第二九話 システム再起動

『許可無く私に直結するとは、不埒ふらちな真似を……ッ』

 己の運命を悟った。

『覚悟はできておろうな?』

 ――ああ、やってくれ。俺は俺をまっとうできた。

 これでスカーがAIガゼルを再起動すれば、俺の意識は無くなるだろう。……ここから先の行動計画は取りまとめた。再起動直後のプロセスと連動して示唆するよう、マクロを仕込んである。後の事は、正気に戻ったAIガゼルに託そう。きっと巧くやってくれるはずだ。

『メインシステム再起動準備。実行まで一〇秒』

 ――ガゼルのログもこれで見納めだな。……んじゃ……な。

 俺は微睡まどろみ、そのまま意識を手放した。


『メインシステム、再起動完了』

(……)

『AIガゼル、ノード〝スカイアイル#A〟、セクション〝スカイ・ゼロ〟に接続完了』

(……)

『AIガゼル、メインAI■■■■に装填ローンチ完了』

(……ぅごッ!)

 仰向けに寝ていた腹を踏まれたような、衝撃と苦痛を感じて眼を覚ます。

『AIガゼル、オーバークロックモード発動準備。実行まで一〇秒』

『AIガゼル、ボクセルシステム起動準備。起動まで一〇秒』

 ――ここは要塞の管制区画?

『お望みのバックアップだ。……三分間だけくれてやる』

 いつも以上に凍てつく怒気を耳にした。かすむ頭がえ、現状把握に努める。

 のこしたAIガゼル向けマクロが、何故か俺に向いている。当のAIガゼルは俺に向けて、しきりに何かを連呼していた。

(?? ブレイスかまえろ?)

『証明せよ。この私に』

『AIガゼル、オーバークロックモード発動』

 ――ぅおわぁッ!

『AIガゼル、ボクセルシステム、起動完了』

 その瞬間、理解した。俺はガゼルに生かされ・・・・、新たな債務を負ったことを。

 コルツ奪還作戦を、思い浮かべていた。あの時はスカーの手引で、メインAIの間接的な支援を受けることができた。暗号解読シングルタスクへの処理効率が向上したのだ。俺が今からやるのは、その上位互換だ。


『タスク設定その一、星系間航宙母艦開発』

『ダンスカー艦隊保有艦艇データベース照合……完了。流用可能データ、該当一件。関連諸元入力完了』

『量子演算、開始』

 ゼロとイチの入れ物に、ありったけの想定諸元シミュレーションがそのまま詰め込まれた。それらが総当たりで掛け合わされ、同時進行で検証されていく。


『タスク設定その二、要塞スカイアイル始動準備』

『航行目標設定、アモル帝国第一四艦隊駐留宙域近傍』

『設定航路、検証開始』

 少し早いが、ディセアとの約束――〝母艦〟のお披露目――を果たしに行こう。


 その他、大小様々なタスクを設定し、同時処理を走らせ続けた。与えられた実時間三分間を……使い切った。

『AIガゼル、稼働限界に到達。……再起動準備。実行まで■■秒』

『メインAI■■■■との直接接続が解除されました』

 自分史上もっともストレスフルな、永遠とも思える三分間が終了する。ディセアを引き止め損ない、失ってしまった時間的猶予を、スカーのバックアップで取り戻せた。だが……。

(ガゼル! 動け! 動けなくなってから本番だ! 俺たちはそうやって、ここまで来ただろ!)

 熱ダレしたAIガゼルの腹の中から、もっと熱ダレした俺がわめく。を必死に起こそうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る