第3話 初めて口をきいたらやっぱりイラつく奴
何日か出勤していくうちに、私は他の若いアルバイトたちのうち何人かと打ち解け始め、話をするようになった。
話をしていくうちに気付いたのは、最初学生アルバイトと思っていた彼らの多くが私とほぼ同い年の大卒フリーターだったことである。
2001年当時は就職氷河期真っただ中で、まともな就職口からあぶれた大卒の団塊ジュニアが巷にはあふれていたのだ。
だが、私はまさか学校を出てからこんなに大勢の同級生に囲まれて働けるとは思っていなかったのでうれしくなったのも事実である。
『続・青春時代』のようなこの環境でしばらくアルバイトを続けることに決めた。
半月くらいで私はアルバイトの若者たちの輪の中に自然と加わっていた。
年齢も近いし、就職がうまくいかなかったという境遇が皆同じだったためにすんなりと溶け込むことができたのだ。
また、皆かなり前からやっているのかと思ったが、つい最近になって入った者が多いのもうれしい。
その頃くだんの山北は別のおっさんアルバイトと話しており、私が加わった若者グループには近づいてこなくなっていた。
初日にムカつく態度をとられて以来、山北を要注意人物と認識した私は日ごろから彼の動きをマークしていたのだ。
そこで分かったことだが、奴は話しかける相手が社員だったり、入ったばかりのアルバイトだったり多岐に渡っていた。
物おじしない性格らしい。
そしてほどなく経ったある日、山北は私にも話しかけてきた。
それも休憩時間を利用して仮眠をとっていた私の頬をビシャリと叩いて。
「寝てたらあきまへんで」
休憩時間に寝てて何が悪いのか?
ヒトがせっかく気持ちよく寝てたのに結構強く叩いて起こしやがったのでちょっとムカついた。
私が「てめえ何しやがるんだ!」とキレるキャラではないことを見透かしていたのか、山北は悪びれもせずに一方的に話かけてきた。
「ジブン今、いくつ?」
「今年の三月で26になりましたけど、山北さんは?」
「大学卒業したばっか。今22」
こいつ四つも年下じゃねえか!
私はバイト初日に年下の奴からあんな態度とられてたのか!
これまでのオレが使ってやった敬語返せ!
しかも今もタメ口のままだ。
おまけに、その後の奴の話で分かったことだが、山北がここへ来たのは6月1日。
6月初旬くらいに入った私とそう変わらないのにあんなに偉そうだったのか!
だが、山北のまったくあっけらかんとした一方的なペースに乗せられてしまい、「どこに住んでいるのか?」「ここへ来る前は何をしていたのか?」などという質問に、寝不足にもかかわらず答え続ける羽目になった。
その日から私はよく彼と話すようになり、携帯電話の番号も交換したのだが、私の方から話しかけることはほぼなかった。
奴は意味もなく自信過剰で自画自賛が激しく、話もよく脱線する男だったからだ。
彼によると、自分は国立大学卒業であり、何でもうまくできる人間とのことで、ここの仕事など一日で慣れたと恥ずかしげもなく言い放つのである。
そして他人のことはよくコケにする。
入って間もない新人アルバイトをよくいびるし、私の就職活動や最初の会社での体たらくのことを話すと自分ならあり得ないと露骨に馬鹿にするのだ。
「俺なら内定の二つや三つぐらいすぐ取れるで」
「えらい自信だな。就職活動やったことあんのかよ?」
「そんなもんアホらしゅうてやらなんだ」
やってもいないくせになぜそこまで言い切れるかと聞くと「俺は天才だから」だと大真面目に答えやがった。
自分は喋りの天才で、どんな相手とも何の話でもできるし、何時間でも話せて、相手の心をつかむことができるんだそうだ。
それは天才のうちに入るのだろうか?
少なくとも私の心はつかめていないのではないか?
話しているうちに結構イライラしてくるのだが。
「で、何で就職しなかったんだ」
「目標があるからや」
その目標とは何か?と私は聞いたが、「アンタには教えへん」ともったいぶって教えてくれなかった。
ヒトの話は聞きたがるのに自分の話はしたがらないようだ。
それと、なぜ時々関西弁?
それはその後ほどなく、仲良くなった若者グループの一人から山北の目標とは何かを教えられて納得することになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます