第三四話 Steel of dignity (1)
『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』
スカイ・ゼロを無事に送り出した直後、意識をモリガンへと戻した。俺がその場を離れている間は、各種マクロ群が操艦や応答を行っている。現場で知覚するより解像度は落ちるが、マクロ群の作動ログが状況を俺に教えてくれていた。
☆
「パドゥキャレの諸君、準備はよろしいか?」
『『応ッ!』』
スカーの呼びかけに、商う武人たちが応じる。
(頼むぜ、スカー!)
主従で無ければ、こんな言葉を投げかけたい。今、この場を最も理解しているのは……彼女だと信じている。あっという間に結束した武人たちが心底頼もしく、それを為し得た我が主が誇らしく思えた。
『ハイパードライブ、阻害電波を検知』
システムログの表示と共に、警告音が鳴った。
(何をするッ!)
こちらのハイパードライブ損壊を狙った、悪質な阻害電波照射だ。立腹しつつも、帝国哨戒艦隊の蛮行を記録に収める。
『貴様を領域侵犯の不審艦として……』
〝逮捕、拘束する!〟……とでも続くであろう宣言は、その半ばで掻き消された。
エスカレーターを下るような挙動のモリガンから、パドゥキャレ艦隊が一斉に垂直離艦したのだ。モリガンの艦尾
『貸しておくぞ、
ジム代表が余裕たっぷりに告げてきた。……
「ハイパードライブ起動」
スカーがそう宣言し、ドライブが
「取り立てに来てくれ。楽しみに待っている」
『ぬかせ!』
短いやりとりを交わし、ジム代表……いや、戦友ジムに心からの感謝の念を
(AIではなく、人間として扱ってくれて……ありがとう)
「発、アイセナ王国王太女エシル・アイセナ。宛、哨戒艦搭乗員諸君」
哨戒艦隊に電子妨害がかかったタイミングで、エシルが堂々とした通信を始めていた。
「我は停戦の使者なり。貴国本拠への
この通信は、近くを航行している一般艦艇へ聞かせたものだろう。哨戒艦隊は今、電子妨害の真っ
(宛が〝哨戒艦隊提督〟ではないところがミソだな)
そんな感想とともに、ハイパードライブの
「……三、二――」
スカーが跳躍のカウントダウンを読み上げる。それが完了する、まさにその寸前だった。
『警告。ハイパードライブ損傷発生。緊急停止不能』
「「……ッ!」」
――何ッ!
時既に遅く、施し
「さて、どうする?」
スカーが水を向けてくる。
「現在、損傷箇所を特定中です……特定完了。
悪い報告ほど、早く正確に行うべきだ。まずは事実を最優先で。
「跳躍中はシステム変更を控えるべきです。二次災害の恐れがあります」
然る後に意見を伝える。この順序で伝えることが、円滑な危機対処の
今はボクセルシステムでの修理は行うべきではない。跳躍航行に目一杯、エネルギーを割いている為だ。
「不足する制動力を補う、跳躍解除シークエンスを構築中です……」
俺の操艦経験とガゼルの情報を、高速で
「構築完了。こちらになります」
スカーが速読し、エシルが仰天する。
「面白い。やり遂げてみせよ」
「……この機動を、ここで耐えるの?」
不動のスカーと動揺のエシルが、見事に対照的だ。
「ええ。しっかりと、
俺はエシルに念を押す。我ながら酷な話しをしているが、既に
「人を粗末に扱う帝国の、度肝を抜いてやりましょう」
ブルート星系の民に、人の尊厳を取り戻させる。覚悟と決意の示威行動を段取りした。
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