第一九話 取引
さて、ここから数日の動きを
『
ディセアたちからの電文だ。予定より少数の兵力だったが、攻略には成功したらしい。被害の程度や今後の作戦立案について、後ほどすり合わせるとしよう。
第一四艦隊はオールブから
『互換部品を発注したい。見積もりを求む』
目星をつけていた商人組合から、前向きな返信があった。提供済み部品とは別件で、追加の互換部品製造依頼つきでだ。値引き交渉を長引かせる暇は無い。初手から破格でブン殴る方針でいく。
大所帯なゴード隊の謹慎で、ロンドのドックが圧迫されている。そのぶん、一般艦艇からのドック利用料金収入が減っているのだ。
「
俺は主への報告を挟みつつ、連合と帝国の根深い対立を和らげる必要性を強く感じていた。今のままでは、停戦交渉もままならない。戦い続け、互いの痛手が増えれば尚更だ。
現在のロンドは、そこで暮らす
『エシルの操艦実地訓練を観てやれ。その間に機械歩兵の調整を進めておく』
『よろしくお願いします!』
居室からも指示が飛ぶ。大口の互換部品発注依頼に備え、
☆
『AIガゼル、ノード〝バーボネラ#E〟に接続完了』
システムログが刻まれる。ロンドに寄港したバーボネラ級五番艦の中で、俺は目を覚ました。さっそくエシルを乗せ、採掘場として使っている小惑星帯へと至る。
「巡航解除用意……今! 目標宙域へ到着を確認しました」
別働隊と合流し、情報を統合する。
「では、さっそく青星鉄採掘の実習といきましょう。制御権、委譲」
「制御権、掌握。砲門、開きます」
エシルが緊張気味に応じ、両肩コンテナ前面の大口径
「
俺の指示どおり、エシルが艦を左下へ向けていた。その先には揺れは小さく、
「
先ほどプロットされた鉱脈へ向けて、二門の大口径分解機が白い光を灯す。
「相対距離に注意。……慣れてきたら、小惑星の揺れに合わせて姿勢制御を」
「あいさー!」
調子づき始めたエシルに苦笑する。もっと調子づかせてみるとしようか。
エシルは採掘に慣れてきたようだ。指示出しを止め、鉱脈の選定から採掘までを通して実践させている。……彼女なりに、コツを
(そろそろ頃合いだな……)
エシルには、眼鏡型の
「
俺は敢えてログを音読した。エシルが
「制御権、掌握。……砲門閉め、急速離脱」
小惑星帯に対し、垂直に艦尾を向けて加速する。護衛の電子巡航艦二隻も一緒だ。襲って来た宙戝艦は、なおも発砲を続けて追い
「ハイパードライブ起動。……三、二、一、今!」
巡航で離脱する寸前、電子巡航艦に電子妨害機雷を射出させる。宙戝艦が電子妨害で制御を失う頃、別働隊が討伐に駆けつけることだろう。
ハイパードライブ機構は衝突事故防止の為、一定以下の重力下でのみ使用可能となる。小惑星帯の内部で、いきなり巡航や跳躍は行えない。離脱の為、一定距離航走する必要があるのだ。
「……緊急離脱はこうした手順で行います。覚えておいてください」
「サー、アイ・サー」
エシルの表情に悔しさが
『見積もりを確認した。発注を前提に会談したい。できれば急ぎで』
場所を変えてエシルの訓練を継続中、例の商人組合から通信があった。ロンド付近の宙域で先方と接触できるよう、宙域座標と到着予定時刻を伝えて帰路を急ぐ。
「巡航解除用意……今! 目標宙域へ到着を確認しました」
先方らしき艦影をひとつ確認した。それに対し、こちらは工作艦一隻と電子巡航艦二隻だ。数を頼みに脅しているようにも映り、わずかに気が
このブルート星系法に基づく艦識別信号規約で、お互いの所属を照会する。
『こちらパドゥキャレ
「こちらアイセナ王国特務艦隊。任務を遂行したまで。要件を聞こう」
暗号コードを交わし、音声で会談を始める。相手に合わせ、俺も堂々と口上を述べた。
『ああ、本題に入ろう。……貴艦隊の真意が知りたい。それが発注の条件だ』
気骨ありげな男声が、いきなり核心に斬り込む。エシルも艦橋で固唾をのんでいた。
『はじめに多少の損に目を
タダより高いものはない、と警戒しているのだろう。
「そのとおりだ。我々も貴組合に、大いに期するものがある。だからこそ、まずは十分な対価と信義を示すのだ」
彼らパドゥキャレ同盟の取引履歴には、彼らに敬意を示すべき傾向がはっきりと現れていた。品薄で高騰した時機に、敢えて適正価格で販売してきた実績が在る。目先の利益を求め過ぎず、社会に貢献する商いを大事にしているのだろう。……宙戝が
『信義、か。……
「課すのではない。借りたいのだ。貴殿らの販路と人脈を。貴殿らの力を」
『……ほう?』
「我らの
我ながら口幅ったいことを言っている。だがこれも、この
『帝国臣民として、聞き捨てならん発言だ』
沈黙で応える。今、語るべきは語り尽くした。あとは行動で示す機会を得るか否かだ。
『……だが、是非を問うには証が足りんな。……よかろう』
不意に電文が送られてくる。それは先に送った見積もりの返信として出された、正式な発注依頼だった。その桁違いの発注数に、一瞬
(ここで
青星鉄の備蓄ペースは落ちるが、まだ許容範囲内だ。俺は退かず、発注に応じた。
『貴公の信義とやらを、この契約で占わせてもらうぞ?』
「望むところだ」
契約を焦りすぎたかもしれない。だが、あのバッタ共への備えを急ぐ必要もある。俺も占わせてもらおう。彼らパドゥキャレ同盟の義心が、一体どれほどのものかを。
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