第3話 電波話
毎度毎度思うが加賀は特に変わった容貌やファッションをしているわけではなく、むしろ真面目で堅物そうな普通の日本男に見える。
だが見かけに騙されてはいけないのだ。
「アレ?また陳さん?
加賀は開口一番残念そうな顔をして、サンチャットの女性講師の名前を出した。
今回も男の陳が担当であることが不満であるらしい。
那不好意思啦,但说白了我也不是特地喜欢和你打交道。
(悪かったな、でも俺だって好きでお前の相手してるわけじゃないんだ)
中国人の中では思ったことをはっきり言わないタイプの陳は心の中で毒づいたが、それはおくびにも出さない。
「すいませんね、また私で」
「アーア、媛とハナシしたいよー」
俺だって本当はお前とは話したくない。
それにこいつも媛に目をつけてたのか!いいおっさんのくせに!
人妻の林玉萍はともかく、キュートな顔立ちでモデル体型の山東省出身の女子留学生・何媛には陳も大いに気があったのでちょっとむかついた。
「ところで、加賀さん。先週おっしゃってたウチの講師の
加賀に媛の話をされると不愉快になってくるので、陳は話題を彼が興味を持ちそうな方面にそらした。
加賀は先週のレッスンで地球には宇宙人が何人も潜入しており、このサンチャットにも何人かいると真顔で主張。
彼によるとここの講師のうち、金が他の惑星から来た可能性が一番高いという。
「信じちゃダメ!プレアデス星人と朝鮮族、とてもよく似てル」
「そうなんですか?それは怖いですね」
ちなみに先週のレッスンがすべて終わった後の晩、陳は金も含めた講師仲間と食事をした際に当の金本人に加賀がそんな話をしていたと伝えたところ、シャレのわかる彼は「糟糕,没想到他都知道了!(やべー、バレるとは思わなかった!)」と冗談めかして答えていたが。
「ところで、加賀さんはイルカショーをご覧になったことはありますか?」
陳は話題がこの流れで異星人や二十六世紀についての泥沼に向かうのを避けるため、とっさに全然関係のない話を振った。
実は媛がイルカショーを見たいと言っていたのを小耳にはさみ、どこか関東でイルカショーを見られる場所を探し出し、彼女を誘おうと考えていたためにこのことが頭に浮かんだのだ。
超常現象の話されるよりはましだろうし、情報収集のためでもある。
もっとも、加賀がイルカに興味があるとは思えず、動物がらみで雪男などUMAの話題に引きずり込まれる危険性もあったが。
「イルカとても好きダ!」
意外だ。
生き物と言えば地球外生命体や未確認生物にしか興味がないと思っていた。
「イルカって頭が良くて芸達者ですからね」
「イルカ好き!食うとウマい!」
「それでね、イルカショーを見れる所近くに…、え?食う?ウマい?」
「イルカショー見るトコはオレ知らない。でも食べる店知ってル!」
不覚だった。
同じイルカ好きでもえらい違いだ。
そんな店に媛を誘ったら、ただでさえそっけなくされてるような気がするのに、蛇蝎のごとく嫌われるだろう。
そして陳が恐れていた新バージョンの「加賀ショー」が始まった。
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