第三五話 Steel of dignity (2)

『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#G〟に接続完了』

 モリガンの跳躍制動を補う段取りを終え、俺は第一四艦隊の動向に意識を向けた。

『連合艦隊接近中。当宙域到達まで、およそ一五分』

 もはや猶予は幾許いくばくもない。

『帝国艦隊の突撃破砕線を推定……完了。当該宙域を能動探査』

 予想通りだった。敵本陣への路半みちなかばには、機雷が敷設してあった。連合艦隊が敵本陣への直進コースを取った場合、その真横から攻撃できる位置に、伏兵ふくへいが再配置されている。

『スカイ・ゼロ艦隊へ関連情報伝送。軌道修正をリクエスト』

 宙戝たちを袖にした要塞ご一行は、量子重力航法を止め、既に減速工程に入っていた。

(あとは狙った処へ……着弾させるだけだ)

 責任重大の終末誘導だ。ダンスカー艦隊中枢AIたちが鎮座ましますスカイ・ゼロを、直接ぶつけるのだから。


『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』

 急ぎ、モリガンへと意識を戻した。関連プログラム群の作動ログで、現状を把握する。

「跳躍解除五分前です。……ご武運を」

「うむ」

「……跳躍って、いくさだったかなぁ?」

常在戦場じょうざいせんじょうです。舌をみますよ?」

「……ほう?」

 彼女らには耳慣れない表現を、うっかり使ってしまったかもしれない。ガゼルに生命を救われて以来、発言の自由度が増した気がしている。

「跳躍解除用意……」

 二人の女性が身構える気配がする。俺とガゼルも準備完了だ。

「今!」

 光景が極彩色の跳躍航行から、通常の時空間へと瞬時に移り変わる。

『跳躍解除シークエンス開始』

 ログを合図に、俺とガゼルが作業を始める。帝国母星系アイタルの主星は、アルデバランの如き赤色巨星だった。それを頭上に拝むように、艦首を引き起こす。まずは先刻同様、減速スイングバイだ。

『注意。空舵そらかじ過熱』

 熱い熱いと、艦首を起こす補助推進機サブスラスターが泣いている。すかさず、ガゼルがフォローに回った。

放熱機ラジエター、最大稼働。非常用給電装置、最大稼働』

 放射線を電力に変換する装置が、艦艇には標準搭載されている。恒星は放射線の塊だ。過重労働中の冷却装置へ、最大限の給電を行った。

『注意。艦表面温度上昇中』

『注意。ハイパードライブ、過給圧上昇中』

 主推進機メインスラスターとドライブの間には、仕切弁バルブがある。その開度を、ガゼルが慎重に調整していた。過給圧が高まれば、過熱や暴発のリスクが生じる。正確な計測や操作は、に任せるのが一番だ。

慣性制御Gアシスト、プログラムモードへ移行』

 予定の軌道に艦が乗る。俺は艦を亜光速で滑らせながら、極めてゆっくりと艦首を左へ振り始めた。

「わわわ……」

 上ずるエシルの声が、Gの変化を告げていた。仮設のハイチェアは横揺れに弱い。が、辛抱してもらおう。

(あとは正確な転舵てんだと慣性制御を続けるだけだ。頼んだぞ、ガゼル!)

 全長約四キロメートルのモリガンは今、進行方向に対して右側面を向けつつあった。そのまま滑り続ける行く手には、このアイタル星系第四惑星と、その衛星軌道上を周る帝国首都港アモルが在る。


『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#G〟に接続完了』

 モリガンの操艦をガゼルに託し、俺は意識を再び第一四艦隊へと向けた。

『連合艦隊接近中。当宙域到達まで、およそ五分』

『オールブ方面警戒、最終確認……敵影観測できず』

 観測に励むこのアフィニティ級電子巡航艦は、眼下に帝国艦隊を捉えていた。

『誘導信号、発振』

 スカイ・ゼロを着弾させるポイントへ向けて、俺は誘導レーザーの照射を始めた。

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