馴染の宇土凛子うとりんこ。小さい頃から何かあるとお互いに忌憚なく話せる間柄だった。



 眠くはなかったはずだが知らない間に眠っていたようだ。たぶん精神的に限界に来ていたようで気を失うように眠りについてしまったのだろう。

 時間を確認しようとスマホを手に取るとラインのメッセージが20件以上入っている。はや美海かと身構えてしまったがブロックしたのをすぐに思い出して肩の力を抜いた。


「凛子か。なんでまた20件も?」


 トーク画面を開くとどうやら俺が先に余計な一言を入れたようだった。


「完全に記憶がないな。無意識って怖い」


 俺が「たすけて」と打ち込んでから3時間くらい経っていた。外もすっかり暗い。凛子からのリプはだいたい最初の30分から止まったまま。いい加減返事がないから呆れられたのかもしれない。


「うーん、どうやって説明しよう。これだけ見るとなんとなく深刻そうだもんな。いや、実際に深刻なのは間違いないけど」


 とはいっても他人から見れば情けなくも彼女とはNTR別れで、ついでに友だちもいなくなったと言うだけなのかもしれないけど。所詮は他人事ひとごとと言うことだろう。


「寝ぼけていただけだから気にしないでとでも送ればいいかな。でもなんか嘘ついているみたいで嫌なんだよな……」


 スマホとにらめっこしていると玄関ドアが突然ガンガンと叩かれた。


「うおっ、ななな、なんだ!?」


 もうノックというよりも強打と言っても過言でないくらいの勢いである。借金取りもかくや、ってな感じといえばわかるだろうか。

 恐る恐るドアスコープを覗くとそこには見慣れた女の子が一人。


 凛子である。


 慌ててドアを開けると一気にドアを抜けて凛子が部屋になだれ込んでくる。いや一人だけどなだれ込むがまさにそれだった。


「理来! 何があったの!? 無事? 大丈夫なの? ほんと何があったの?」


 すごい勢いで詰め寄ってくる凛子。

 こちらの話す余裕さえ与えてくれなさそうな感じ。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った。話すから。ね? 大丈夫。俺は平気だから。先ずは凛子のほうが落ち着いて?」


 凛子はふーふーと肩で息をしているようで興奮状態にあるみたいだ。これじゃインターホンのボタンは押せなくても仕方ないか?


「平気って何処が? あんなメッセージ送ってきたこと一度もないじゃないっ! 返事だって全く無いし」


「それはごめん。無意識でメッセ送ってその後寝落ちしていたみたいなんだ。ほんとごめん」


「ほんとに、ほんとに大丈夫なの?」


「完全に大丈夫かと聞かれると胸張って大丈夫とは言えないけど、なんとかね。それよりなんで凛子がここにいるの? 実家からここまで来るのに優に3時間は超えるっしょ?」


 田舎にある実家からこの部屋までは普通に公共交通機関で来ると3時間から4時間はかかる。なのに凛子はなんでいるんだと単に疑問に思ったから聞いてみた。


「何言ってるの! あんなメッセージのあと音信不通になれば心配になるでしょ! 新幹線まで使って超特急で来たんだよ!」


「えっと、非常に申し訳ございません……」


 正座して平謝りで許しを請う。


「理来がなんともないならいいけど……。今日は泊めてよね。もう時間的にも帰れないから」


「分かった」


 実家までと考えるとこの時間でももう厳しいのは確かなので余計なことは言わない。凛子なら泊めるのも問題ないだろうし。


「あとちゃんと話を聞かせて」

「それも了解です」





「――――ということが今日あったんだよ。ひどい話だろ? で、俺も精神的にだいぶ参ってしまっていたらしくあんなメッセージを凛子あてに送ってしまったというのが最初で、その後急激に意識レベルがダウンして倒れるように寝てしまったのがこの結果です、はい」


「うん、そういうことなら仕方ないと思う。無事ならば何も言うことはないよ。だから理来は何も悪くない」


「凛子……ありがとう」


「が。がっ!」


「が?」


「その女とその男は許さない! あたしが今から乗り込んでぶっ飛ばしてくるっ」


 凛子は拳を握りしめてフンッと立ち上がって今にも部屋を飛び出していきそうな勢い。頭から湯気が出ているんじゃないかってくらいに怒っていらっしゃる。


「まぁまぁ、落ち着いてくれよ。そもそも凛子はあいつらが何処にいるかさえ知らないだろ?」


「じゃあ教えなさいよっ」


「いやいやいや! 凛子は行かなくていいからっ、ホント俺の中では凛子に話したことで案外とスッキリしたからもう大丈夫だって」


 凛子は子供の頃空手を習っていたので引退している今でもなかなかの破壊力ある拳を打ち出すであろうことは先程のドアノックからでも容易に想像できる。故に奴らの命があぶないのでゼッタイに居場所は教えられない。

 それに嘘や誤魔化しではなく本当に凛子に話したことで俺の中で渦巻いていた悔しさとか悲しさ、その他諸々の負の感情も過去のもののように感じて落ち着いてきたのは確か。遠方から俺を気遣って駆けつけてくれる幼馴染の存在が大きいのは間違いないけど。


「……なら、いいけど。でも何かあればわたしにちゃんと話すんだよ? わたしは理来のためだったら何処にでも駆けつけるからね」


 そう言うと凛子は俺のことをそっと抱きしめてくる。自然と俺も凛子のことを抱きしめ返していた。

 こうするのは何年ぶりなんだろう。中学生、いや小学生の頃ぶりのような気がする。

 なんだろう。すごく心地よくて今までにないくらいに安心する。


 不意に俺の居場所は美海みたいな女のところじゃなくてここなんだって直感的に理解した。

(え? もしかして俺って凛子のこと……)




 凛子と俺は北関東の小さな町で育った。

 彼女と俺の家は隣同士でそれこそ生まれたときからの幼馴染なんだ。

 町の規模が小さいゆえ、保育園から中学まではずっと一緒のところに通うことになる。高校からは残念ながら別々にはなってしまったが、ほぼ毎日顔を合わせていたので【離れた】とは一つも感じることもなかったと思う。


 家族同然の付き合いが変わったのは俺が大学に入学したところから。凛子が地元の大学に進学したのに対して俺が選んだのは東京の大学。

 当然距離的な問題から実家からの通学は不可能だったので東京――実際は埼玉――での一人暮らしが始まる。


 都会での生活の当初は右も左もわからず、文字通り右往左往することばかりだったが慣れてくると田舎ではあり得なかった遊びもいろいろと覚えるようになった。

 そんななかで気が合ったのが正志であり美海だったんだ。そういう感じだったので美海との距離が近くなりやがて恋人となるまでにはさして時間はかからなかったと思う。

 後から冷静に考えると仲良し3人組なんだから裏で正志と美海が関係を持っていたとしても何ら不思議ではないかもしれない。好悪、良し悪しとは関係なく。


 こういうことがあって、長らく切れることなく続いていた凛子との関係性も薄らいでしまっていたのは否定できない。

 それでも凛子は俺の情けないピンチなのにも関わらず親身に俺のことを気遣ってくれている。

 俺は完全に選択を誤っていたようだ。




「コンビニ行ってくるけど、理来はなにか必要なものある?」

「俺も一緒に行こうか?」

「いいよ。すぐそこでしょ、一人でさっさと行ってくるよ」

「まぁいいけど。俺は特に無いかな。凛子は何買ってくるのさ?」

「……着替え、よ」


 慌てて出てきたから着替えはさすがに持ってこなかったもんな。寝るときのシャツぐらいは貸せるけど下着は無理だしね。


「そういえば飯、まだだったよな。簡単なもの作るから、ビールでも買ってきてくれ」

「おっけ。適当に見繕ってくるよ。行ってきます」


 凛子が出かけたところで俺も夕飯の用意を始める。一応2DKでキッチン設備がまともなやつ、で選んだ部屋なので自炊はなんとかやっていけているくらいには俺も料理ができる。

 処分品価格のカット野菜と豚こまで肉野菜炒めをぱぱっと作り、フライパンが空いたところに卵を流してオムレツも作る。


「汁物も欲しいよな。味噌汁でいいか」


 湯を沸かし、顆粒だしを入れたら火を止めて味噌を溶く。すっかり味噌が溶けたら乾燥わかめと細切れになった高野豆腐を投入して味噌汁は出来上がり。

 ここまで包丁一つ使っていないけど料理的には多分美味いと思うので問題は皆無だと思いたい。ご飯は今朝炊いたのがまだたっぷりあるのでこれにて夕飯作りはおしまい。

 凛子が帰ってきたら先ずは飯からだな。




「ごちそうさまでした。簡単って言う割には理来の料理はやっぱりいつも美味しいよね」

「久しぶりだからそう思ったんじゃないの? 今日のなんて適当も良いところだよ」


 高校生の頃までは少なくとも週に1度はうちに来て俺の料理を食っていた凛子だからそう思うのだろう。


「1年ちょっとぶりだもんね。理来になかなか会えないのは寂しいよ……」

「ごめん。今後はなるべく帰れるときは帰るようにするからさ」

「本当に?」

「ほんとに。それ以外でも凛子には連絡いっぱい入れるから。今日みたいに心配なんてさせないよう気をつけるよ」


 今日のは冗談抜きで大失敗だった。でも、そのお陰で今目の前に凛子がいるわけで……。あのバカ二人にも1ミクロンくらいの感謝を。


「洗い物しちゃうからその間にシャワー浴びちゃって。着替えは申し訳ないけど俺のシャツでいいよな? あと洗濯機も使っちゃって」

「洗い物くらいはわたしがやるのに。でもお言葉に甘えるね。洗濯は理来のと一緒に洗ったほうが効率的だしそれでいいよ」


 俺のパンツと一緒に洗ってもいいって……今更か。過去には風呂も共にした仲だもんな。ま、過去も過去で小学生の低学年までだけど。なので冗談で――。


「久しぶりにお風呂も一緒に入る? 効率的だよ」


 なんて言ってみたんだけど。


「……いいよ」


「! あ、えとなんて? 洗い物の水音で聞こえなかったよ」


「なんでもない! …………意気地なし」


 最後の方は聞こえなかったけど、「いいよ」の言葉は聞こえていた。まさかとは思うけど、凛子もまた俺のこと……とは、さすがに都合が良すぎるかな。



 凛子がシャワーを浴びている間に寝る準備もしておこう。といっても、予備の布団なんてうちには無いからキャンプのときに使ったシュラフを納戸から引っ張り出して終わりなんだけど。


「凛子がベッドを使って俺はこっちの部屋でシュラフ使って寝ればいいよな。銀マットも何処かにあるはずなんだけどな……見つかんない」


 シュラフがあっても床直は辛そうなのでせめてものクッションにと探すが何処にも銀マットは見つからない。


「あ……思い出した。あれ、正志が使いたいって言って貸したままだったんだ」


 よりによってあいつに貸したなんて。この期に及んで何処まで俺に迷惑を掛けてくるんだか。仕方ないのでとりあえず諦めることにする。



 ガチャリと言う音とともに凛子が風呂場から出てくる。

 濡れた髪に俺の渡しただぶだぶのTシャツをすぽっと被って着ていて、シャツの下からは真っ白な長い脚が二本すらりと伸びている。その色香に思わず視線を外してしまう。


「ど、ドライヤーは洗面台の左に掛けてあるから」

「久しぶりなんだし、理来が乾かしてよ。良いでしょ?」


 そう可愛らしく強請られると嫌とは言えない。大人しくドライヤーを受け取るとダイニングの椅子に座る凛子の後ろから熱風を当てる。


 暫く二人とも無言のままドライヤーからの轟々という音だけが部屋の唯一の音となる。

 凛子の髪は高校3年生の頃よりもずっと長くなっていてとても綺麗だった。指通りもよくずっと触れていたいと言う気持ちが溢れ出てきて止めるのに苦労を要した。


「……終わったよ」

「理来……」

「なに?」


 凛子は前を向いたまま俺のことを呼ぶ。俺は凛子の言葉を聞こうと彼女の顔を覗き込むように顔を近づけた。

 直ぐ側まで近づいたところで凛子が不意に顔をこちらに向け彼女の唇を俺の唇に重ねる。

 驚きはしたが、俺の方から離れようなんて一切思わなかったし寧ろもっと強く彼女を欲する気持ちが昂っていくのを感じていた。


 やがて俺たちは互いに激しく求めあう。キスだけではもう止まれなくなっていた。


 凛子をベッドに誘うとそのまま彼女を押し倒す。


 凛子は先ほどコンビニに行った際にゴムも買ってきていたようだった。俺のうちにもゴムはあったが、

「あの女と使う予定だったものなんか使ってほしくない」

 とのことだったので燃やせるゴミの日に捨てることにした。




 凛子は初めてだったらしく無理はしていない。可愛らしい凛子をこれ以上無いくらいに愛して可愛がっただけだ。


 落ち着くと狭いシングルベッドに二人で抱き合いながら寝転ぶ。


「ねぇ、理来。わたし、じゃ駄目かな?」

「駄目とは?」


「理来の彼女」

「凛子こそ俺でいいのか?」


「わたしはずっと理来が良かった。理来に彼女が出来たと聞いたときはいっぱい泣いたんだからね」

「……ごめん。あのさ、凛子」


「うん」

「俺も凛子が俺の彼女になってくれたらと思っている。もう絶対に泣かせないから」


「約束してね」

「もちろん」


「大好きだよ」







 追伸:

 あれから数ヶ月。美海はたまに校内で見かけるが可愛らしかった頃の面影も薄く、見事なほどに落魄れていた。いつも一人でいるのでどうも友だちがいないように見える。

 また一方の正志も同じようにいつも目の下に隈を作って講義室の隅っこのほうで小さく丸まっているのを見かける。

 そこに俺とのことが影響しているかは知らないし興味もない。

 そのうち二人とも大学を去るのではないかな、なんて思うけど俺にはもう関係ないしね。

 俺の方は凛子との交際も順調だし、大学でも新しい友達がたくさんできたので充実したキャンパスライフを送らせてもらっている。安心してくれ。

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