第七話 ボクセルシステム
『ガゼル。お主の判断で
王女殿下を居室に招いた我が主が、就寝前に通話でそう命を下してきた。
「了解。良い夢を」
寝食を共にする二人の安息を願い、
(さて……どっちの『戦支度』から始めたものか)
俺たちは二つの戦に備える必要がある。一つ目が、要塞スカイアイルを復旧させる為の戦いだ。そして二つ目が、これから起こすディセアたちの戦いだ。正直、二正面作戦をやるのは厳しい。だが、やらねばならぬ。AIガゼルの
(直近の問題は、影からディセアを助けること。できるだけ損耗を抑えて戦うとなると……)
装甲の素となる
(やはり……狙撃だな)
戦艦は装備換装し、採掘を代行する工作艦を新造する。エネルギー周りの艦設備――例えば、
『
ログが吐き出される。真後ろから撃ち降ろし砲撃を受けた。艦首を跳ね上げ、急速反転をかける。採掘中の為、既に砲門は全て開いていた。
『敵艦A、防盾喪失……撃破』
先に撃って当てた以上、言い逃れの余地は無い。襲って来た
爆発で飛散した宙戝艦の残骸へ向け、
(まるで捕食行動だな……)
分解機の白く
『こちらアイセナ王国輸送艦ウェイブニー、襲撃を受けている! 助けてくれ!』
急報の発信源へ向かい、巡航解除した。戦艦ラスティネイルの
輸送艦ウェイブニーは三隻の宙戝艦に襲われていた。……もう少し詳しく言おう。戦艦ラスティネイルには、アイセナ王国が発行する正規IDが
「
王国特務艦……ディセアから得た偽装用の所属だ。偽装してまで正規軍に組み込むなど、いろいろと問題がありそうだ。しかし俺たちにとっては、有り難い措置ではある。
『敵艦A、防盾喪失……撃破』
ログが流れ、宙戝艦を一隻撃破する。残りの宙戝艦が反転し、退避行動に移った。逃げ足の速さが実に宙戝らしい。ひとまず見逃す。今最優先でやるべきは、輸送艦ウェイブニーの安全確保だからだ。
『助かった。被弾で艦長が亡くなり、一時はどうなることかと……』
ウェイブニー乗組員からの通信が入る。おそらく副長だろう。地は快活な好青年を思わせる男声には、混乱と焦りが感じられた。ウェイブニーの左舷前方で艦を停め、
「ウェイブニー、通信出力を絞ることを推奨する。危機は未だ去っていない」
「ウェイブニー、巡航は可能か?」
『……いや、無理だ。ハイパードライブをやられてしまった』
襲撃前の巡航阻害で壊されたか。巡航無しでは最寄りの港に着く前に、乗組員が餓死してしまうだろう。巡航阻害を重犯罪や宣戦布告と見なす理由がこれだ。この広大な宇宙でハイパードライブを壊すことは、時として即死より残酷な結末をもたらす。
「保証はできないが、交換部品の手配を試みる。貴艦の
詳細走査とは、その艦の構造を隅々まで調べる行為だ。余程でなければ、まず断られる。下手をすれば、交戦の切っ掛けにもなり得る。
『賭けてみる。やってくれ』
「了解。詳細走査実行」
事前の許可を得て、ウェイブニーを詳しく解析する。問題なく走査できるのを確認した。そして切り札とも言うべき、とあるシステムの起動準備に入った。
『ボクセルシステム起動準備。起動まで一〇秒』
命令にシステムが応える。これは俺にとっては、現実離れした
(切り札をケチって死ぬなんてのは、本当に馬鹿らしいからな……)
そう自分に言い聞かせ、人助けにかこつけた動作テストに移る。
『ボクセルシステム、起動完了』
視界がグレースケールな仮想空間に置き換わる。輸送艦ウェイブニーの設計図が立体的に投影されていた。投影上のウェイブニーが、ハイパードライブ機構の機能不全を告げる。そこを注視し、ハイパードライブの状態を確認した。
損傷していたのは、安全装置のみだった。これなら大人ひとりで運べるほどの、サイズや重量で済むだろう。
『ハイパードライブ安全装置、復元実行』
戦艦ラスティネイルの収蔵管理システムに対し、輸送艦ウェイブニーのハイパードライブ安全装置の即時製造を実行した。
ボクセルシステムを終了させ、
「ウェイブニー、我に交換部品の備蓄あり。搬送する。艦倉を開けられたし」
小型ロケットのような作業用ドローンの腹に交換部品を持たせ、ラスティネイル底部の小型ハッチから飛び立たせる。すぐさまドローン先端のカメラに切り替え、部品配達先のウェイブニーの艦底部へ、ドローンを接近させた。やや間があり、ドローンはウェイブニーの底部艦倉へ吸い込まれた。
『ありがたい……これで帰れる。今、うちのメカニックが受け取った』
「了解。ドローンを回収。警戒を続行する。換装作業に着手されたし」
出張したドローンが帰艦し、暫くの後にウェイブニーも部品交換を完了した。
『ハイパードライブ、オンライン。……救援、感謝する』
「引き続き、貴艦の職務を全うせよ。健闘を祈る」
応急修理を終えた輸送艦ウェイブニーを見送る。……一応、しばらく彼らの動きを聞き耳で追っておこう。新手が襲ってくる可能性もある。
この救助でやりたかったことは二つだ。一つ目は、この星系の艦艇データ集めだ。それはたった今、初めの一歩を踏み出せた。そして二つ目は……。
(……)
眼前には交戦で生じたらしい、おびただしい残骸が散らばっている。その中には、護衛の任に殉じた王国艦のものもあるだろう。許可された
俺はせめてもの
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