第二一話 戦の行方
オールブ攻略を終え、ディセアたちがロンドに戻ってきた。ごく少数の艦艇での帰還だ。俺は一抹の不安を覚えながらも、ロンド港内の会議室に皆を受け入れた。
「まずはこっちの状況から話そうか。ベルファ、お願いね」
「
ベルファが投影型情報共有端末を操作する。映像記録でオールブ攻略戦の推移が示された。……彼女らが到着した時点で、オールブは
オールブの外観はコルツなどと同様の、小ぶりな円筒型宇宙港となっている。しかし、内部は完全に軍事基地化されているようだ。
「物資やデータを破壊した形跡がありました。オールブ残存部隊は、第一四艦隊との合流を優先したと思われます。オールブの設備は一部が機能しなくなっており、工兵隊と歩兵隊に復旧を命じています」
映像記録を観る限り、ベルファたちは入念にオールブ内外の警戒を継続中だ。無人のオールブを餌にした
「我々の主力はオールブ周辺で待機中です。今回は補給艦隊を連れ、一旦戻ったところです」
「ロンドの
なるほど、少人数での帰還となった経緯は
(ますます、機械歩兵を使いこなす必要が出てきたか……)
ロンドの治安は悪化の一途を
「そうか。では、ロンドの状況についても話そう。エシル、頼むぞ」
「承知しました」
スカーに
「オールブでは一戦も交えて無いからね。……誰も下がりたがらないだろうなぁ」
「さりとて、ゴード隊の謹慎を解くのは
オールブ攻略へ赴いた二人の言い分も分かる。が、ゴードに関しては別な問題もあった。
「……ロンドの治安維持に関して、ゴード隊の起用は危険と私は判断しています」
俺は
「ったく、あの子は……」
ディセアが
「かの者は、私との再戦を望んでおる。随分と威勢が良い。されど……将の器としては、どうであろうな?」
スカーが不敵な笑みを浮かべている。
「痛いところを突いてくるねぇ」
「たしかに、将としては
話しを濁そうとするディセアとは対照的に、ベルファの評価は
「今後の為、ゴードについて教えて頂けますか?」
俺は好機とみて、二人に水を向けてみる。
「あの子はごく最近、
「第九艦隊追撃戦の折、ゴードの父は討ち死にしたのですよ」
衝撃的な回答を前に、どう反応すべきか迷う。
「
「気に病むことでは無いわ。死は異界への門出、武名はその
「そうそう。アタシらはもともと、戦いが
彼女たちの言葉には、虚勢や気負いのようなものは感じられない。ごく自然に、死や戦いを受け容れている様子が見て取れた。
「だけど……アタシらのこれが、今の人手不足を招いたとも言えるの……」
悩ましげにディセアが漏らす。
「
「ま、そんなところ。今じゃアタシら親世代の男手がすっかり減って、子らが背伸びして戦ってるの。
スカーとディセアの会話を聞き、俺は絶句する。言われてみれば御前試合の時、観衆は年若い男声が多かった。ディセアたちは俺の想像以上に、厳しい戦いを始めたのかもしれない。
(これは……徹底抗戦より、早期講和を目指すべき状況なのでは……)
帝国は周到に侵略を進めているように見える。対して連合は、軍勢としての統制が取れなくなりつつあるようだ。こんな状態で長期戦は、どう
今後はスカーを守る規約と、エシルを守る契約が、せめぎ合うことも有るかもしれない。資源獲得も滞り気味だ。俺は今一度、利害得失を見極める必要を感じていた。
「……ディセア。
「おや、改まって何かな? ガゼル君」
彼女は堅っ苦しさを嫌う。しかし、質問する内容が内容だ。俺は敢えて改まる。
「貴方はこの
話し上手なディセア相手に、言葉で駆け引きはしない。込み入る状況を整理したい一心だった。
「私の演算結果では、帝国とは講和締結が妥当と出ています。一方で、連合と帝国との間で深刻な対立があることも確認済みです」
意外なことに、ディセアはにこやかな表情を崩さなかった。ここから先は思い込みや憶測を極力排除したい。俺は慎重に言葉を選び、踏み込もうとする。
「我々と貴方たち、どちらにも良い終わらせ方となるよう、貴方の真意を聞きたいのです」
ここで何も言わないのであれば、このまま講和締結の方針で動く。互いに態度をはっきりさせよう。……俺はこの場の全員に対し、そう言外に意図を込めたつもりだ。
俺はディセアを見据え、彼女の回答を待った。
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